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Re: 哀昧喪糊。−あいまいもこ− ( No.2 )
日時: 2015/02/20 21:41
名前: めろんそーだ (ID: lFtbIZgG)

「なぁなぁ____リュウ……琉翔」

汐が俺の肩を小突きながらけらけら、と喉を震わせて笑っている。その手を避けるように、小さく揺れてみたりしたが、彼の手からは逃れられないみたいだった。痛みを感じさせないのに強く抑え込む手が、何だか非常に気味が悪い___というのが俺の率直な意見だ。

青海 汐(あおみ しお)は、俺の数少ない友達だ。
気味が悪いとは言ったものの、爽やかな笑みは女子人気がある。目立たない俺に話し掛けてきて仲良くなったことは、奇跡のようなことで。

「何だよー……しつこい男だな」

愉快そうに笑う汐につられて笑顔になるのも、悔しいけどまた事実だった。

「何であっちのほうちらちら見てんの?
 なになに、好きな子でもいんのかー?」
「は、はぁ?」

素っ頓狂な声が飛び出す。本当に自分の声かと疑ったくらいだ。

そ、そりゃ何と言いますか、来栖さんといるとどきどきするけど……。
それはあれじゃないのか?
………友達として。仲良くなれるかな。
そんな気持ちなだけで……、恋愛感情なんて。

心の中で自分に対する言い訳をしながら、俺は汐の手をそっと触る。
汐は何を察したのか、真面目な顔つきになってその手を離していた。

「なぁ、汐。
 来栖さんっているじゃん」

一瞬首を傾げてから、「………うん?」と肯定とも否定とも取れないような曖昧な返事をされる。俺はそんなこともお構いなしに、誰にも聞こえない位の声で話し続けていた。
シリアスな雰囲気にしよう、とかそういうつもりじゃない。ただ、来栖さんのことをこいつに知ってもらいたいな、そう思っただけなのだ。

「あの人さぁ、ホントは凄く優しくていい子なのに、友達作らないんだよ。
 どうしたらいいと思う?」

汐は真正面から向かってくる相手に弱い。
それを知っている俺は、汐に助けを求めるような視線を送った。

しかし、俺の読みは全くと言っていい程、当たりはしなかった。

「………知らないよ?」

汐はきょとん、と首を傾げて席に座った。

「無責任な奴だなー、この俺がお願いしてやってんのに」
「え、だって本当に知らないし」

一瞬本当に知らないように見えたが、演技力の高いこいつだ。
きっと、自分で解決しろという、汐なりのメッセージなのだろう。そう思いながら、俺も席についた。


何故だろう、どうしても頭に浮かぶのはあのあったかい笑顔。
いくら頭を振っても、変人レベルに振っても、あの笑顔は俺の頭の中でふんわり揺れるだけだった。