コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 ① ( No.3 )
日時: 2015/05/04 14:01
名前: 詩織 (ID: .Gl5yjBY)

「わぁーっはっは!悪かったなぁ、ラヴィン。こんなとこまでこさせて。」

 ドンっと音をたててジョッキを置き、口元の泡をぬぐって豪快に笑うのは、ラヴィンの叔父、ジェイド・ドールその人である。

金色に近い明るい茶髪頭に、派手なバンダナを巻いている。
よく日に焼けた浅黒い肌に立派な体躯。
元冒険家だからか筋肉もしっかりついていて、商人というよりは海の男だ。

見た目は豪快。
しかしその人懐こい表情は、確かにラヴィンのそれとよく似ている。


これで剣も扱えちゃうんだからな〜商人って柄じゃないのよね、いつ見ても。
ラヴィンは心の中でつぶやく。

「もう!ほんとに心配したんだからね?おじさんのことだから、絶対大丈夫だろうって皆思ってはいたけどさぁ。」
ぶぅぅっとむくれて言うのは彼の向かいに座るラヴィン。

くくっていた髪は今は下ろし、肩にかかる赤毛がさらさらと揺れる。

「で?何がどうなったの?」
ラヴィンがジェイドに聞くと、
「まぁ待て待て。せっかくお前がこうして無事に着いたんだし、ゆっくり説明してやるよ。」
言いながら右手を高く上げる。
やってきた給仕の男にビールのおかわりと山盛りの食べ物を頼んだ。


 ここはラヴィンの目的地であった叔父ジェイドの店の近所の酒場。
彼らは今、その一番奥のテーブルで食事を囲んでいた。

ジェイドが店にいたことに驚いたラヴィンだったが、『一杯やりながら説明すっからまずは歓迎の宴といこうぜ』という叔父の言葉に素直に賛成した。
(だっておなかすいちゃったんだもん。)


 叔父や店の仲間と共にやってきた酒場は昔からの馴染みの店で、気のいい店主はおお!ラヴィンちゃん久しぶり!いっぱい食ってけよ!と声をかけた。食事のおまけにデザートもつけてくれるという。
ラヴィンはありがとーと笑って手を振った。


ストーブの火が赤々と燃え、店内はとても暖かい。
客たちのざわめきと笑い声、どこかから聴こえてくる陽気な歌声も入り混じって、店は今夜も盛況のようだ。



「さて。」
テーブルに所せましと並んだ料理を食べながら、ジェイドが話を切り出した。
「まずはラヴィン、こんなとこまで良く来てくれたな。心配かけて悪かった。兄貴たちにも。俺が帰ってすぐに兄貴のところには手紙を書いたんだが、お前とはすれ違っちまったみたいだな。」
そう言いながら、ラヴィンに向かって頭を下げた。

 事の起こりは一通の手紙。
久しぶりに弟に手紙を書いたラヴィンの父。
なかなか返事は来なかったが、まぁ、あのいつも忙しく飛び回っている弟のことだ、そのうち返ってくるだろうとそれほど気にも留めていなかった。

しかし待っていても返事がこない。
ちょっくら催促してやろう、と再度手紙を送ると、届いた返事は代理人・アレンからのものだった。

手紙には、何度か手紙を頂いているがまだ社長には渡せていないこと、出張に出かけたまま、予定の日になってもまだ帰ってこないこと、
現地でトラブルがあったらしく現在は連絡がとれないことなどが流麗な文字で書かれていた。

社長のことだし、ラパスも連れているのだから無事なはずだと思うが、手紙の返事はもう少し待っていて欲しいと謝罪が書き添えてあった。

あいつなら大丈夫だろ。
そう言い合いながらも、やはり心配なラヴィンの一家。

仕事でベルリルを離れられない父や兄に代わり、王都の店まで直接様子を見に行くこと。

それが、ラヴィンがここまで旅してきた理由である。


ラヴィンは飲みかけのジュースをテーブルに置くと、首を横に振った。
「ううん、大丈夫。うちのみんなも叔父さんのことだから、何か事情があるだろうけどきっとすぐ戻ってくるっていってたもの。
ほんと、怪我もないし元気そうだし、良かったよ。父さんたち、きっとほっとしてるよ。」

 実際、こうして無事に叔父に会えて、心底ほっとしていた。
なんだかんだで、こうして皆で食事ができていることが嬉しくて、旅の疲れなんてふっとんでしまったようだと、ラヴィンは思った。

「でも何があったの?店のみんなも連絡とれなくて、心配してうちに手紙くれたんだよね?」
「すみません、ラヴィン。私の手紙で余計な心配させてしまって。」
答えたのは、ジェイドの隣に座る男、アレンだった。
「いやいや、いいって。当たり前だよ〜。手紙ありがとう、アレン。」
ラヴィンは笑って言った。


 彼らの座るテーブルは6人がけ。
一番奥側にジェイドとラヴィンが向かい合わせで座り、ジェイドの隣には店のナンバー2、ジェイドの片腕である相談役・アレンが座っていた。さらにその隣にはもう一人の片腕であり護衛役でもあるラパス。

細い目にすっきりした顔立ちのアレンはとても頭がいいし、
金髪をツンツン立てて二カっと笑うつり目のラパスはまるで夏の太陽のよう。青く綺麗な瞳が印象的だ。
叔父の部下であるこの二人が、ラヴィンは大好きだった。


 向かい側、彼女の隣の隣には、兄のような(母のような?)黒髪の青年・ジェン。

ジェンも叔父の店で働いていたが、少し特殊な契約で席を置く研究員であり、アレンやラパスとはまた関係が異なっている。
ラヴィンは彼のことも大好きだった。
彼の優しい笑顔はなんだか安心感があり、つい甘えたくなってしまう。


そしてラヴィンとジェンの真ん中に座るのは、ふわふわした水色の髪にカチューシャをした10歳くらいの少女。
大きな目をぱっちり開いて、オレンジのジュースを飲んでいる。


「ラヴィン、お前たちのとこにアレンから手紙が届いたんだよな?俺が出張先から戻らず、連絡もつかないって。」
「うん。」ラヴィンはラパスとジェイドを交互に見ながら言った。

「最初に手紙だしたのは父さんだけどね。
おじさんに連絡したいことがあったみたいで。
そしたらなかなか返事が来なくて、催促の手紙をだしたらその返事がアレンからだったの。
おじさんが予定の日になっても戻らず、連絡もとれないって。行き先は『ルル湖』だっけ?」

「そうだ・・いや、正確に言うとルル湖の南側の町だな。小さな町だが鉱山があって、いい石が採れるんだ。そこへ商談に行ったんだが,その帰りにちょっとしたトラブルがあってな・・。ちっと足止めくっちまった。]

ジョッキを傾けながら言う。

「ラヴィン、お前『ファリスロイヤ城』って知ってるか?」

「・・何それ?ううん、知らない。」
ぷるぷると首を横に振る。

「じゃあ『ルルの黄金城』は?」

「ああ、それなら知ってるよ。有名な遺跡でしょ?古いお城だっけ。なんか昔の城主の財宝が眠ってるって噂のあるヤツ。」
「そう、その噂の古城な。その正式名が『ファリスロイヤ城』なんだ。『ルルの黄金城』はいわゆる通り名だな。」
ジェイドはそういうとグビっと一口ビールを飲んだ。


「財宝の噂話のある遺跡なんていろんなとこにあるが、この『ファリスロイヤ城』は実際、建造物としての歴史的価値があるようでな。以前からその分野の学者たちが細々と調査をしていたらしいんだ。」

「へぇ。ただの噂じゃなかったんだね。」

「いや、財宝やら何やらはもちろんただの噂で、何の確証もなかったんだ。建造物としての価値はあっても、伝説の財宝やらとはまた話が別さ。黄金城なんて呼ばれたって、行ってみりゃ半分朽ちた古城だったんだ。・・今まではな。」

その意味ありげな叔父の言葉に、ラヴィンが少し身を乗り出す。


「・・『今までは』?」

興味津々。
そんなラヴィンを見てジェイドは満足そうに言った。

「ふん、そうだ。今までは、な」
ニヤリと笑うと、続きを話し始めた。

ジェイド・ドールと噂の古城② ( No.4 )
日時: 2016/01/05 22:35
名前: 詩織 (ID: 9fVRfUiI)

『ファリスロイヤ城』

またの名を

『ルルの黄金城』



・・・その昔、ギリアから東へ向かったルル湖北岸。

周囲の山々と、その山から流れる川、肥沃な大地、豊かな自然・・。
美しいルル湖の恩恵を受けるその土地を治めたのは、領主ファリス一族であった。


ファリスロイヤは、何代にも渡りこの地域を見守ってきた城である。
領民も、領主も、誰もがその平和な暮らしがずっと続いていくことを願っていた。

しかし。
ある当主の代に事件は起こる。
更にはその最中の内部の裏切りによって、美しく穏やかだったその城は滅びることとなったそうだ。



詳細な記録は残っていない。


民に語り継がれる伝承と、残された古城の遺跡をもとに、学者たちが今も研究を重ねている歴史だ。


そして時は流れ・・・・



「ファリスロイヤの『伝説の財宝』話。このあたりにいるやつなら誰でも一度は聞いたことあるよな。」

ジェイドがアレンとラパスを見ながら言った。
「そっすね。俺も子供のころはすげー憧れたなぁ。まわりのやつらもみんな。
子供にとっても男の夢とかロマンとかってやつっすよねー。じいちゃんたちから話聞くだけでわくわくしたし。」

美味しそうにビールを飲んでいたラパスが懐かしそうに言う。
彼はここギリアの出身である。

「そういや、ジェンはどうなんだ?知ってた?この話。」
ラパスが向かいのジェンを見ると彼は首を傾げた。

「いや、俺は出身この国じゃないしな。名前くらいは聞いたことあるけど、あまり詳しくは・・。」

そっかぁ、とラパスは答えると、今度は隣に座るアレンに目をやった。
「アレンさんは出身ギリアっすよね?どうっすか?」

するとなぜかアレンも、ジェンと同じく首をかしげる。
「う〜ん。どうかな。私はあまり現実味のない話には興味がなかったから。どうせよくある民衆の噂話かと。」
「っはぁぁ〜。かわいくねぇガキだな、ほんとにお前。」

さらっと答えるアレンに、ジェイドが嫌そうに言う。
「どうせガキのころから勉強ばっかしてたんだろ?ちったぁ子供らしくはしゃいでろよ。伝説の財宝だぜ?わくわくすんだろーが。冒険者ごっこなんてしちゃったりよ。ガキなんてそんなモンだろ?」
「そりゃ社長の子供時代そのまんまでしょ。」
アレンが目を細めて言った。

「あの頃の勉学で得た知識は今に生きてるからいいんです、私は。ほかになにか?」
すまし顔でそう言われて、ジェイドはワハハと大きく笑った。

「いやいや。ない!お前にはいつも助けられてるもんなぁ。うん、いいぜ、財宝に興味ないような、かわいくねーガキだってなんだって。」
「かわいくないは余計です。」
妙に拗ねたようなアレンの言い方に、ジェンが小さく吹き出した。
「お?んじゃかわいいかわいい。アレンはかわいいぞぉ!なぁ、ラパス!」
「はい、かわいいっすね〜」
ビールで顔を赤くしたラパスがにこにこと笑う。
「・・・・なんかむかつきますね。」
「社長にむかつくって言うな。」
「後輩にむかつくって言わないでくださいよぉ。」

そんなことを言い合いながらも、男たちは楽しそうにビールを飲んでいた。


叔父たちの会話を聞きながら、ラヴィンは隣に座る幼い少女に話しかける。

「マリー知ってた?」
「ううん。知らなかったわ。今回の社長さんの話で初めて知ったもの。」

マリーと呼ばれた少女は言いながら首を横に振る。
美しい水色のロングヘアがふわふわと揺れた。


水色の髪に銀色の瞳。


多くの種族の集まるこの国でさえ、あまり見ることのない風貌の少女だった。

可愛らしいレースのワンピースを着て、前髪をカチューシャで上げておでこをだしている。
くりくりとした大きな瞳が印象的だ。

ぱちぱちと目を瞬かせてラヴィンを見上げる。
なんとも言えず愛くるしい表情。

そんなマリーをしばらく見つめていたラヴィンだが・・・


「〜〜〜っ!」
思わずマリーのふわふわ頭を抱き締めた。

「マリーっ!やっぱりかわいい!!いつ見てもかわいい〜!」
「きゃぁぁ!」
突然抱きつかれて、マリーは小さく悲鳴を上げた。
そんなマリーにかまわず、ラヴィンはマリーぎゅうぎゅうと抱き締める。

「ああーこの感じ。久しぶり・・。うんうん!マリーほんとかわいいなぁ。」
「ちょっと!ラヴィン!やめてってば!さっきもあんなに抱きついてきたじゃないのよ!」
まるで子猫か子犬を抱きしめて離さない子供のようなラヴィンを引き離そうとしながらマリーが言う。

さっきとは、ジェイドの店で久しぶりに再会したときのことだ。
今の何倍もの激しさで、マリーはラヴィンの抱擁を受けまくったのだった。

末っ子のラヴィンにとって、マリーはそれはかわいい妹のような存在で、とにかくかわいがりたくなるのだった。



「おーい、そろそろいいかぁ〜?」
ジェンに声を掛けられても、ラヴィンはまだマリーの頭をわしゃわしゃと撫で回していた。
そんな二人の頭をぽんぽんと順に軽く叩いて、ジェンが二人を元の会話に引き戻した。

「それで?噂の財宝っていうのは、その領主の残した遺産ってことなのか?」
ジェンがラパスに聞いた。

「んー・・。そうだとも言われてるし、そうじゃないとも言われてるな。」
ラパスが含みのある言い方をしながらジェイドのほうをみた。
「ああ、それについてはいくつか説があるんだよな。」
ラパスの視線を受けて、今度はジェイドが話を続けた。

ジェイド・ドールと噂の古城③ ( No.5 )
日時: 2016/01/05 21:30
名前: 詩織 (ID: 9fVRfUiI)

「ファリス一族の治めるルル湖北の地域ってのはとても豊かで、そこでしか手に入らない特産品も多かったらしい。水もきれいで土地が肥えていたから、果実酒造りも盛んでな。
珍しい植物も多かったから、それ目当てにやってくる研究者も多かったそうだ。それでまた町が潤ったんだろうな。」

「へぇ。ただの田舎町じゃなかったんですね。」
ジェンが感心したように言った。

「そうだな。基本は自然の恩恵なんだが、それをうまく整備して、町を潤わせて発展させたのは、ファリス一族がうまく治めてたからだよな。」
ジェイドも同意した。


「その文化の中には、今ではかなり貴重なものとされる知識や情報、技術なんかもかなりあったらしいんだ。
・・これはあくまでも伝承というか噂話なんだが、黄金城の財宝ってのは実際の領主の遺産・・つまり金やら宝飾品やらだな。という説が半分。
もう半分は、現物の遺産ではないんじゃないかって説だ。」

「どういうこと?」
ラヴィンがマリーの髪を撫でながら聞く。
マリーは諦めたのか大人しく撫でられながら、オレンジジュースを飲んでいた。

「その、ファリス領独自の希少価値の何か、ですよ。」
アレンが答えた。

「伝承では、ファリスロイヤ城の滅びた事件当時、ファリス一族の内部で反乱が起きていたらしいのです。

そこで、当時の領主の行動に反対した一族の誰かが、その事件のカギになる何か・・・、金なのか、それとも何かの道具か貴重な薬・・もっと言えば何かの情報や技術かもしれませんが・・・そういった何かを領地のどこかへと隠してしまったらしいんですね。

そして結局それがファリス一族が崩壊する原因になったようです。」

「・・それがファリスロイヤの『伝説の財宝』・・」
ふむふむ、とラヴィンがつぶやく。

「何か、か。随分あいまいだな。」
ジェンが言った。

「まぁ、そうですね。結局は伝承、正確な資料があるわけではないですから。」
アレンが苦笑した。

「ただ、研究結果では、ファリス領の文化は奥が深く、実はかなり高度な研究もされていたようですよ。
特に植物や農作物、薬学の分野なんかはね。
もし、もっと優れた当時の資料でも見つかれば、使い方によっては十分財宝という価値はあると言われていますよ。」

「「「へぇ〜」」」

ラヴィン、マリー、ジェンがそろって納得する。
三人がおんなじ顔で自分を見ているので、アレンは吹き出した。


「まぁね、ここまでは分かっていたことなんですが。結局のところ今まではそれがどこにあるのか、確たる証拠は見つかっていませんでしたからね。我々が直接関わることはなかったんですが。」

「ふぅん。それで?そもそもそのファリスロイヤの話とおじさんの巻き込まれたトラブルってどうつながるの?」

ラヴィンが皿に盛られた串焼きをつまみながら聞いた。肉と野菜を交互に串にさして焼いたもので、甘辛いタレがたっぷりとつけられている。


「そうそう、今回この件で社長が足止めをくらってたってことは、何か新しいことが分かったんですよね?実際、あの辺りを封鎖して特別許可がないと入れないっていうたいそうな処置までされたんだし。」

「ほうらの?らからおいさん、連絡がとれなくなってたんら。」
ジェンの言葉にラヴィンがもごもごと串焼きを頬張りながら言った。

「ああ。」
ジェイドが頷く。

「まず、俺とラパスはさっき話した商談の為にルル湖の南側にある町へ行ったんだよな。そんで商談は無事成立して、じゃあ翌日にはギリアへ帰るかっていう夜のことだ。酒場に飲みにでたら、その話で持ちきりだったんだよ。」
「その話?」


「ファリスロイヤ城に、国の調査団が入るって話さ。」

そうして、ジェイドは今回の経緯を話し始めた。

第2章 ジェイド・ドールと噂の古城④ ( No.6 )
日時: 2015/05/27 16:11
名前: 詩織 (ID: yvsRJWpS)

『国の正式な調査団がファリスロイヤ城に入る』


 その話を耳にしたジェイドとラパスは興味津々、どの道帰る方角だよなぁ、そうっすよね!ということで。
ファリスロイヤ城の様子を見ていこうと、少し寄り道をした。
ところが、ここで思わぬアクシデントが起きた。
そして連絡の取りようのないまま、帰りの予定が大幅に狂ってしまったという。


「酒場では、『あのルルの城の謎がついに解けるのか?』ってそりゃあ盛り上がってたんだぜ。」
ジェイドが言った。
「その話を聞いた俺たちも興味があったからな、帰り道のルートを少し変更してルル湖の北側へ回って行くことにしたんだ。
この時点では現場の様子を見物したらそのまま予定の期日までには帰るつもりだったからな。特に連絡もよこさず悪かったと思ってる。すまんな、心配かけて。」

皆を見回しながらすまなさそうに話す彼に、アレンが穏やかに微笑んだ。

「今回は無事に戻ってきたんだし、いいとしましょう。それに、そういう話に目がないあたりは社長の社長らしいところですよね。」
社長らしいところですよね、のところで、ジェイド以外の全員がうんうんと強く頷いた。

「はは、そう言ってくれると助かるな。」
ジェイドは頭を掻きながら笑った。


「国の調査団って、国が正式にあの遺跡を調査するってことですよね。何か、それを裏付けるものが見つかったってことですか?」
ジェンが聞いた。

「そうらしい。一般には伏せられているが、何か確実性の高い情報が手に入ったことは間違いなさそうだ。」
「それで?調査団が来るのを見てたんでしょ?何があったの?」
ラヴィンがジェイドとラパスを見ながら言う。
二人は顔を見合わせたが、そのままジェイドが話を続けた。

「事故だよ。」
「事故?!」
ラヴィンがびっくりして目をぱちくりさせる。
他のメンバーは、二人が帰ってきた時点で簡単には説明を受けていたらしく、黙って三人のやりとりを見ていた。



 その日、現地の町に着いたジェイドとラパスは、城のすぐ近くの丘の上からわくわくしながら調査団の様子を見ていたという。

城の入り口付近には、大きな調査道具らしき荷物を背負った調査員たちが集まっていたが、団長らしき人物の指示で、衛兵を数人残し全員中へと入っていった。
城のまわりには彼らの持ってきたらしい紋章の旗が掲げられ、関係者以外は立ち入りが禁止されているようだ。


「・・ん?」
その光景を眺めていたジェイドだが、ふと違和感を覚える。

「・・なぁラパス、あの旗・・。」
「・・ええ、そっすね。あれは確か・・。」
ラパスが言いかけた時。


突然鳴り響いた轟音と共に、城の一部が崩れるのが見えた。




「爆発?」
またもやラヴィンが驚いた声を上げた。

「ああ、ファリスロイヤは本館の両脇、西と東にそれぞれ塔があるんだが、その西の塔の一部が突然爆音を上げて崩れたんだよ。あんまりいきなりだったもんだから、こっちも驚いたのなんの。まわりで見物してたやつらも唖然として突っ立ってたなあ。」


ジェイドの話によると、彼らが遠巻きに見守る中、突然西塔で爆発音がし、塔の一部が崩壊。そして、もうもうと立ち込める煙の合間から、崩落したがれきの下で恐慌状態の調査員たちが見えた。彼らもまた何が起きたのか理解していないようだった。


・・その日は、晴れ渡った冬空だった。
なだらかな丘と森の続く、緑豊かな大地。
湖と、そのほとりに静かに佇む石造りの古城。
そんなのどかな風景が、突然一変した。

それまで見ていた風景とは、あまりに異質な出来事である。
呆然としていたジェイドとラパスだったが、ハッと気を取り直し、すぐさま彼らの救出に向かっていった。

動ける人間を集め、大きな瓦礫の下敷きになった人々を助け出し、怪我人の治療に奔走した。
時間はかなりかかったが、とりあえずはなんとか全員を無事救出することができた。
怪我人は大勢いたが、幸い死者はおらず、調査員たちは涙を流して仲間の無事を確かめ合っていた。



「良かった。怪我だけですんだんだね。皆助かったし。」
ラヴィンがほっとしたように言った。
「ああ、そうだな。」
答えながら、ジェイドの脳裏にあの時の光景が浮かぶ。


助かった彼らをみてほっと一息つく二人だったが、多くの調査員が負傷していて、調査が続けられる状態ではないことは明白だ。とにかく全員を安全な場所に移してきちんとした治療をしなければ。
そう考え、調査団の代表者を探した。

自分たちは部外者だが、非常事態だ。

自分は一商人だが、これでも王宮や貴族からも注文を貰える程度には信頼と規模を持つ商人であり、この辺りの地域にも助けを求めるつては多くある。なにか手助けできるはず。そう思ってのことだった。

事実、王都には彼が懇意にしている名家も多い。王都から遠く離れたこの地でも仕事仲間は多く、彼が助けを求めれば、借りられる手は多いだろう。

だが。


「その必要はない。」
調査団の責任者を名乗る男は淡々とそう言った。

「・・必要ない?」
ジェイドは怪訝な顔で聞き返す。
この状況で助けが必要ない、とはどういうことかと。

「今、騒ぎを大きくするつもりはない。事態はここで収拾をつける。調査員の移動はしない。」
「大きくするつもりはないって・・。あのなあ、どう見てもこれは非常事態だろ。そんなこと言ってる場合か。」
男を睨むジェイドに、変わらず淡々とした声で答えが返った。

「規模は予想以上ではあったが、起こりうる事態としては想定内だ。我々で対処できる用意はあるのでな。」
「・・想定内って。・・おい・・。」
感情を抑えた、低い声でジェイドは男に問うた。視線は鋭く男を捕らえたまま。


「・・これは、何の調査だ。」


ただの考古学調査ではない。伝承の財宝などという曖昧なモノを、探しにきたわけではない。理由は分からないが、直感的にそう思った。

男は顔色を変えることなくジェイドを見ながら言った。
「一般人には関わらぬこと、責任者は私だ。指示は私が出す。ここは関係者以外は立ち入りが禁じられている。貴殿のような立場の人間がなぜこんな所に居るのか知らぬが、野次馬は終いにして即刻王都へと帰られるがよい。・・ジェイド・ドール殿。」

突然名前を呼ばれて、ジェイドは一瞬言葉に詰まる。
なぜ、自分を知っているのか。
問いただそうと口を開きかけたとき、男は後ろから仲間に呼ばれ振り返る。
そのままこちらに背を向けた。

「こちらは調査員の手当てと事態の調査で忙しい。話はここまでだ。失礼する。」

一方的に言い終わると、そのまま他の調査員たちのもとへ戻っていこうとした。
だが、ふと足を止め、振り返る。

「これは国が許可した考古学調査の一環である。興味がおありなら、調査の結果を大人しく待っているのがよかろう。・・・貴殿には貴殿のやるべき仕事があるだろうからな。」

そう言うと再び仲間のもとへと足を向け、もう振り返ることはなかった。




「・・社長、どうします?」
彼の姿を目で追いながら、ラパスが聞いた。しかし答えは分かっている。
「どうするも何も、このままほっとくわけにいくかよ。とりあえず、俺たちはできることをやらせてもらうぞ。」
ジェイドもまた相変わらず鋭い視線を男に向けながら言った。


(・・余計な詮索はするなということか。)


思うところはあったが、二人はそのままそこに残り、調査員たちの手当てや物資の運搬、食事の手配など、自分たちのできる範囲で手助けをした。
あの男はちらりとこちらを見たが、それ以降一切話しかけてくることはなく、こちらも近づかなかった。
両者は言葉を交わさないまま、数日が過ぎた。調査員たちの手当てがあらかた終わったのを見て、一段落したジェイドとラパスは現地を後にしたのだった。



「・・おじさん?どしたの?」
言われてジェイドは我に返る。
ラヴィンがきょとんとして首を傾げながら、自分の顔を覗き込んでいた。
「ああ、すまん。ちょっと思い出しちまってな。」
ラヴィンから視線を外し、ジョッキに残っていたビールを一気に飲み干す。

そんなジェイドの様子から、彼の迷いを読み取ったラパスがさりげなく後を引き継いだ。

「つまり、俺たちが野次馬してた城の調査中に、よくわからんけど何らかの事故が起きて、社長も俺もその手助けに奔走してたってわけ。人手も足りなかったしさ。そんでなかなか現場から離れられずに、連絡が遅れちゃったんだよ。現場が混乱してて、休む暇もなくてさ。」

軽い感じで肩ををすくめる。
ラヴィンに向かって、なるべく分かりやすく話した。


・・二人が感じた違和感、そしてあの男との会話以外の話を。

ジェイド・ドールと噂の古城⑤ ( No.7 )
日時: 2015/05/24 21:48
名前: 詩織 (ID: /a2DLRJY)

 「なるほどね。そういうことだったのかぁ。」
は〜っとため息をつきながら、ラヴィンが言った。

 ふと気がつくと、あちこちから聞こえてきていた笑い声や、にぎやかなざわめきが少しずつ消えている。
酒場で騒ぐ人々も一人、また一人と家路につくような時間だ。
マリーのジュースも空になっていた。

「うん、わかった。」
やっと事態が飲み込めたラヴィンは、うんうんと頷いた。
「子供の頃憧れてた遺跡に調査が入るって知って、冒険家の血が騒いじゃったってことよね、叔父さん。]
ジェイドを見て笑う。

「で、二人してわくわく見学してたら、その崩落事故がおきて。それでその救助や手助けに走り回ってたら、あっという間に数日たってしまった、ってことでしょう?」
「そうだなぁ。簡単にいうと、ま、そういうことだ。」
うーん、と大きく伸びをしながらジェイドが言う。


そして、調査はこれからどうなるのだろう、とか
ファリスロイヤ城の財宝って結局なんなの?とか
調査団の今後は?とかとか

話題は尽きなかったが、とりあえず調査は続行されるらしいから、大人しく見守ろうか、というところで話はひと段落した。


テーブルの上の皿はほとんど空っぽになっている。
うつらうつらと眠たそうなマリーを見て、そろそろいくか?と誰からともなく立ち上がった。

勘定をすまして、上着を着込むと、まだ底冷えするような夜の道を皆で歩き出した。


「でも良かったぁ。叔父さんもラパスも元気で。」
嬉しそうに笑うラヴィンの頭を、ジェイドの大きな手が優しく撫でた。

星のきれいな夜道を、ジェイドの店へと向かって歩いていく。
月明かりの下、石畳には五つの影。
そのひとつには、背負われた小さな影も。

「ふぁぁ。」
ジェンに背負われたマリーは、半分夢の中であくびをした。

「そのまま寝ていいぞ。」
優しい声で、ジェンがささやくように言う。
「・・んー。」
小さな返事らしきものが聞こえたあと、すうすうと静かな寝息が聞こえてきた。


「ふふ、マリー寝ちゃったねぇ。・・かーわいーなぁ。」
緩んだ顔をして、ラヴィンがマリーのほっぺをそっとつついた。
「ジェン、背中あったかいでしょ。」
「ああ、めちゃくちゃあったかいよ。」
ジェンが笑う。


「ねぇ!叔父さん!」
ラヴィンが斜め後ろを歩くジェイドを振り返って言った。
「私、しばらくこっちに居てもいいよね?」
楽しそうに笑う。
「ああ、いいぞー。ゆっくりしてけ。家には手紙、書いとけよ。」
はーい、とご機嫌な返事。
つられてジェイドも笑う。
アレンもラパスも、微笑んだ。


・・・あの場では話さなかったあの日の出来事。
知っているのはジェイドとラパス、そしてアレンの三人だ。


実は、ジェイドとラパス二人とも、現地に入る時点で、すでにいつもと違う空気を感じていた。

見物に来ていた一般人は、予想していたよりだいぶ少なかった。
その理由。

旧ファリス領の町に入る時点で、入り口に兵士が立っており、通行許可証の提示を求められた。普段ならそんなもの、もちろん必要ないのに。
それがなければ、あれだけ噂の出回っていた調査団派遣だ。野次馬はそれこそ辺り一面に溢れかえっていただろう。

最初は、人気のある遺跡だけに、見物客が押し寄せれば調査に支障がでるだろうから、その為の処置だと軽い気持ちで考えていた。

自分たちはこの町にも近隣の町にも商売仲間のつてがあり、今回は知り合いの地元有力者に頼んで特別に許可証を手配してもらえたのだ。

へへ、ラッキー。その時はそう言って、二人で笑った。

しかしいざ行ってみると・・。


明らかに人為的な爆発事故、あの男の言葉。
・・思い返せば羽織ったローブの下から見えた装飾具には、見覚えがある。


「ファリスロイヤに国から調査団が派遣された件は、もうすでに周囲に知られている。いずれ正式に発表があるだろう。それはいいんだ。」

二人が帰った日の夜、店の社長室に呼ばれたアレンとラパスに、ジェイドが言った。

「どうせ面白おかしく噂が広まれば、ラヴィンたちも知ることになるしな。・・だが・・。」
「その男のことですね。それと・・」
「ああ。」
アレンの言葉を肯定する。

「ただの遺跡調査には、俺にも思えませんけど。」
とラパス。


ランプの明かりが揺れる。
三人の影も揺れた。従業員たちの去った店はとても静かだ。

「気になる点はいくつかあるんだ。だが、まだはっきりしたことは分からない。そもそも俺たちには直接関わる話ではないのかもしれない。・・ラヴィンに話す必要は・・。」
「ありませんね、今のところ。」
アレンが含みのある言い方をした。

ジェイドは一瞬考えるそぶりを見せたが、結局首を横に振って言った。
「まぁとりあえずは静観だ。どうせ、まだ何も分からないしな。」
アレンとラパスも頷く。

「ジェンとマリーはどうしますか?」

ジェンとマリーは今、店にはいない。
取引先からの仕事の依頼の為、近くの町まで出掛けていたからだ。
ジェイドたちの帰宅に心から安堵して、入れ替わりに出発していった。
・・ラヴィンが聞いたのと同じ説明だけを受けて。

アレンの問いにジェイドは
「ラヴィンと同じだ。まだ何も分からないんだ。何か進展があったらその時言うさ。・・・余計な心配、させるこたねぇよ。」
と小さく笑った。




そして今夜。

「わぁ!ふかふかだ!気持ちいいなぁ。」
幸せそうにラヴィンがベットに沈む。
それを見てジェンが笑った。
「何でもいいけど、マリーをつぶさないでくれよ。お前の寝相、とんでもないからな。」
「そんなことないもん。」
ラヴィンが布団に埋もれたままむくれた声で言い、ジェンはまたくすくすと笑う。

店に戻った一行は、おやすみ、また明日な、とそれぞれ帰途に着いた。

アレンとラパスは仕事場の近くにある自宅へ。
ジェイドも店と同じ敷地内にある自宅のほうへと帰っていった。
ラヴィンも来るかと聞かれたが、迷った挙句、ジェンとマリーの部屋がある離れの研究室におじゃますることにした。


マリーの体温で温かくなったベットに潜り込む。
すぐに睡魔が襲ってきた。

「もっとしゃべりたいなぁ。」
睡魔と戦いながら、ラヴィンがつぶやいた。

「また、明日話せるよ。しばらくいるんだろ?」
ジェンが静かに言う。
「・・うん。・・楽しみだなぁ、久しぶりの王都。みんなに会えたし・・私・・一人でも来て良かった・・」

最後のほうはほとんど夢の中らしい。声は次第に小さくなり、最後には寝息が二人分になる。
ジェンは小さく微笑んでランプの明かりを消すと、隣にある自分の部屋へと戻っていった。


明日から、また賑やかになりそうだ。