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第3章 シルファ・ライドネル いつもの朝② ( No.13 )
日時: 2015/04/28 20:27
名前: 詩織 (ID: .Gl5yjBY)

「よお、シルファ。また寝坊だって?やるなぁお前。」

からかうように笑いながらやってきたのはシルファの兄たちだった。


朝の修練後、父の説教をたっぷりと聞かされ、ついでに研究課題をいつもの三倍だされたシルファは、遅い朝食の為に食堂へとやってきた。


食堂は大人数が暮らすこの家らしく、広い部屋に縦長のテーブルが2列並び、一度に20人くらいは座れるように椅子が配置されていた。
奥の壁には暖炉があり、重厚なデザインの食器棚には装飾用の食器が飾られている。
テーブルには蜀台が置かれ、果物を盛った皿が並んでいた。


大きな窓からは太陽の光がさんさんと差し込み、明るくて感じの良い部屋だ。


ほとんどの者がすでに食事を終えたらしく、人もまばらな食堂のすみっこの椅子に、シルファはやれやれとため息をつきながら腰掛けた。

今日のメニューはシルファの好きな野菜のスープとオムレツなのに、すっかり冷めてしまっている。
なんだかなぁ、うまくいかないなぁと思いながら、ちみちみとオムレツを口に運んだ。


そんなシルファを見つけてやってきたのが、シルファの3人の兄たちだ。


「また父上に絞られたんだろう?懲りないヤツだなーお前も。」
「どうせまた徹夜で論文読んでたんだろ?お前理論ばっかじゃなくってさ、実践しろよ実践。」
「寝坊ばっかするからそんなに背が伸びたのか?寝る子は育つってほんとだよなあ。」

最後の台詞と共に、頭をくしゃくしゃにされた。


冷めて少し硬くなったパンに噛み付きながら、シルファはじとっと兄たちを睨んだ。

「・・やめてくださいよ。なんで僕が寝坊したこと知ってんですか。」
恨みがましく言うと、兄たちは可笑しそうに笑った。


「そんなのすぐ分かるだろ。修練の時お前いなかったし、朝食も遅れてきたじゃないか。」
「瞑想の途中で扉が開く気配したけど、あれ、お前じゃないのか。まさかこっそり忍び込めるなんて考えてないよな?」
「・・・・」

ばれてる・・。
シルファは答えようがなくて無言でパンを噛んだ。
そのしぐさが面白かったようで、兄たちはまた愉快そうに笑った。


シルファには3人の兄と1人の姉がいる。
体の弱い姉以外、皆魔法使いだ。

兄たちはとにかく優秀だった。
弟のシルファからみても、ライドネル家の子息として、3人とも充分に父の期待に答えている。才能も、技術も知識も、自分にはないものを兄たちは持っている。

自分がそこに並べるとは思ってもいないが、少しでも近づけるよう自分なりに努力しているつもりではいるのだ。

それがどうしてか、いつも空回りしてしまう。
今朝のように。


「はぁ・・。」

楽しそうに自分を見ている兄たちを見ながら、今日何度目か分からないため息をついた。


兄たちに悪意がないのは分かっているが、いつもいつも、なぜだかシルファをからかいにやってくる。
まるでシルファをからかうのが生きがいとでも言うように、何かあると絡んでくるのだ。


シルファが憮然としてパンを噛み続けているのを面白そうに見ていた兄の1人が、思い出したように言った。

「そういえばシルファ、姉上が呼んでたぜ。」
「姉上がですか?」
「ああ。お前今日、王都図書館行くんだって?」
「はい。頼んでいた本が届いたんで取りに行こうかと。昼の修練は休みを申請してあります。・・よく知ってますね。」

いぶかしむ様に言うと、兄はけろっと言った。

「お前をからかうネタの収集には余念がないのさ。」
「ネタって・・。」
眉毛を下げて情けない声をだすシルファをみて、兄たちは更に笑った。

「まあまあ、姉上はそのついでにお前に何か頼みたいものがあるんだと。あとで部屋に寄って欲しいって言ってたぞ。」
「分かりました。」

パンの最後の一口をスープで流し込み、シルファは立ち上がる。
部屋を出て行こうとするシルファに後ろから兄たちの声が飛んできた。

「図書館にいってまで寝るんじゃないぞ。」
「また寝坊して夜の修練遅刻したりして。」
「朝も夜もじゃ救いようがないよなぁ。父上にまた大目玉だ。」
兄たちの笑い声は聞こえない振りをして、シルファは食堂を後にする。



そうだ。そうだった。今日は前から楽しみにしていた遠方の魔法理論の書物が届く日だ。
だいぶ前から申請していて、やっと連絡が来たのだから。
そう考えると、朝のドタバタで沈んだ気持ちも明るくなってくる。
少しわくわくしてきたシルファは、顔を上げた。

今日は天気もいいし、なんだか良い事がありそうな気がするなぁ。

我ながら単純だとは思いつつ、さっきまでとはうって変わって、軽い足取りで部屋へ向かって歩いて行った。