コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第4章 出会いは冬の空の下⑤ ( No.21 )
- 日時: 2015/05/10 23:51
- 名前: 詩織 (ID: .Gl5yjBY)
「何がそんなに可笑しいんだっ。」
笑われた男が顔を赤くして怒鳴る。
確かに大した調査なんてしてない。
男はイライラしながら考える。
たまたま見かけたこいつを見て、むかつくあの商売敵をちょっと脅かしてやろうと思っただけだ。
ほんの時々あの店に姿を現すこいつを、あの男や店の連中がどれだけ可愛がってるかなんて、皆知ってんだ。ちょっとちょっかい出すだけのつもりだった。
なのに、なんだよこの女。
ビビるどころか、逃げ足はえーし。しかも笑われるし。
考えながら余計苛立ってきたのか、大きな舌打ちをする。
・・ラヴィンはというと、やっと笑いの発作が収まったらしく、改めて男たちに目を向ける。
柄の悪そうな男たちに声を掛けられたのは、ちょうど裏道に入って歩き出したところだった。
王都に来て2日目。
本当は店のみんなと遊びたかったのだが、今日は皆仕事が入っており、朝から忙しく動き回っていた。
1人になったラヴィンは、昨日の話で大いに興味を持ったファリスロイヤ城のことでも調べようと、王都図書館へ出掛けることにしたのだ。
旅の疲れもあり、結局昼寝で終わってしまったけれど。
その帰り道。
「おい、お嬢ちゃん。」
ニヤニヤしながら近づいてきた男が威圧的な目でラヴィンを見下ろした。
「ウォルズ商会って知ってんだろ?俺たちゃ・・」
「知らない。」
間髪入れない返答に、男は一瞬言葉に詰まる。
「嘘をつくな。だから、俺たちゃ・・、あっ!こら待てっ。」
こういうのは関わらないに限る。
男が話している隙に、ラヴィンはさっさと走り出していた。
・・路地裏に入る前から、気配は感じていた。
だがその目的はなんとなく察しがついたので、わざとそのままにしておいた。
街中での騒ぎは、出来るだけ起こしたくない。
叔父にも、店で働く皆にも、迷惑は掛けたくなかったから。
「兄貴!いまこいつ、「おじさん」とか言ってたぜ。やい女、やっぱウォルズ商会の身内じゃねぇか!何が知らないだよ。」
「もういい。」
兄貴と呼ばれた男が仲間を制して、ラヴィンを睨んだ。
「細けぇことはどうでもいい。興味もねぇよ。」
一歩前へ出る。
「俺たちゃ、ただお前らの店がむかつくんだよ。邪魔なんだ。あんな男の身内だってこと、後悔しな。」
低い声で言うと、更にラヴィンとの間合いを詰める。
ポケットから取り出した物を、右手に握る。
(・・これはまずいな。)
シルファは男の手元に光るナイフに目をやった。
男の顔つきはさっきまでと違う。恨みの篭った目でラヴィンを捉えている。
男の言葉を合図に、後ろの仲間たちも、一歩ずつ前へでる。
呼吸もやっと整ったらしく、剣呑な雰囲気が漂った。
(なんかこんな場面、芝居で見たことあるよな。本物見るのは初めてだけど・・どうしようか。)
シルファが思案したその時、男を睨み返していたラヴィンが言った。
「逆恨み、でしょ。叔父さんは、人に恨まれるような仕事してない。勝手なこと言わないで。」
「・・んだとぉ・・この女ぁ!」
呻く様に言ったかと思うと、ナイフをラヴィンに向けたまま、男が地面を蹴る。
「ちょ、ちょっと待ってっ。」
叫ぶとシルファは荷物を抱えたまま、二人の間に飛び出していた。
- 第4章 出会いは冬の空の下⑥ ( No.22 )
- 日時: 2015/05/26 23:32
- 名前: 詩織 (ID: KfCyy7lh)
突然飛び出してきたシルファに後ろから抱きつかれ、男は勢いづいたまま前のめりに倒れた。
「どわぁっ!・・いってぇ・・。」
一緒に倒れたシルファは、素早く起き上がるとそのまま男を踏んづけて、ラヴィンとの間に立つ。
踏んづけられた男が「うげっ」と変な叫び声を上げた。
「あ、すみません。夢中で・・。」
それとなく背にラヴィンをかばいながら、シルファはすまなさそうに男を見た。
「な、なんだお前・・」
後ろにいた男たちがぽかんと口を開けてシルファを見る。
同じように、ラヴィンも目をまんまるくして、自分の前に立つ彼を見上げていた。
背の高い、優しげで柔らかな雰囲気の少年。
黒いコートに、くるくる巻いた黄色のマフラー。
そして、両手にはなぜか人気菓子店のでっかい紙袋。
このシーンで登場するのにはあまり似つかわしくないような。
(銀の髪・・)
ラヴィンは不思議そうに、自分をかばう少年の横顔を見つめた。
「なにすんだ、てめぇぇ。」
シルファに踏まれて突っ伏していた男がよろよろと立ち上がる。
「そいつの仲間かよ。」
苦々しげに言う男に、シルファは慌てて手を振った。
「あ、いえ全然。初対面です。」
「はぁ?」
男は意味が分からないという顔をした。
「じゃあなんででてくんだよ!関係ねーだろ。」
当然の質問に、シルファは困ったように眉を下げた。
「関係はないんですけど・・、とりあえず落ちつきません?女の子にナイフは駄目ですよ。・・わわっ。」
近づいてきた男が、今度はシルファの首もとにナイフを向けた。
「邪魔すんなガキ。」
目が怒りに燃えている。
・・話し合いは出来そうもない。
(仕方ないな。)
シルファは心で呟く。
ライドネル家では、一般人へのやたらな魔力の行使は、相応の理由がなければ極力控えるよう言われていた。
宮廷や貴族にも仕えるライドネル家として、この街で不必要ないざこざを避ける為の決まりだった。
でも。
(ここは使わせてもらうよ。)
意識を集中し、小さく呪文を唱える。
銀の髪が、ふわりと揺れる。
「うわ?!」
その時、目の前の男がバランスを崩した。
「・・え?」
魔法で防御しようと集中していたシルファには、何が起こったか分からなかった。
けれど、自分の後ろの少女が仕掛けたと気づいて、驚きに目を瞠る。
男がシルファに意識を向けた隙に、ラヴィンが素早く足払いをかけたのだ。
バランスを崩した男の首もとに、手刀を叩き込む。
シルファに踏まれた時と同様に呻くと、男は再び地面に沈んだ。
そして、今度は彼女が、シルファの前に立った。
「あ、兄貴!」
「ちくしょう!」
突然の反撃に怯んだ男たちだったが、我に返るといっせいにラヴィンに飛び掛った。
「あ、危ない!」
シルファは思わずラヴィンに手を伸ばす。
しかし、素早く飛び出したラヴィンは、殴りかかってくる男の横をすり抜けると後ろから回し蹴り、蹴られた男は大きく前方に倒れた。
その勢いで次の相手の襟元を引き寄せると、鳩尾に膝蹴りし、放り出す。
挟み撃ちしようと向かってきた残り二人を寸前でかわした為、男たちはお互い激しくぶつかり合ってその場にしゃがみ込んだ。
「あー・・。ええと・・。」
あまりにも身軽な彼女の動きに、手を前方に伸ばした姿勢のまま、シルファは動くタイミングを失っていた。
そんな彼の手を、ラヴィンが掴む。
「行こうっ!」
固まっていたシルファを引っ張ると、手を握ったまま走り出した。
手をとられるまま走りかけたシルファだが、あっ、と気づいて振り向き、男たちに向かって叫んだ。
「あの、僕の名はシルファ・ライドネルといいます!」
その言葉に、倒れたまま呻いていた男たちが目を見開く。
「今は初対面だけど、僕は彼女と友達になります!ということで、彼女への仕返しは勘弁してくださいねっ!」
・・・必要があるなら自分が相手をする、という牽制だ。
『ライドネル』の名を聞き、悔しそうにしながらも、視線を逸らせて嘆息する男たちを確認して、シルファは前に向き直る。
これで、今回の報復は大丈夫だろう。
シルファはラヴィンと共に、路地裏を駆けていった。