コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第5章 友達① ( No.24 )
- 日時: 2015/05/25 22:01
- 名前: 詩織 (ID: /a2DLRJY)
第5章 友達
「ありがとう、助けてくれて。」
そう言ってシルファを見上げたラヴィンは、にっこりと笑ってみせる。
人々の行きかう街道の片隅で、2人は向かい合っていた。
裏通りを走り抜け、街道の表通りへとでたのはつい先ほど。
2人は歩を緩め、そっと手を離した。
ほっと一息ついてシルファがラヴィンを見ると、ラヴィンもシルファを見上げ、にこっと笑って礼を言った。
ちょうどシルファの胸の辺りに、ラヴィンの頭がくる身長差。
「いや、そんな。僕、結局何にもしてないし。」
顔の前で手を振りながら言うシルファに、ラヴィンはそんなことないよと首を振る。
「あなたが隙を作ってくれたから、あの人たちの目を逸らすことができたんだよ。庇ってくれて、どうもありがとう。」
にっこり笑って言った後、あ!と声をあげ、ラヴィンはシルファの手をとった。
「ごめん!怪我しなかった?あのナイフの男を止めようとして一緒に倒れたよね?痛いところとかない?」
「ああ、大丈夫だよ。あのくらい。」
シルファの手をひっくり返したり動かしたりしながら確認するラヴィンに、シルファは笑いながら言った。
表情がくるくるとよく動く子だなぁ。面白い。
そんなことを考える。
「それにしても。君、強いんだね。びっくりした。僕の出る幕なかったよ。」
「そんなことないって。」
シルファの手を離すと、ラヴィンは苦笑する。
「武術と簡単な剣術の基礎はね、仕込まれてるのよ。でも私の体格だとね、うまく当てる為には隙をつかないとさ。」
と肩をすくめた。
「だから、助かったよ。ほんとありがとう。」
「いやいや、そんなそんな。」
何度も礼を言われ、シルファはしきりと照れて頭を掻いた。
なんか、かわいいひとだなー男の子なんだけど。
内心そんなことをラヴィンは思った。
思いながら、ふと、その手元に目が行った。
両手に下げた、紙袋・・。
「ねぇ、その袋、お菓子屋さんのやつだよね?」
「え?ああ、うん。」
突然の質問に、菓子のことなど完全に忘れていたシルファはきょとんとする。
そんな彼に、ラヴィンが実に聞きにくそうに口を開いた。
「あのさ・・、中身大丈夫?こんなに動いて・・。」
「・・え、あ・・そういえば・・。」
すっかり忘れていた。
嫌な予感がして、急いで袋を地面に置くとそっと箱を開いて中を確認する。
「う、わぁ・・。」
予感的中。
というか当たり前のように、崩れた菓子がそこにあった。
「うわー。しかも、よりによってコレか・・」
焼き菓子やキャンディーは無事のようだったが、綺麗だった砂糖菓子が、砂場の砂のように悲しい姿になっている。
本日一番のメインが。
『待ち遠しくって』
イルナリアの、期待に満ちた瞳が浮かんでシルファは大きなため息をついた。
「ああーどーしよ。すみません姉上・・。」
無残な砂糖菓子を前にして、しゃがみこんだまま呻くシルファに、おそるおそるラヴィンが尋ねた。
「それってどこのお店?ごめんなさい、弁償するよ。私のせいだもん。」
すまなさそうに言う彼女に、シルファは事情を説明した。
遠方からの取り寄せ、なかなか入荷しない特別なもの。
がっくりと頭を垂れるシルファとは対照的に、話を聞いたラヴィンはがばっと立ち上がった。
「もしかしたら・・!」
え?と顔上げるシルファ。
「叔父さんの店ならあるかもしれない!」
勢い良くシルファを見る。
「うん。あそこは地方からの取り寄せ品もたくさん入荷してるし、食品関係も扱ってるから。そんな人気のある商品ならもしかしたら!・・あ、いや、なかったら申し訳ないんだけどね?どうしよう、そしたら。」
表情豊かに、一生懸命話す彼女。
その様子が可笑しくて、シルファはつい笑ってしまった。
そんな彼を困ったように見下ろすラヴィン。
「あ、ごめんごめん。えと、叔父さんの店?ってさっき言ってた・・ええと・・ウォルズ商会、だっけ?」
男たちとの会話を思い出す。
「うん、そう。じゃあとりあえず行ってみようよ。詳しくは歩きながらね。」
そう言うと、まだしゃがんだままのシルファに、ラヴィンは手を差し出した。
「そういえば。助けてもらったのに、まだ名乗ってなかったよね。私、ラヴィン・ドール。・・あなたの名前、聞いてもいい?」
遠慮がちに問うラヴィンに、シルファは柔らかく笑った。
「うん。もちろん。僕はシルファ。シルファ・ライドネル。」
ラヴィンの手をとりながら、シルファも立ち上がる。
「じゃあ、お願いします。あるといいなぁ。」
ぺこりと頭を下げるシルファ。
「うん!行こっか!」
ラヴィンもシルファに笑顔を向ける。
二人は店に向かい、並んで街道を歩き出した。
道すがらのおしゃべりに、さっきのこと、お互いの家のこと、家族のこと・・・いろんな話をしながら。
それは二人にとって、なんだか楽しい時間だった。
- 第5章 友達② ( No.25 )
- 日時: 2015/05/27 15:58
- 名前: 詩織 (ID: yvsRJWpS)
「おや、お帰りなさいラヴィン。図書館は楽しかったですか?」
ラヴィンが店のドアを押して中に入ると、結わえられた鈴がチリンチリンと可愛らしい音を鳴らした。
仕事中だったアレンが顔をあげ、声をかける。
「んー。楽しかったっていうか・・、気持ちよかった?」
「は?」
ぽかんとするアレン。
すると開きかけたドアの向こうから、小さな笑い声が聞こえた。
「ラヴィン、お客さんですか?」
「あ、そうなの!シルファ、入って入って。」
ラヴィンにうながされ、シルファは店の中に入った。
彼女の後ろから現れた少年に、アレンは目を丸くする。
少し緊張した面持ちで、彼はアレンに向かってぺこりと挨拶をした。
「は、初めまして。シルファと言います。えと、探している商品がありまして・・」
そんなシルファを見てアレンはなぜか驚いた顔をしている。
隣に並ぶラヴィンとシルファを交互に見ながら。
「アレン?どしたの?聞いてる?アレンってば。」
「あ、すみません。」
我に返ってラヴィンを見る。
「いやぁ、ラヴィンが年の近い男性を連れてくるのは初めてだったもんで。社長がなんて言うかなぁと思って・・。」
アレンの反応に、ラヴィンはぽんっと顔を赤くした。
「ち、違うってば!何言ってんの!シルファは私の恩人で、この店のお客さんだよ!」
もう!と頬を膨らませるラヴィンに、ああそうなんですかーすみませんと苦笑する。
なんだ、ちょっと面白そうだったのに。
内心思ったことは言わずにおいた。
さきほどの出来事とシルファの事情をアレンに話すと、ラヴィンがシルファを振り返って言った。
「シルファ、こちらはアレン。叔父さんの親友でウォルズ商会の幹部さん。扱ってる商品のことは何でも分かるよ。」
「アレンです。よろしく。ラヴィンがお世話になったようで。ありがとうございました。」
アレンが手を差し出す。
「あ、こちらこそ。」
その手を握り返しながら、シルファはアレンを見る。
灰色の髪と瞳。すっきりした目鼻立ちで、穏やかな微笑みを浮かべている。
道すがら聞いたラヴィンの話し方からすると、彼女のよき理解者・・叔父と同じ保護者のような立ち位置にいる人物のようだ。
年齢も彼女の叔父、ジェイド・ドールと同じくらいだという。
「ではさっそく商品を確認してみますね。」
アレンは店内で働いていた女性従業員に声をかけると、二言三言やりとりし、彼女は店の奥へと入っていった。
2人に向き直ったアレンはシルファに声を掛ける。
「少しお時間をいただけますか?今調べてもらってますから。」
「あ、はい。時間は大丈夫です。」
壁にかかった時計を見ながらシルファは答えた。
「では、せっかくですから中でお茶でもどうぞ。最近入荷したばかりの隣国のお茶はいかがです?香りがいいんですよ。」
アレンの言葉に、ラヴィンが続ける。
「そうしなよシルファ。せっかくだから、もう少し話もしたいし。ね?」
屈託のない笑顔を向けられて、嬉しいような照れくさいような気分になりながら、シルファは頷いた。
そんな2人を楽しそうに眺めていたアレンに、そういえば、とラヴィンが声を掛けた。
「叔父さんたちは?まだ仕事中?」
「ん?いえ、今日はもうこっちにいますよ。」
ラヴィンの言葉にアレンが苦笑した。
ラヴィンたちに対する大人の笑顔から、同世代の友人に向ける顔。
ちょっと呆れたような表情にラヴィンは首を傾げる。
「ついさっきまで、商談で出掛けてましてね。・・まぁ今回はちょっと難しい商談だったから、社長もかなり気を遣ったんでしょうけど。帰ってくるなりストレス発散だー!って。」
そう言うと、入り口のドアとは反対方向に目線を向けた。
「中庭です。ラパスもいますから、行ってみたらどうですか?」
顔を見合わせたラヴィンとシルファは、とりあえずアレンに言われるまま、中庭に行ってみることにした。
綺麗に積み上げられた商品の間を抜け、裏口のドアを開ける。
暖かかった室内から外にでると、一気に冷たい風が吹きつけてきて思わず身震いしてしまう。
午後の日差しに目を細めながら、中庭のほうへと歩いていくと、なにやら人の声と金属音がした。
なんだろうと思いながら中庭へとたどり着いた時、シルファは思わず立ち止まり、感嘆の声をあげていた。