コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第5章 友達③ ( No.27 )
日時: 2015/05/24 09:24
名前: 詩織 (ID: /a2DLRJY)

陽射しがきらきらと、芝生に反射する。

まだ風の冷たい冬の青空の下、中庭では、2人の男が剣を構えて対峙していた。


1人は茶髪に色黒の壮年の男。
もう1人は金髪に青い目をした青年。


体格のいい2人の男たちは、鋭い目線でお互いを見つめている。


「っはっ!」
茶髪の男が地を蹴って剣を振るう。
すかさずそれを受ける金髪の青年。
キィン!と大きな金属音を立てて剣が交わる。


目を瞠る速さで何度か剣を交えるたび、小気味良い金属音が辺りに響いた。
幾度かの打ち合いの末、両者譲らずぐぐっと押し合っていたが、茶髪の男のほうが一歩踏み出し力を込め、青年の体が沈む。
このまま決まるか。
と思った瞬間、今度は金髪の青年が剣を横に凪ぎ払い、
同時に、上手くかわしてそのまま後ろに飛び退った。


・・荒い呼吸の音がする。
そうして再び距離を保ちながら、2人は剣を構えなおした。
空気が張り詰める。

その真剣勝負が楽しいのか、構えながら茶髪の男・・ジェイド・ドールがニヤっと口の端を上げた。
それを見た金髪碧眼の青年・・ラパスも、肩で息をしながら不敵な笑みを浮かべる。
2人とも、とても楽しそうだ。



「・・わぁ。すごい・・。」
瞬きすらできない2人の剣捌きに目を奪われたまま、シルファは感嘆の声を漏らした。
「かっこいい。」


そんな彼に、同じく2人に見惚れていたラヴィンがさらっと言った。
「ラパスはね、前は王宮の騎士団にいたんだって。」
「ええっ。」
驚くシルファ。思わず声が大きくなる。

「王宮騎士団って、すごいんだよね?入団試験が物凄く厳しくて、ほんとに実力のある人じゃないと入れないって聞いたことあるよ?」
「うん。そうみたいよね。」
ラヴィンが視線は変えずに答えた。
「しかも、まだ若いのに小隊長までやってたらしいよ。」
「・・めっちゃくちゃエリートだよ。あれ?でも、その・・ラパスさんて、ここで働いてるんじゃなかったっけ?」

「そうなの!」
シルファの質問に、ラヴィンが目を輝かせて振り向いた。
「王宮にいた頃にね、叔父さんと知り合ったらしくてね。詳しくは知らないけど、仲良くなるうちに叔父さんに憧れて、そばで働きたいって言ったらしいよ。それで騎士団辞めて、ウォルズ商会の護衛の仕事してるの。」
まるで自分のことのように嬉しそうに話す。

「そうなんだぁ。」
シルファはジェイドに視線を向けた。

(どんなひとなんだろう。)

興味が沸いた。
普段一族の中で修行に明け暮れる身のシルファにとって、全てが新鮮だった。


「あーあ、まだやってますね。」
後ろから声がした。
振り返ると、後から来たアレンが腕を組んで2人の男を見ている。

「いくら試合用の剣だといってもですねぇ、真剣での勝負なんて。いくらやめろと言ったって聞きゃあしない。まったくあの人たちは。」
その心底呆れたような言い方に、ラヴィンが声をあげて笑った。

そうしている間にも、剣のぶつかり合う音と、2人の掛け声が響いてくる。

「それに見て下さいよ、あの格好。」
言われてジェイドとラパスをよく見ると、2人ともこの寒空の下、黒いスーツのパンツに白シャツ一枚という、なんとも寒々しい格好で戦っている。
そういえば、商談帰りだと言っていた。

「社長が風邪でも引いたら仕事にならないって、再三言ってるんですけどね、私は。ラヴィンからも言ってやって下さ・・。」
そう言いかけて、あっ、と声を上げた。

ラヴィンもシルファも急いで視線を勝負中の2人に戻す。


「っ!!」
渾身の力を込めて振るったラパスの一撃で、ジェイドの手から剣が弾き飛ばされた。

「っくそっ!」
そのまま体制を崩され思わず膝をつく。素早く立て直そうとするジェイドの喉もとに、寸分の狂いなくラパスが切っ先を突きつけた。
ジェイドの動きが止まる。

次の瞬間。ドサッと言う音と共に、ジェイドの後ろの芝生の上に彼の剣が転がった。

2人は睨みあったまま。
荒い呼吸音だけが響く。
そして・・・。



「あー!!参った!参ったよ。俺の負けだ。」
静寂を破りぷはーっと大きく息を吐くと、ジェイドはそのまま芝生に倒れこんだ。

「やっぱりお前強いわーラパス!かなわねぇなぁ。」
仰向けに大の字になったまま、負けた割には楽しそうな声でジェイドが言う。

「いやいやいや、何言ってんすか。俺は本職ですもん。独学のくせにここまでやる社長が凄いんですって。」

同じく地べたに座り込みながら、ラパスが笑った。
この寒さの中、2人は額にかいた汗を拭いながら、しばらく笑いあっていた。


・・そうして、やっと気づく。
呆れ顔のアレンと、ラヴィン、そしてその隣に並ぶ初めてみる少年の姿に。

第5章 友達④ ( No.28 )
日時: 2015/05/24 21:44
名前: 詩織 (ID: /a2DLRJY)

どうぞ、とにこやかに笑って、店で働く女性が紅茶の入ったティーカップをテーブルに並べる。

「ありがとうございます。」
シルファはお礼を言って小さく頭を下げた。
紅茶のいい香りが漂う。

店の奥にある応接室。
可愛らしくセッティングされたテーブルに、ラヴィンとシルファが並んで座っていた。

「ふぅー。すっきりした。」
「そっすねー。動いたら腹減ったっす。」
「アレンもやってみりゃいいのにな。」
「楽しいっすよー。」
「・・遠慮しときます。」
「んな嫌そうに言うなよお前は。」

がやがやと話しながらドアを開けて入ってきたのは、ジェイド、ラパス、アレンの3人。
汗だくのまま芝生に座り込んでいた男2人を、
「気が済んだなら、さっさと着替えてきてくださいよ。ほらほら。」
とアレンが追い立てて、よれよれになった白シャツから私服に着替えてきたのだ。


「あの、お、お邪魔してます。」
シルファは立ち上がると、ドキドキしながら挨拶をした。
「ああ、アレンから聞いてるよ。ラヴィンを助けてくれたんだってな。ありがとう。叔父の、ジェイドだ。」
さっぱりした明るい笑顔でそう言うと、よろしくと言う様に片手を差し出す。
シルファははにかんだような笑顔を浮かべ、その手を握った。


・・コートは、部屋に入った時に脱いで、上着掛けに掛けてある。
今の彼はセーターにズボン。
手を伸ばすと袖口から手首の辺りが見え、そこにちらりと光るものが覗いた。

その差し出された手を握ったジェイドの目が一瞬こわばったことに、シルファは気づかない。
だかそれはほんの一瞬のことで、すぐにもとの明るい表情に戻った。


握手をおえて席につきながらジェイドが尋ねた。
「もしかして君は、ライドネル家の坊ちゃんかい?」
「え?ええ、そうですけど・・」
きょとんとした顔でジェイドを見る。

「いや、その手首の・・ブレスレット・・か。どこかで見たと思って思い出したんだ。王宮で、ユサファ殿にお会いした時、同じようなものをつけていたような気がしてな。」
「父上に会ったことがあるんですか?」

驚いたようにシルファが身を乗り出した。
「ああ、仕事で王宮に入った時に、挨拶程度だがな。なんせ魔法使いの一族『ライドネル』家の当主ともなれば、この辺りじゃ有名人だからさ。」

(うわーそうなんだー。)
意外な繋がりに、シルファはなんだかそわそわした。