コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第5章 友達⑤ ( No.30 )
日時: 2015/05/26 22:39
名前: 詩織 (ID: KfCyy7lh)

「これ、魔法使いが身につける装飾具なんです。」

シルファは腕につけた銀細工のブレスレットを皆に見せた。赤い石のあしらわれた、不思議な文様のものだ。

「流派によっても違うんですけど、うちはこのブレスレット型の装飾具を皆身につけてるんです。魔力が込められてて。まあ、お守りみたいなものですね。」
へぇー、ほう、とそれぞれ声を上げながら、彼の腕の装飾具を見ようと顔を寄せる。
視線が集まったからか、シルファは照れて赤くなった。


「そう言えば、君の兄上たちにも会ったことあるぜ。ま、会ったっつうか見かけたって程度だけど。」
「そうなんですか。うわーびっくりです。」
ジェイドの言葉に再び驚くシルファ。
そんな2人にラヴィンが問いかけた。

「お兄さんたちも王宮で働いてるの?」
「うん。」
答えたのはシルファだ。
「上の2人は父上の任務を手伝ってるよ。三番目の兄はまだだけど、今度貴族の屋敷の護衛の仕事に就くことが決まってる。今はその準備をしながら僕らと修行中なんだ。」
「そっか。それで?王宮で働く魔法使いって、シルファのおうち以外にもいるの?」

普段縁のない王宮や魔法使いの話題に、興味津々のラヴィン。
次々と質問が飛び出す。

好奇心旺盛なラヴィンに押されつつ、シルファは簡単に説明してみた。
「えっと、もちろん他にもいるよ。うちみたいにギリア出身の家系もあれば、もっといろんな地方から集まってきている人たちもいるしね。皆で話し合って、仕事の方針を決めるんだって。」

「王宮付魔法使いといやぁ、魔法使いの職の中でも花形だもんなぁ。」
横からジェイドが言った。
「ユサファ殿はその中心にいる。代々の王宮魔法使いたちの長はライドネル家出身者が多いからな。君の父上や兄上がたはすごいと思うぜ。」
シルファを見ながらジェイドが笑う。

「あ、ありがとうございます。」
自身も尊敬する家族をほめられて、シルファは嬉しそうに顔を赤くした。

そう、嬉しい。
もちろん嬉しいに決まってる。

けど。

「ん?どした?」
シルファの浮かない表情に気づいたジェイドが、優しい口調で尋ねた。
「あ、いえ。そのっ。」
自分の胸のうちが顔にでていたと気づき、シルファは慌てて言った。
「すみません。たいしたことじゃなくって。」
ジェイドを見ながら苦笑する。

「うち、父や兄たちはすごいんです。身内の僕が言うのもなんですけど、優秀っていうか。魔力も強いし、それを駆使する術の使い方も。特に父は歴代の当主の中でも、持っている魔力の強さは5本の指に入るって言われてます。」
「だろうな。」
ジェイドが頷く。
「でも僕は・・。」
「?」

黙ってしまいそうになるシルファを、ジェイドが視線で促す。
言ってみていいよというように。

「なんか不思議なくらい、兄たちに追いつかなくて。自分は自分て分かってるんです。自分なりに頑張るしかないって。でも、僕は何をやってもかなわないんです。兄たちにも、もちろん父なんて論外で。それでも・・」

諦めにも似たその笑顔は、なんだかとても寂しげで。
だんだん声が小さくなって、最後はつぶやくようにぽつりと言った。
「それでも、近づきたいんです。」


うつむくシルファの背中をジェイドがぽんぽんと叩いた。
顔をあげると、暖かい瞳で自分を見つめるジェイドがいた。
「まあ、いいんじゃねぇの。まだ、これからだろ。」
どっしりと安心感のある、優しい笑顔。
大丈夫だ、と言われたようで、心が温かくなった。

会ったばかりだけど。
たったこれだけのことだけど。

皆がこの人を好きな理由が、ほんの少しだけ分かった気がした。


「すみません!なんか愚痴っぽくなっちゃって。」
安心したら、急に恥ずかしくなって慌てて紅茶を飲み干す。
(僕何言ってるんだろう!初めて来た場所で、初めて会う人たちなのに。)
自分でも気づかぬうちに、不安がたまっていたのだろうか。・・話し始めたら止まらないくらいに。

それでも、何故か不思議と後悔はなかった。
ここの人たちの雰囲気が、そうさせているんだろうか?
ラヴィンからさんざん話を聞いたせいだろうか。
なんだか暖かくて、居心地がいいな、と素直に思った。


そんなシルファを元気付けるように、ラヴィンが明るい声で言った。

「でもシルファだって凄いよ!今日は私を助けてくれたじゃない。聞いてよ皆、あいつらひどいんだよ。か弱い女の子に5人がかりで、ナイフまで出すんだから。」
「ん?か弱い・・ですか?」
「か弱いの!」
アレンの突っ込みにラヴィンが頬を膨らませる。
皆が笑った。シルファも笑った。

「シルファが助けてくれなきゃどうなってたか。あ!そういえばねぇ・・!」
例の隠し子だの愛人だのという話をすると、皆大笑いした。
話題の主のジェイドだけは、なんだよそれ、と苦笑いだったが。

第5章 友達⑥ ( No.31 )
日時: 2015/06/03 22:16
名前: 詩織 (ID: TtFtbd5q)

まだ日が沈むのが早い季節。
窓の外は、もうすっかり夕暮れだ。

帰り支度をしながらその景色を眺めていたシルファは、その視線を隣にいるラヴィンへと向けた。
「ラヴィン、今日はどうもありがとう。楽しかったよ。」
「私もだよ。いろんな話が聞けて、楽しかった。」
嬉しそうに笑う。

玄関までシルファを見送りながら、ラヴィンが言った。
「ねぇ、良かったら、また遊びにきて?シルファの話、もっと聞いてみたい。魔法使いの話とか。」
「うん。僕も、ラヴィンと話したいよ。それに、ジェイドさんの冒険談とか、ラパスさんの剣の話とかも、もっと聞いてみたい。また、来てもいいかな?」

あれから、応接室はいろんな話で盛り上がった。
特にシルファをわくわくさせたのは、ジェイドの冒険家時代の話だ。
今は修行中であまり王都からでたことのないシルファだが、だからこそ、外の世界にもすごく憧れていた。

目をきらきらさせて彼の話を聞くシルファを見て、「ラヴィンの顔と似てる!」とウォルズ商会の面々が笑った。

隣のラヴィンに目をやると、まさにおとぎ話をせがむ子供のようにキラッキラのまなざしでジェイドを見ていて。
自分のことは棚にあげ、つい吹き出してしまいラヴィンに睨まれた。



「もちろん、いつでも来て下さいね。」
穏やかに微笑んで言ったのは、後ろから見送りに来ていたアレンだ。
「はいこれ。お姉さんにもよろしくお伝え下さい。」
手に持った紙袋をシルファに差し出す。
「わぁ。助かります。ほんとにありがとうございました。」
受け取りながら、ほっとした顔で頭を下げる。
袋の中には例の砂糖菓子。
イルナリアもきっと喜ぶだろう。


ドアを開けて外にでると、冬の夕暮れの風が吹きつけて、顔が冷たい。
でも、なんだか楽しかった時間で満たされた気持ちで、寒さはあまり気にならなかった。

「じゃあね。おじゃましました。」
「うん。」

手を振って歩き出そうとする。
そこをラヴィンが呼び止めた。
「あ、あの、シルファ。」
ん?とラヴィンを振り返る。

「今日ね、あの男たちに、言ってくれたでしょ?と、友達になるって。」
あの男たちが、再びラヴィンに仕返しにくるのを止める為、とっさにシルファが叫んだセリフ。
理由はさっき聞いた。でもそのことよりも。
「私、嬉しかったよ。かばってくれたのもそうだけど、友達になるって言ってくれて!」
照れたように明るく笑って、シルファに手を振る。
「だからさ、また、絶対遊びにきてね。」

そんなラヴィンに目を丸くしたシルファだが、次の瞬間にはなんとも言えない笑顔で答えた。
「うん。じゃあまた!」

手を振り歩き出す彼を見送って、ラヴィンはドアを閉めた。

新しい友達ができた。
この街でできた友達。
嬉しそうに鼻歌を歌いながら、部屋へ戻る。


そんなラヴィンとシルファの姿を、アレンは微笑ましく眺めていた。
小さな気がかりはあったけれど、それはまだ、心の隅に隠しておいて。