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Re: はじまりの物語 ( No.41 )
日時: 2015/06/28 13:04
名前: 詩織 (ID: TtFtbd5q)

やっぱりね。
そう言ってシルファは、あの日のイルナリアとの会話を思い出した。

「あの日、僕と姉上は書庫を調べまわって、この文字が載ってる文献を見つけたんだけど・・」


あの日。
ライドネル家の書庫、2階奥。
2人は机に山のように積み上げた本たちと格闘していた。

吹き抜けの広い部屋に並んだ書棚は、ぎっしりと本で埋まっている。
魔法に関する蔵書なら、質、量共に王立図書館にも引けをとらない、ライドネル家自慢のひと部屋である。


「うーん。『魔法文字』で探しても、こっちには載ってないなぁ。何の本で見たんだっけ・・。」

ペラペラとページをめくりながらシルファが唸ると、向かいの席で同じような姿勢をとっていたイルナリアが小さく声を上げた。
「えっ?!何か分かりました?!」
シルファは腰を浮かせて彼女の本を覗き込む。
そして。

「なになに。・・・『魔法使いの食卓〜おやつ編〜』・・って。姉上・・。」
なんですか、コレ?

そんなセリフを視線に込めて。じとーっと見つめると、イルナリアは顔を赤くして目をそらした。
「だ、だって、そこの棚にあったから、つい気になって。」
気まずそうにもじもじしていたが、なおも黙って見つめ続けるシルファの視線に、今度はイルナリアが反撃する。
「シルファこそ!その本の山に混ざってるのは何なのよ。『魔法はどこからやってきたのか』、『魔法概論』、『伝説の古代魔法』・・って魔法文字関係ないじゃないの!あなたの趣味でしょう。」
「え、いや、そんなことっ。」
「そんなことあるでしょ!」


・・大の本好きで探求好き。
没頭すると止まらない。
普段から仲の良い姉弟であるが、この分野に関しては兄弟の中でも特にそっくりな2人だった。
2人で図書館に行ったら、例え一日中でも、お互い無言でひたすら本を読みふけっているだろう、きっと。

「ああ、ええと。そんな場合じゃないのよね。ラヴィンちゃんたちが帰ってくるまでに、この文字がなんだったのかくらいは見つけ出したいわ。」
「そうですよ!帰ってきたらびっくりさせたいし。頑張らなきゃ。」

気を取り直して、文字に関する資料を手にお互いページをめくり出す。
途中何度か脱線しそうになりながらも、(実際脱線したりしながら)山のような資料を次々と調べ上げていった。


「・・ふぅ。姉上僕ちょっと休憩していいですか・・。」
めぼしい本を積み上げた山に一通り目を通して。
シルファは大きく息をつきながら机に突っ伏していた。

「疲れたぁ。」
そのままの姿勢で小さく息を吐くと、イルナリアも大きく伸びをして頷いた。
「そうね。だいぶ調べたわよね。」
読みあさった資料に目をやる。
だいぶ調べたつもりだったが、未だそれらしき記述は見つからない。

確かにここの本で見た気がするのにな。
やっぱりそんなすぐには無理かしらねぇ、と内心イルナリアは思っていた。


しかし。
答えは意外なところからやってくる。

「じゃあちょっと休憩しましょ。お茶でも飲んでくる?」
「あ、いえ。僕はここで・・」
言いながらシルファが手にとったのは、さきほどイルナリアに怒られてよけてあった自分好みの本。

『伝説の古代魔法』。

「ちょっと、休憩なんじゃなかったの?」
姉の呆れたような視線も気にせず、シルファは本を開く。
「気分転換ですよ、気分転換。ほら、この本だって珍しいんですよ、異国の、しかも古代の魔法の専門書なんだから。謎が多くて面白いんです、古代魔法。」
「さすが、シルファ。マニアックな本ね。」
「でもほんとは姉上も好きでしょう?」
そう言ってからかうようにイルナリアを見る彼に、イルナリアは一瞬驚いた顔をしたが、結局苦笑して頷いた。
「まぁね。」
2人してその本を覗き込んだ、その時。


「・・お前たち、こんなとこで何してるんだ?」
その声に2人はぴたりとおしゃべりをやめた。
いつの間にか2人を見下ろすように立っていたのは、一番上の兄・リュイだ。

「珍しいじゃないか、2人で書庫にいるなんて。・・なーに調べてんだよ?」
からかうような笑みを浮かべて、2人を覗き込む。

言いながらシルファの手元の本を取り上げる。
シルファは慌ててそれを取り返した。

「なんでもないですよ。ただ読みたい本が溜まってて・・。たまたま姉上と一緒になっただけです。」
リュイの目は見ずにそう言ったシルファ。
そんな弟の言葉に少し驚いたイルナリアだったが、何も言わずに兄弟を見守っていた。

「ふぅん・・。」
リュイは何か言いたそうだったが、結局そのままイルナリアの方に視線を向けるとふっと笑った。
「・・まぁ、そういうことらしいな。」
イルナリアの横にあった本を手にとると、くっくっと笑って言った。
「イル、お前相変わらずこういうの好きなんだな。」
「リュイ兄様こそ。」
と、イルナリア。
「かわいい妹と弟をからかうの、ほどほどにして下さる?もうちょっと優しくなったら、兄様も混ぜてあげるのに。」
すました顔で自分を見上げる妹に、リュイは思わず吹き出した。

(一応小声で)ひとしきり笑ったあと。
リュイはまだ可笑しそうにシルファを見た。

「はは、悪かったよ、邪魔したな。じゃあひとついいこと教えてやろうか。」
「「いいこと?」」

仲良く声を揃える妹と弟をさも面白そうに見下ろして、リュイが言った。
「お前ら、その魔法文字の資料、探してんだろ?」