コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 ④ ( No.68 )
日時: 2015/09/08 22:10
名前: 詩織 (ID: hAeym9pF)

「やだやだやだっ!何かいるっ!何かいる何かいる!」
「うぐっ、ちょ、ラヴィン、大丈夫だからちょっと離してっ。首がっ」
ラヴィンが服の裾を思い切り引っ張るものだから、首を絞められたシルファは哀れな声を上げた。

———もう何度目か分からないこの光景。
木々が大きく騒めく度、足元からカサカサと小動物が飛び出す度、
「ひっ。」やら「ぎゃぁっ。」などと叫んで、ラヴィンはシルファの服を引っ張ったり、飛びついて転倒させたりしていた。
その度シルファは必死になだめるのだが、相手はあのラヴィンである。
対抗するにはそれなりに体力がいるということで。

そんなこんなでやっと墓地の再奥地、石碑の祀られている場所まできた時には、たいした距離でないにも関わらず、シルファはすでに疲労困憊の様相であった。

「はぁ。苦しかった。」
「うう・・。ごめんなさい。」

目的地にたどり着いて少し落ち着いたのか、うなだれるラヴィンにシルファは苦笑した。
「僕は大丈夫だけど・・、ホントに苦手なんだね。」
「うん。」
しゅんとするラヴィン。
そんなラヴィンを珍しいなと思いつつ、彼女の肩にぽんと手を乗せて、シルファはその顔を覗き込んだ。
「誰だって苦手なものはあるよ。笑ってごめん。あんまり意外だったからさ。」
「ん、分かってる。ありがと。」
シルファを見上げ、ラヴィンも小さく苦笑した。

「じゃあ、早速ここの文字も調べよう。ラヴィン、早く帰りたいでしょ?」
「うん!でもあの道をまた通るのはちょっと不安だなぁ。」
「はは・・。僕もだよ・・。」
ラヴィンの言葉に、答えるシルファはどこか遠い目をしている。
「シルファ?」
「あ、いや。何でもない。さ、資料資料。」
カバンから荷物を取り出すと、2人は今までと同じように、丁寧に石碑を調べ始めた。

服が汚れるのも気にせず地べたに座り込む。
大きな木々の影になるその場所の地面は、ひんやりと冷たく、日向の暖かさには程遠い。
それでも2人は目の前の石碑の調査に没頭していった。


———— どれくらい時間が過ぎただろうか。
突然、大きな声が辺りに響いた。

「お前たち、そこで何しとる!」

集中していた2人は、そろって悲鳴を上げた。

「うわぁっ!」
「ひいぃっ!」

思わず抱き合って自分を見上げる2人を、老人は訝しむように眺めた。
「なんじゃ、お前ら。こんなとこで何しとる。それは村の守り神、エルス様の石碑じゃぞい。」

立っていたのは1人の老人。
白い髪、白い髭。ぎょろりとした目つきで2人を見ていたが、そのうち思い出したように言った。
「ああ、お前さんたち、村長のとこに来た研究者とかいうのの仲間だったか。そういえば、昨日見かけたな。客人がこんな墓場の奥で何しとる?」
老人の質問に顔を見合わせる2人。代表して、シルファが口を開いた。
「あの、僕たちは・・」
自分たちの目的をかいつまんで話す。

もちろん、村人にとっては崇拝する神の神聖な石碑だ。
魔法絡みの話はあえてせず、ただこの村の神様のことが知りたくて、とかなんとかごまかしながら話した。
シルファの説明を聞き終えると、老人はふむ、とひとつ頷き、2人の隣に腰を下ろした。

持っていた手提げの袋から菓子を取り出すと、おもむろに石碑の前に並べだす。
「エルス様は、わしらの村をずっと昔から守ってくださっとる。わしのご先祖様の時代からずっとな。失礼なことはしちゃならん。聞きたいことがあればわしに聞け。わしが知っとることなら教えてやろう。」
老人の意外な申し出に、2人は再び顔を見合わせたが、同時に頷くと慌ててノートとペンを取り出した。

「「お願いしますっ!」」

第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜⑤ ( No.69 )
日時: 2015/09/09 22:47
名前: 詩織 (ID: hAeym9pF)

「エルス様はなぁ、そりゃあ美しい女神様じゃよ。」
まるで会ったことがあるかのように、うっとりとした様子で老人は言った。

「え?おじいちゃん見たことあるの?」
「バカか小娘。ある訳無いじゃろが、神様じゃぞ。それにおじいちゃんではない。ノエルさんと呼べ。」
きょとんと聞くラヴィンに、ノエルと名乗った村の老人は顔をしかめた。
「え〜、だってそういう言い方したじゃない!」
「言い伝えじゃ、言い伝え。エルス様はなあ、ずーーーっと昔から、この辺りの土地を守って下さっている女神様じゃ。わしなんか子供の頃からずっと、こうして祈りを捧げておる。」
「へぇ、じゃあこのお菓子もエルス様への捧げものなの?」
石碑の前に並んだ菓子を指さす。
「そうじゃ。やらんぞ。」
ノエルの言葉にラヴィンは目に見えてガッカリとした顔をした。

ペンを握り締めたまま2人の会話を聞いていたシルファ。
開いたノートに『エルス様』、『美しい—・・と書きかけていた手がピタリと止まる。
「え?神様って・・女神さま?女性なの?」
「なんじゃお前、そんなことも知らんのか。」
呆れたようにノエルが言う。
「あ!ごめんシルファ!言ってなかったっけ?私たちも前回の訪問の時村長さんに教えてもらったんだ。」
「そうなんだ。」
頷くと、ノートに美しい女神、と書き込んだ。


「それで、この石碑がいつ頃のものかって、ノエルさんは御存知ですか?」
ダメもとで聞いたシルファの問いに、案の定、ノエルは首を横に振った。
「知らん。そんなことは、村の誰も知らんよ。遥か昔の話じゃ。」
「ですよねぇ。」
シルファもラヴィンも、あーやっぱりなという顔をした。
「そりゃそうじゃ。ずっとずっと昔、わしらのご先祖様がこの土地に住むようになった、それよりも昔の話じゃからなぁ。」
「ふぅん。そうですか。・・・。」
「・・・。」

一瞬の沈黙の後。

「「え?」」
2人同時にがばっとノエルを凝視した。

「な、なんじゃ。」
2人に見つめられ、ノエルは体を後ろに引いた。

「おじいちゃん!今なんて言った?もっかい言って!」
「ノエルさんだと言っ・・」
「ノエルさんノエルさんノエルさん!今のもっかい!」
「わ、分かった分かった。うるさい小娘じゃな。なんじゃ急に。」
ラヴィンに急かされて、怪訝そうな顔でノエルは先ほどのセリフを繰り返した。
「『そりゃそうじゃ。ずっとずっと昔、わしらのご先祖様がこの土地に住むようになった、それよりも昔の話じゃからなぁ。』」
「この村が作られる前から、この石碑はここにあったってことですか?!」
ノエルに掴みかからんばかりの勢いで、シルファは尋ねた。

(だって、もし本当にそうだとしたら・・やっぱりこの石碑は・・!)

逸る気持ちを抑えて、ノエルの返答を待つ。

シルファの形相に押されながら、ノエルはこくこくと頷いた。
「ああ。わしが子供の頃、ひいじいさんに聞いた話だ。ひいじいさんはそのまたひいじいさんに聞いたと言っとった。」
「で、でも、村長さんや村の奥さんたちはそんなこと一言も・・」
ラヴィンが言うと、ノエルはフンと鼻を鳴らした。
「今の若い奴らは知らんのじゃろ。」
「その話、もっと詳しく教えて貰えませんか?」
懇願するシルファに、ノエルはしかめっ面で答えた。
「だいたい遥か昔の話といったじゃろ。記録になんか残っとらんしな。全部言い伝えじゃ。それでもいいのか?」

そう言いながらも、崇拝する女神の話ができるからか、それとも他の村人の知らない話を自分が話せるからなのか、どこかまんざらでもない様子が伺える。
「はい!なんでもいいんです。この石碑に関してなら。伝承でも昔ばなしでも!お願いします。」
「お願いします、ノエルさん。」
シルファの隣でラヴィンも一緒に頭を下げた。

「分かった分かった。最初に聞けと言ったのはわしだしな。知ってることは全部教えてやる。」
ノエルは2人を前に、女神エルスとエイベリー村の石碑について語り始めた。