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- 第12章 『魔女の棲む山』 〜入口、発見〜 ( No.74 )
- 日時: 2015/09/24 21:11
- 名前: 詩織 (ID: z6zuk1Ot)
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見〜
そこにあったのは、暗い、洞窟のような入口だった。
木々の生い茂る森を抜け、山のふもとまでやって来た2人はしばらく辺りを探索し、その『入口』を発見した。
木々の伸ばした蔓に遮られ、ぱっと見には気づかないような場所だったが、そこはラヴィンの経験値がものを言い、案外楽に見つけることができたのだ。
『入口』は、ラヴィンの背丈くらいの高さだから、シルファが入るには少しかがまないといけなさそうだ。
横幅は割と大きく、2人でも充分行けそうに見える。
「洞窟・・かな?」
真っ暗で見えないその先を覗き込むように、呟くラヴィン。
表面に手を置くと、ごつごつした岩肌が触れた。
「いや、これはノエルさんの言ってた・・」
同じく入口の先に続く暗闇を見つめながら、シルファが言った。
「昔の坑道かな?ほら、昔は鉱山だったって。この辺りが採掘場だったのかな。」
そう言うと、ふっと息を吐き何か小さく呟いた。
「えっ!?」
ラヴィンが驚いた声を上げる。
突然、暗闇だった洞窟内に、ポッと明かりが灯った。
と思ったら、明かりはポン、ポンと分裂し、ひとつがふたつ、ふたつがよっつ。
まるで街灯のように、洞窟の中をほんのりと照らした。
唖然として見ているラヴィンに、シルファが声をかける。
「光の魔法。一定時間内ならこうして明るくできるよ。」
そう言いながら、一歩、内部へと足を踏み入れる。
「やっぱり・・。これ、ずっと奥まで続いてるよ。中はどうなってるんだろう。」
入口から奥を覗くと、洞窟のように見えたそれは、ところどころ木材のようなもので補強されていた。
やはり自然の洞窟ではなく、人工的に造られた坑道の跡のようだ。
朽ちかけた木材の様子から、流れた年月が伺える。
少しかがんだ姿勢のまま、シルファはそっと目を閉じた。
ゆっくりと深呼吸をすると、意識を集中させる。
しばらくの間そうしていて。
「———魔法の気配は特に感じないな。」
言いながら、静かに目を開けた。
そして、まだぽけーっと魔法の明かりに魅入っているラヴィンが返事をしないことに気がついて、苦笑しながら振り返る。
「魔法、見慣れてないもんね。」
コクコク、と頷くラヴィン。
光の魔法は1度だけ、シルファに見せてもらったことがある。
シルファが何か唱えて手を振ると、何もない空間に赤や黄色やピンクの色とりどりの光りがシャワーのように降り注ぎ、美しい模様を描いてクルクルと回転しながら、再び空中に溶けて消えていった。
その時、魔法を生まれて初めて目にしたラヴィンは大層感激して、大きな歓声を上げたのだった。
あの感動と興奮は今も忘れない。
「だって、うちの町に魔法使いなんていなかったし。
旅をしてても、滅多に会ったことなかったしさ。
初めて魔法使いの友達が出来たけど、用もないのにやたらと見せてってせがむのは、なんだか気が引けたんだもの。ほんとは何回だって見たいけど。」
ラヴィンの言葉に、シルファは笑った。
「なんだ、言ってくれたらいつでも見せたのに。でもこれだけ明るかったら、怖いのも少しは平気になるかな?」
シルファのはにかむような言葉に、ラヴィンの顔に一気に笑みが浮かんだ。
「うん!すごいすごい!何回見てもすごいよ!きれーい!!」
瞳をキラキラさせながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねるような仕草をして見せる。
初歩の初歩である簡単な光魔法だったのだが、ここまで感動されるとなんだかこそばゆい。
シルファは照れたように頭を掻いた。
「あ!ねぇ、せっかくだからあの奥の光のところまで行ってみようよ!」
照れるシルファを置いたまま、ラヴィンはさくさくと坑道を歩き始める。
「あ、待ってラヴィン、僕も行くって。」
シルファは慌てて追いかける。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「うわー。まだまだ続いてるねぇ。」
「ホントだ。もし坑道なら、きっと奥まで続いてるだろうな。」
ラヴィンの後ろから、少し屈んだシルファが顔を覗かせる。
魔法の明かりに照らされたところまでやってきた2人は、そこから更に奥を覗き込んでいた。
光りが届かない先は、相変わらず真っ暗で、こころなし空気がひんやりとしている。
照らされた場所が明るい分、その先の暗闇がなんだか不気味に映った。
音もない、静かな闇だけが延々と続いている。
「・・どうする?」
後ろのシルファを斜めに見上げながら、ラヴィンが聞いた。
「うーん。とりあえず、今日はここまでかな。」
村の外れからここまでやって来て、探索しながらこの入口を見つけた時点で、もう夕暮れ時刻が近づきつつあった。
「ジェンたちが心配するといけないし・・。この先はまた明日にしよう。本格的な探索なら、もう少し準備もいるし。」
「うん。そだね。」
ラヴィンも同意し、2人は来た道を戻って外へでる。
日暮れまでの時間を気にしながら、足早にその場を後にした。
が、結局。
2人はジェンとの約束である日暮れ前までに、村に帰ることはできなかったのである。
なぜなら・・。
「・・シルファ。」
「うん。」
森の中を歩きながら、前を向いたままの姿勢を崩さず。
小さく呼んだラヴィンに、シルファは短く答えた。
同じく、視線は前方に向けたまま。
——— 先ほどから感じる気配。
姿は見えないが、2人を取り囲むように、後方からついて来ている。
(1、2、3・・4・・5、6、7・・)
「8人?」
「・・さすがラヴィン。」
動きは変えないまま、ふっと笑う気配。
「どうする?こっちが気づいてることはバレてないと思うけど。」
「このまま村に連れてくわけにもいかないしな。この辺でやっちゃおう。」
「りょーかいっ。」
ラヴィンの返事を合図に、2人は足を止めると素早く振り返った。
瞬間的に構えの姿勢を取る。
自分たちを囲む気配に合わせ、やや背中合わせになった。
「僕たちに何か用ですか。」
低く抑えた声に、茂みががさりと音を立てた。