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第12章 『魔女の棲む山』〜森の中の急襲②〜 ( No.76 )
日時: 2015/10/07 23:07
名前: 詩織 (ID: /BuoBgkT)

ふわり、と。

銀色の髪が風を孕んだ。


一陣の風がシルファを包み込み、足元から空へと駆け抜ける。
上着の裾がはためき、静かに瞬きをした。

それが合図かのように。

「うわぁっ。」
「っ?!」

男たちの悲鳴が上がった。
小さなつむじ風たちが、あちこちで木の葉を巻き上げ、彼らの足をすくう。
それとともに土埃が舞い、男たちは思わず武器を放り出すと、手で顔をかばった。

シルファの後ろから覗くラヴィンも、思わず目を細め、両腕を顔の前で交差させる。
風はもちろんこちらを襲って来ることはないが、その余波は彼女の髪や身体を煽り、赤い髪を空へと巻き上げた。

ヒュォォと唸り声を上げ、風は男たちに襲いかかる。

「くそぉっ。」


魔法の風に翻弄されていた男たちは、いつの間にか、1本の大きな木の根元まで追い詰められていた。
たまらず、その大樹の根元にしゃがみこむ。
そのタイミングを見計らって、シルファの手が、呟きとともに空を切った。
シュッと音を立て、風が、男たちを取り巻く。

風圧で、辺りに舞い散る木の葉。

「うおっ?!なんだこりゃー!」
「どうなってやがる?」

「おい!離せよっ!」
「いてーって!お前こっちくんな!」

シルファの手の動きに合わせて、男たちは木の幹から身体が動かせなくなっているのに気づき、口々に叫び声を上げた。
まるで、目に見えないロープで縛り付けられているようだ。
「くそ、俺らもかよっ。」
ラヴィンは足元からした声に目を向ける。
先ほど倒した2人も同じように身体の動きを制限されているようで、ジタバタと必死にもがいていた。

・・・しばらくそうして各々叫んでいたが。

やがて、そこから抜けるのは無理だと悟ったのだろう。
荒々しかった怒りの声も、次第に小さく収まっていった。

「・・・・ふう。」

大人しくなった男たちの様子を見て、
シルファは大きく息を吐くと、上げていた腕を下ろす。
と同時に、風が、パタリと止んだ。

肩の力が抜け、引き締められていた表情が緩む。

(あ、いつものシルファの顔だ。)

横から彼を見上げて、緊張していたラヴィンは、なんとなくほっとした。
そのまま自分も深呼吸すると、改めて、襲ってきた男たちに目を向ける。

疲れたような顔つきの男達には、先ほどのような殺気立った様子はない。
男たちは最初こそ暴漢のように見えたが、落ち着いて見てみると、見た目はごく普通の村人のような格好をしていた。
手にしていた武器も、よくよく見ると大きなスコップや木の棒、工具など、およそ戦う為の武器とは言い難いようなものばかりで。

(だからシルファ、怪我させるような強い魔法、使わなかったのね。)
そう考えながら、ラヴィンはふと、あることに気づいた。
(あれ・・?)

「ねぇ、シルファ。この人たち・・。」
「うん。」
シルファはラヴィンに頷くと、男たちの方へと進み出た。


「手荒なことをしてすみません。」
男たちのいる木の根元まで歩くと、シルファはしゃがみこんで、彼らに目線を合わせた。
「落ち着いて、お話をうかがいたくて。」

穏やかな声で話しかけられて、男たちは面食らったような顔をする。
よほど予想外だったのだろうか、置かれている状況も忘れたように、シルファを凝視した。

思い描いていた敵と目の前の少年の雰囲気のあまりの違いに、すっかり毒気を抜かれたようだ。

そうして、仲間同士困惑したような顔で、お互い顔を見合わせる。
リーダーらしき男が代表して口を開いた。
「・・あんたは・・」
「僕はシルファ。こっちは仲間のラヴィン。この先の村に滞在している旅人です。どなたかと人違いのようですけど・・」
そこまで言って、男の服の襟元から覗く包帯に視線を向けた。

「・・その怪我は、その『銀の髪』の誰かに?」

シルファの言葉に、男たちの顔が強張る。
「ああ。」
リーダーの男がぶっきらぼうに答えた。

————ラヴィンとシルファが先ほど気づいたこと。
襲ってきた男たちは、あちこちに怪我の手当ての跡があった。
巻かれた包帯や打ち身の跡などを見れば、それが比較的最近のものだと分かる。
『あんだけ痛めつけられて、こっちがその銀の髪、見忘れるワケねーだろ!』
あの言葉と合わせると、なんとなく、話が見えてくる気がした。


「俺たちは、山向こうにある町のもんだ。鉱山からでる石が町の主産業で、その荷運びの仕事をしてる。近頃うちの積み荷を狙った賊がでやがってよ。何度か襲われてやり合ってんだ。つい最近も奴らに襲われて・・。」
「その怪我は、その時に?」
男は渋い顔で頷いた。
((やっぱり。))
シルファとラヴィンは顔を見合わせた。

「それでなのね。荷物を返せ、って。」
ラヴィンが合点がいったというように頷いた。

それを聞いて、それまでシルファしか見えていなかった男が、妙にほけっとした顔でラヴィンを見上げた。
「・・『なのね』?」
「ん?なによ?」
男の間の抜けたような様子に、ラヴィンは当惑して男を見つめる。
男の視線はしばらくの間、ラヴィンの頭からつま先までを行ったり来たりしていたが・・。

「ぶはっ。なんだ、おめぇー女か。」
「!!な、なんですってぇ!」

突然気が抜けたように男が笑い出すと、さっきまで険悪だった他の仲間たちも、一緒になってざわつき始めた。
「なんだよ女かー。」「あいつじゃないじゃん。誰だよあいつらだっつったの。」「お前だろ」「ちげーって。」それぞれ勝手なことを言い合っている。

(あいつ?じゃあ銀の髪だけじゃなくて、赤毛の仲間もいたってことか?)
シルファは考える。

が、ラヴィンにとって今はそんなことどうでも良い。

「ちょっとぉぉ!?どういうこと!?どう見たって女の子だっての!あんたら目どうかしてんじゃないのっ?」
今にも男に掴みかからんばかりの勢いで憤慨するラヴィンと男の間で、シルファは必死にラヴィンを止めた。
「ラ、ラヴィン、落ち着いて。大丈夫、ラヴィン可愛いよ!今はその格好だからさ、ねっ。」
「うう〜〜。」
納得いかないラヴィン(意外と乙女な16歳)を宥め、まぁまぁと笑ってみせる。
「とりあえず、話進めよう?ね?」
「〜〜。分かった。」
むくれた顔のままの彼女を、なんとか引き下がらせて。

ふぅ。

さっきとはまた違うため息をつくと、シルファは男に向かって言った。

「続き、お願いします。」