コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第13章 暗闇の中の声 〜探索開始〜 ( No.83 )
- 日時: 2015/10/24 19:16
- 名前: 詩織 (ID: maEUf.FW)
第13章 暗闇の中の声 〜探索開始〜
「へぇ、これがその坑道か。」
ジェンが感心したような声を上げて中を覗き込む。
4人は今、あの日ラヴィンとシルファが見つけた坑道らしき穴の入口へとやって来ていた。
彼らが見つめるその先は、相変わらず真っ暗で、物音ひとつ聞こえない。
外では通り過ぎる風が木々を揺らしざわめく音、そして時折、どこか遠くで鳴く獣の声だけが響いている。
青空のもと、春の朝日を浴びた木々の間から木漏れ日が差しているのに対し、その穏やかな日和の景色とは裏腹に、坑道の中は数メートル先さえ何があるのか分からないような暗闇に支配されていた。
「よく見つけたなぁ。」
「えへへ。」
ジェンの驚きを隠さない言葉に、ラヴィンは得意げに笑った。
本日の彼女は、赤い髪をひとつに括り、手には指先のない革手袋、腰には短剣。
背中のリュックには食料や水、携帯用の燃料などを詰め込んでいる。
他のメンバーも同じように、各々リュックを背負っていた。
括った髪にこっそりと、王都で買った可愛い白のリボンが結ばれているのは、数日前のちょっとショッキングな事件を気にしている表れなのか。
「うわぁ。真っ暗ねー!」
ふわふわの髪はツインテールに結び、丈夫な長袖シャツにタイツとキュロット姿のマリーが、ジェンの隣から中を覗き込んだ。
その声が坑道内に響くと、ほんのりエコーがかった広がり方をして、これから進む道の奥行を感じさせる。
「ちょっと待って、今明かりをつけるから。」
そう言いながら3人を後ろに下がらせると、シルファは数日前と同じように光の魔法で明かりを灯した。
ぽん、ぽん、と火が灯るように現れた光のおかげで、暗闇に支配されていた道内は優しい明かりに包まれる。
「うお!すごいな!」
「——— きれい・・。」
ラヴィンと同じように、ジェンとマリーも目を輝かせる。
特にマリーはその大きな瞳をキラキラさせて、頬もほんのり紅潮させて。
シルファの魔法の光に魅入っていた。
その横顔を見ながら。
「へへ。」
こんなに感動してもらえるなんて。
シルファは思わず頬が緩むのが自分で分かった。
だって家ではこんな初歩の魔法、誰も褒めてなんかくれない。
出来て当たり前だから。
シルファはふと、幼い頃初めて魔法を覚えて、父に褒められた時のことを思い出した。
(そう言えば、あの頃は父上、もっと笑ってた気がするな。厳しかったのは昔からだけど、もっと、今と違ってたような・・。)
なんとなく、姉が以前父を心配していたことが頭をよぎった。
そんなことを考えていたシルファの背中を、ラヴィンが勢いよく叩く。
「よし!行こうシルファ、ジェン、マリー!探索、開始だねっ!」
・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
入口から中に入ると、ひんやりした空気が肌に触れる。
(こんなとこ入るの初めてだなぁ。)
シルファはなんだかドキドキしてきた。
後ろからはラヴィンが慣れた足取りでついてくる。
心強いなぁ、とシルファは尊敬の眼差しをラヴィンに向けていたのだが・・。
(明るければ!みんなでいれば!怖くなんか、ないんだから。ぼ、亡霊なんて!)
顔には出さないように気をつけながら、ラヴィンは自分に言い聞かせていた。
・・・足取りも、壁を探る手つきも手馴れたそれではあったのだが、ラヴィンの不安はその一点にあるようだった。
ざらりとした手触りの冷たい壁を伝いながら、足元のごつごつとした出っ張りにつまづかないように慎重に進む。
少し低い天井に合わせて、シルファとジェンは気持ちかがんだ姿勢をとって歩いていた。
「おい、この微妙な高さ、ずっとこのままなのか?」
「さあ?途中でカーブしたり下降したりしてるし、入口からはそこまで見えなかったもんね。」
前方からラヴィンが答える。
先頭のシルファにラヴィンとマリーが続き、最後をジェンが歩いていた。
さらりと返事するラヴィンに、ジェンが唸る。
「このままいくと俺、腰がさぁ・・。イテテ。」
「もう。ジェンったらおっさんくさいわ。もうちょっと頑張ってよ。」
前を行くマリーに窘められて、ジェンがため息をついた。
「なんかお前、どんどん口悪くなってないかぁ?」
もしかして俺、育て方間違えた?などとぶつぶつ呟く声が坑道に小さく響いた。
どのくらい歩いただろうか。
そうしてしばらく行くと、前の方から、先に行くシルファの声が聞こえた。
「ジェン!大丈夫だよ!こっち、広くなってる。」
シルファの言ったとおり、少し行くと急に天井が高くなり、横幅も倍くらいに広がった。
「良かった。歩きやすくなるね。」
ラヴィンが安心したように息を吐き出す。
ここまで来る途中では、だんだん道幅が狭くなったり傾斜があったり、どうなるのかなと思っていたのだ。
もちろんその位は想定して、ちゃんと準備はしてきてはいるが、歩きやすいに越したことはない。
「うーん!ありがたい。」
「だね。」
ジェンが大きく伸びをしながら言うと、同じく身長の高いシルファも苦笑しながら頷いた。
「うわ、冷たい。」
まわりの壁を触っていたマリーが振り向いた。
「このあたりの土、湿ってるわね。」
「ほんとだ。」
ラヴィンも壁に近づいて手についた土をいじってみる。
地上からの水が染み込んだ土は湿り気を帯びていて、ざらざらと手に張り付いた。
「ここまでの様子をメモするから、ちょっと待っててくれ。」
ジェンはそう言うとリュックからノートを取り出すと、ここまでの様子や道の曲がり具合を細かく書き込んだ。
今は1本道だから問題ないが、もしどこかで横穴でも出てきたら、迷わないようにきちんと記録はつけておきたい。
「下降してたとこ、いくつかあったよな。入口からみたら、思ったより地下に向かっているかもしれない。」
さらさらとペンを走らせながら、ジェンがそんなことを言った。