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第13章 暗闇の中の声 〜異変〜 ( No.84 )
日時: 2015/10/24 18:48
名前: 詩織 (ID: maEUf.FW)

 〜異変〜


シルファは3人から少し離れ、広くなった道を少し進んでみる。
急に空間が広がったせいで、頬に触れる空気が先ほどより更にひんやりと感じられた。

魔法で灯された明かりが、足元や壁にいくつも影を作っている。

その開けた空間の真ん中に立って、辺りをぐるりと見回した。
静かに深呼吸すると、そっと目を閉じてみる。

ジェンのペンが走る音。
ラヴィンとマリーが壁や天井を見回す気配。
それ以外の音のない、静かな空間だった。

——— その静寂の中で。


ふ、とシルファは閉じていた目を開いた。

「?」
辺りをくるりと見回すと、再び瞼を閉じる。

(なんだ?この感じ・・)

意識を集中させる。

なんなのかは分からない。
ほんのわずかな、違和感。

(魔法の気配・・?)
不思議な感覚。
目を離した瞬間に見失いそうな、そんな微かな気配・・。

それまで感じたことのない感覚を、シルファは感じていた。

(いや、この感じ、前にもどこかで・・)

ぐぐ、っと意識を深めようとした時、後ろから声がした。

「シルファ?どうしたの?なにか・・・!ひゃっ!」
シルファの様子に気づいたラヴィンが彼に近づきかけた時、湿った天井から水の雫がぴちゃりと降ってきた。

続けてピチャン、ピチャン!と垂れる水滴。
ラヴィンは驚いて小走りになる。
だがそこは、落ちてくる水分でもちろん滑りやすくなっていて。
足が取られて、バランスを崩した。

「わわっ。」
シルファはとっさに手を伸ばしたが、意識を他に集中させていた分彼女を支えきれず、2人はそのまま体勢を崩してその場に倒れ込んでしまった。

「あいたたた。」
「ご、ごめんシルファ!大丈夫?」
湿った地面の上で、思い切り両手両膝をついてしまった2人。
謝るラヴィンに大丈夫だと笑うと、シルファは起き上がりながら両手の濡れた土を払った。

2人の声に顔を上げたジェンが、苦笑しながらやって来る。
「おいおい。大丈夫か?ここら辺は湿ってて滑りやすいからな。」
言いながら手を差し出した。
「ありがとう。」
ラヴィンは素直にその手を掴む。

「だいじょうぶー?」
マリーもトコトコと仲間のもとへとやって来た。

何気ない風景・・

けれど。

「あれ?今、なにか・・」
マリーがすぐそばまで近づいたとき。
シルファは感じた。
今、何かが・・

カチリ、と音がした気がした。
それは実際の音ではなく、感覚に訴えてくる何か・・。

「マリー、ちょっと待っ・・」
言いかけた次の瞬間、


—————— 4人が立っていた地面が、消えた。


「えっ!?」
「きゃああっ!?」

4人のそれまで立っていた場所は、突然現れた黒い空間に飲み込まれていた。
身体を支えていた地面が突然消え、空間に放り出されるような浮遊感に包まれる。

「なっ!?」

それぞれの悲鳴がこだまする。

突然過ぎて、何が起きたのか理解できない。
・・・何かを考える暇もないまま、4人は足元の空間に飲み込まれていった。

視界が真っ暗になる。
叫んでいるはずなのに、その声も、何も聞こえなくなる。
す、っと意識が遠のいていくのを、4人は感じた。



そして、静寂。

4人を飲み込むと、空間は消え、そこには元どおりの地面が現れた。



・・・後に残ったのは、何の変哲もない冷たい地面と、静まり返った坑道だけだった。