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- 第13章 暗闇の中の声 〜少女のねがい〜 ( No.85 )
- 日時: 2016/01/09 21:39
- 名前: 詩織 (ID: 9fVRfUiI)
〜少女のねがい〜
少女は、夢を見ていた。
悲しくて、寂しくて、泣いているあの頃の夢。
どれだけ時間が経ったと思っても、
いつも、くり返しやってくる。
もう全部、消えちゃってもいいのに。
そう強く思うけれど、それほど簡単には消えてくれない。
忘れたいと願っても、いつも心のどこかに隠れていて、
呼んでもないのにやってくる。
辛くて、苦しくて、捨ててしまいたい過去の自分。
このまま、自分ごと消してしまいたいと思ったこともあった。
———— でも。
笑ってくれるひとがいたから。
いつもそばで、優しく見守ってくれるひと。
そんなひとが私にはいる、と信じさせてくれたから。
『強く なりたい。』
そう思った。
大切なひとと、笑って生きていきたいから。
一緒に、しあわせになりたいから。
だから。
『私、もっと強くなりたい。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・リー、・・マ・・・。
遠くから、声が聞こえる。
その呼び声に、彼女は夢の中で答えた。
(待って。まだ眠い・・・、もう少し・・)
・・リー、・・マリーおきて・・。
呼び声はまだ止まない。
自分を呼んでいる。
そこでふと、彼女は気づく。
(あれ?・・あのひとの・・声じゃない・・?)
いつも優しく、自分を呼ぶひと。
朝、ゆっくりと瞼を開ければ、きれいな黒髪が視界に入る。
眠い目をこすって目を開くと、映るのはあたたかい黒色の瞳と、やわらかく微笑みかけるあのひとの顔。
大きな手で、優しく頭を撫でてくれる。
「ジェン・・?」
そう呟いた自分の声で、マリーはハッと目を覚ました。
ゆっくりと瞬きをすると、次第に視界がはっきりとしてくる。
目の前でとても心配そうに自分を覗き込んでいるのは、銀の髪の年上の友人。
「・・・シルファ?」
「よかった!気がついたんだね!マリー。」
シルファは心底ホッとした顔をして、大きく息を吐いた。
「ん・・。」
ゆっくりと起き上がろうとするマリーを、シルファが慌てて支える。
「大丈夫?無理しなくていいから。」
「平気。」
気を失っていたのだろうか。また、昔の夢を見てしまった。
マリーはふるふると首を振ると、まだ覚醒しきれていない意識を無理やり今に戻した。
冷たい地面から身体を起こすと、辺りの様子が目に入る。
一見、先ほどまでの坑道と同じところかと思った。
けれど、よく似てはいるがなんとなく雰囲気が違う。
道の両側には、街道の街灯のように規則的に並ぶ明かりが揺れていた。
それはそこから続く先の道にも、ずっと続いている。
「あの明かりは、シルファの魔法?」
マリーの言葉に、シルファは首を横に振った。
「ううん。違う。魔法の明かりだけど、僕じゃない。」
「魔法なのに、シルファじゃない・・?」
マリーはぐるりと辺りを見回した。
「ここは?私たち、どうなったの?」
視線をシルファに戻すと、彼も困ったような表情でマリーを見ている。
「僕にも分からないんだ。ただ・・。」
思案気な顔で呟いた。
「さっきとは、別の場所だと思う。あの広くなった辺りで、微かに魔法の気配を感じたんだ。それまでは全く感じられなかったのに。」
「魔法の気配?」
「うん。でも、僕が知ってる魔法の気配じゃない。なにかもっと別の・・。それに、あの感じは変だ。外から来た人間が気づかないように、発動する場所をあえて隠してるような・・。」
「隠してる?それって・・、何かの罠、みたいな?」
眉根を寄せるマリーに、シルファは困った顔で首を傾げる。
「いや、そこまでは分からない。とにかく、多分僕らは転送系の魔法でさっきとは別の場所に飛ばされたんだよ。」
「なんで?!誰に?!」
あまりに突然のことに思考が追いつかない。思わず声を上げたマリーに、シルファは言った。
「分からない。飛ばされた時気を失ったみたいで、僕もさっき目が覚めた。そしたらここに2人で倒れてて・・」
「・・・。2人・・?」
シルファの言葉に、マリーの表情がハッと固まった。
そのまま勢いよく、再び辺りに視線を走らせる。
そうだ。おかしいと思った。
目覚めた時、彼の声と笑顔がなかった。
こんな時は必ず、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるはずの、彼女の腕も。
「ジェンっ!ラヴィンっ!どこ!?」
姿の見えない2人を探し、視線が彷徨う。
マリーは激しく動揺していた。
大きな双眸に、涙が浮かんでくる。
思わず嗚咽が漏れそうになるマリーの肩を、シルファが掴んだ。
その瞳を覗き込む。
「マリー、落ち着いて!大丈夫だから。」
強い、強い口調。
マリーは、シルファの銀色の瞳を見つめ返した。
「僕もすごく動揺した。起きたとき、2人がいなくて。君もなかなか目を覚まさないし、怖くて・・、辺りを探し回った。そうしたら、少し、分かったことがあるんだ。だから、少し落ち着いた。」
「わかったこと?」
涙声で、マリーが呟く。
こくり、と頷いてシルファは続けた。
「2人は、多分無事だ。ここの魔法で怪我をしたり、その・・、命の危険があることはないと思う。推測だけど。」
そこまで言って、シルファはふっと表情を緩めると、マリーをそっと抱きしめた。
「大丈夫。2人はきっと無事だ。別の場所に飛ばされてはいるけど・・、きっと僕らのことを心配してる。だから、2人を探そう。大丈夫、僕がいるよ。僕が、マリーと一緒にいるから。」
優しく背中をさすりながら、マリーを抱きしめる腕に力を込める。
(あったかい・・。)
マリーは、パニックに陥っていた心が少しずつ落ち着いていくのを感じた。
大きく深呼吸をする。
何度かくり返し・・。
「もう、大丈夫。」
シルファの腕の中から、ゆっくりと顔を上げた。
「ありがとう、シルファ。」
涙を拭いて、立ち上がる。
「2人を探しましょ。」
不安が消えたわけではない。
本当は、怖い。とても、怖い。
もしあの2人に何かあったら。
(でも、怖がってるだけじゃ駄目だ。)
強がりでもなんでも。マリーは自分を奮い立たせた。
(私は今、ひとりじゃないから。シルファが、いてくれるから。)
キ、っと強い瞳で薄暗い道の先を睨む。
そんなマリーを見て、シルファは安心したように微笑むと、彼女の小さな手をとった。
その手を、マリーがぎゅっと握り返す。
「よし。」
シルファは道の先を見据えた。
「行こう、2人を探しに!」
「うん!」
マリーは力強く頷くと、もう一度、涙を拭った。