コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 〜 『幻獣の子』 〜3 ( No.95 )
- 日時: 2015/11/25 21:21
- 名前: 詩織 (ID: ak9ikTR3)
「すぐにはね、うんって言えなかったの。」
足元を見つめながら、マリーが言った。
「外の世界・・知らないひとたちがたくさんいる場所・・。想像もできなかった。そんなところに自分がいるなんて。私にはおじいちゃんとジェンがいればそれで十分で、ずっと、あの静かなお家で暮らしていくんだと思ってたから。」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。
「・・怖かったのよね。村の人たちの私をみる怯えた目や、話しかけても誰にも答えて貰えない悲しさとか。そんなシーンばかりが目に焼き付いてて。外になんか出たくなかったの。」
「そっか。」
「でも、ジェンは待っててくれた。」
マリーの口元に、小さな笑みが浮かぶ。
「私が正直な気持ちで、ゆっくりと答えを出せるように。毎日、一緒にあの家で暮らしながら、何気ない会話をして、ご飯を食べて。いつもの暮らしの中で、私の心が落ち着くのを待っててくれたの。」
ジェンは、国の研究機関の仕事を辞めていた。マリーがそれに気づいたのは、ジェンが仕事を辞めたずっと後。
どうして?昔からの夢だったんでしょう?
詰め寄るマリーに、ジェンは微笑んでいつも同じ答えを返した。
『外の世界を見てみたくなったんだ。ずっとこの国にいたから、たまにはな。だから、お前も一緒に来いよ。』と。
けれど、マリーは分かっていた。全部、自分の為なのだ。
(ひとり残された、私の為に、彼は大切な研究者の仕事を捨てた・・。)
そこまで大切に思ってくれたこと、それはもちろん、途方もなく嬉しかった。
もし彼がいなかったら、自分は本当に、一人ぼっちになってしまう。
その孤独は恐ろしすぎて、想像することすらできない。
けれど。
(私のせいで、この人は・・。)
そう思うと、嬉しさと同じくらい、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
だがジェンは、不満げな顔など一切見せずに、ただ、マリーを優しく誘った。
一緒に行ってみようと。
広い世界を、その目で見てみたくないか、と。
そして遂に。
マリーはジェンの手をとった。
「私も、連れて行って。」
・・・・・・・・・・・・・・
「私、ジェンには本当に感謝してるの。あの孤独な世界から、私を連れ出してくれた。皆に、会わせてくれた。あの場所にずっと閉じこもっていたら・・、私はあなたにも会えなかったし、今ここにいないわ。」
顔を上げたマリーは、シルファを見てにっこりと笑顔を浮かべた。
シルファも、つられて笑顔になる。
悲しい話だったが、今、こうしてマリーが目の前で笑っていてくれることが嬉しかった。
「そっか。ジェンは優しいな。マリーは、ジェンが本当に本当に、大好きなんだね。」
シルファは素直な感想を口にした。マリーの口調から、心底彼を信頼しているんだということが、すごくすごく伝わってきたから。
だから、深い意味など特に込めたつもりはなかったのだ。
が。
何気なく放ったその一言に。
少女はシルファの予想外の反応を返した。
「マ、マリー?」
「〜〜〜〜〜 っ!なによ。」
一瞬目を丸くした後、さっと視線を逸らした彼女の顔は・・。
これでもかというほどに、真っ赤に染まっていた。
(え?!え、ええー!まさかまさか・・この反応は。)
唖然とするシルファに、マリーはすかさず手を振った。
「ち、違うっ、違うの。えと、一人ぼっちの私のこと引き取ってくれて、感謝してるってイミで!」
「え?そうなの?」
明らかに動揺を隠せない様子で、マリーが早口で言った。
つられて、なぜだかシルファも動揺しわたわたと挙動不審な動きをしてしまう。
「ええと、うん。分かった、分かった。ジェンは優しいもんね。かっこいいし。大人だしっ。」
「ちょっと!なんでシルファが赤くなってるの!違うっていってるのに!じゃなくって、私のこと、妹として大切にしてくれてるからっ。大切な家族・・だから・・。」
必死に言い繕っていたマリーの声が次第に小さくなり、そのまま黙って俯いてしまう。
そんなマリーを横目で見て、シルファはふぅ、とため息を吐く。
(あーびっくりした。)
動揺して、思わず変な動きをしてしまった。
(落ち着け、落ち着け)
自分に言い聞かせる。
それからポリポリと頬をかくと、視線を再びマリーに戻した。
「あー、うーんと、さ。『妹』って。そんなこと、ほんとは思ってないよね?」
感謝や、家族愛のようなものも、確かにあるのだろう。
けれど。今の彼女の態度を見れば、その奥にある想いが何なのかなんて一目瞭然で。
(これはさすがに・・、鈍い僕でも分かったぞ。)
何と言おうか迷ったが、結局、思ったことをそのまま言ってみた。
「その顔。マリー、君、ジェンのこと・・。」
『好きなの?』
言いながら、恐る恐る彼女の顔を覗きこむと。
今度こそ、真っ赤な顔をしたまま固まっている彼女。
————— それが答えだろう。
「ジェンに言ったら・・。」
しばらくして。
蚊の鳴くようなか細い声が聞こえた。
「ジェンに言ったら絶交だからねっ。」
マリーは赤い顔のまま、シルファを睨んだ。
「マリー、可愛いなぁ。」
いくら睨んでも、真っ赤なその顔のままでは全く威力がない。
案の定、ほんわかとした笑顔を浮かべたシルファはそんな感想を述べ、マリーの照れは頂点に達した。
「!!」
「大丈夫だよ、ジェンには言わないから。」
「当たり前よ!」
「僕、応援するね。」
「〜〜!!もうっ、何よお!シルファのばかぁ!からかわないでっ。」
シルファのセリフに一瞬絶句した後、マリーは叫んで手を振り上げる。
けれど、マリーの言葉は明らかに照れ隠しだったから。
むしろその様子さえ愛しくて。
照れたマリーにぽかすかと叩かれても、シルファは笑顔を隠すことが出来なかった。
「あはは。」
思わず笑いながら、シルファはマリーの頭を撫でた。
「子供扱いしないでよ!」
マリーが赤い顔のまま言った。
「私だって、いつまでも子供のままじゃないんだから。早く大人の女になって、ジェンの役に立つんだから!」
ムキになったマリーは悔しげな声を上げる。
それを聞いて、シルファは「うーん?」と首を傾げた。
「確かに大人になった君も素敵だとは思うし、将来楽しみだけどさ?今のままでも十分役にたってると思うけど?」
「どこが?!ただのお荷物じゃない!」
「そんなことあるわけないよ!君といるジェンが、すごく楽しそうに見えるから。」
「・・そんなの、役に立ってるって言わない。もっと、何か、ジェンの為に何か出来る大人になりたいのに。」
「そんなことないよ。」
シルファは首を横に振る。
「傍にいて、安心できるのはきっとジェンも同じだよ、マリーがそう思ってるようにさ。そういう存在・・って、大事だよ。君が隣で笑ってることで、ジェンだって幸せだと思う。」
「・・・。でも・・。」
「いいんじゃないかな、焦らなくても。」
シルファは自分の中にある言葉を、マリーに伝えた。
「ゆっくり、進めばいいんじゃないかな。」
「ジェンの為に何かしたい、っていうのはすごく素敵な「夢」だと思う。いろんなやり方を、これからゆっくり探せばいい。いくらだって、方法はあるよ。君は、まだまだこれからなんだからさ。」
マリーはシルファの顔をじっと見つめてその言葉を聞いていた。
「未来の君も今の君も、どっちも大切だよ。ジェンにとっても、僕らにとっても、ね。」
・・言いながら、シルファは不思議だった。自分が悩んだとき、ジェイドやラパスから貰った言葉を、こうしてマリーに伝えている自分がいる。
上手く伝わっているかは分からない。
ずっとずっと、辛い思いをしてきたマリーに、果たしてどれだけの言葉が届くのだろうか?
けれど、自分を支えてくれた誰かの言葉を、また誰かに届けられること。
それが、なんだか嬉しかった。
今すぐでなくてもいいから。
届くといいな。
そう思った。
「今の君も、充分可愛いよ。ジェンもきっと、そう思ってる。」
もう、またそんなこと。
そんな返事が返ってくるかなと、ちらりと思った。
けれど、違った。
言われたマリーは。
「そっかな。・・・ありがとう。」
——— 笑った。とてもとても、嬉しそうに。
(う、わぁー。)
シルファは思わずマリーに見惚れる。
今まで見た中で、一番可愛い彼女の微笑みだった。
シルファの言葉を聞きながら、ふと、マリーは気付いたのだ。
心の中が、ほんのり暖かくなっていることに。
それまで、固く固く握りしめていたもの。閉じこめていたもの。
そこからふわりと、力が抜けていく感じ。
固いつぼみが、ふんわりと、少しだけゆるんだような、そんな感覚。
まだ全部が手放せた訳ではない。
ほんの、すこし。
理屈では分かっても、心が納得しないこともある。
でも、シルファが一生懸命伝えようとしてくれてることは分かる。
それが嬉しかった。
いつか、もっともっと分かる日がくるかな。
固く閉じたつぼみが、ゆっくりゆっくりほころんで・・・。
いつか花が咲く日が来るとしたら、どんな自分になっているんだろう。
どんな大人に、なれているんだろう。
胸を張って、ジェンの隣に立つことはできているだろうか?
なんとなく、そんなことを思った。
思いながら、自然に浮かんだ笑みを、素直にシルファに向けていた。
- 〜 『幻獣の子』 〜④ ( No.96 )
- 日時: 2015/11/28 20:23
- 名前: 詩織 (ID: .WGhLPV.)
・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「それで?」
過去を話し終わり一息ついたところで、話を戻すようにマリーが聞いた。
「私の魔力の話を聞いて、何か分かったの?」
「うん。」
シルファも表情を引き締めると、はっきりと頷く。
「キーワードは、やっぱりあの古代魔法だったんだ。」
「どういうこと?」
「ここはかなり昔に作られた場所なんだろうね。ここに満ちている魔力や、壁画を見るとさ。それに・・マリー、君の魔力がここのものと同じ性質のものだってこともそうだ。それで確信できたよ。」
「?」
「君の魔力は、古代幻獣の血の力なんだろ?」
「うん。」
「『古代』と呼ばれる時代の魔力。それが共通点。それから・・」
シルファは視線をあの少女の絵へと向けた。
「あそこに書かれていた、古代魔法文字。おそらくここにいた人たちの中に、あの魔法を扱える人間がいたんだよ。」
シルファの顔が少し気色ばむ。
マリーは、まだよく分からないという顔をした。
「たぶんだけど・・あの転送魔法、あれはここと同じ魔力を持ってるかどうかの選別じゃないかな。」
「同じ魔力?ここにある古代魔法の魔力と・・私の古代幻獣の血の力。そっか。それが引き合って、私はこっちに選ばれたのね。」
なるほど、と頷きかけて、マリーははたとシルファを見る。
「あれ?じゃあシルファはどうして?」
その問いに、シルファも小さく首を傾けると言った。
「僕の予想だとね、長い長い時間の中で魔法装置に微妙な狂いが出ていて、質は違うものでも‘魔力を持っている’ことに反応してしまってるんじゃないかって。」
「ふぅん。じゃあ・・、ジェンとラヴィンは魔力がなかったから、もう一方の道へ飛ばされた、ってこと?そうなのね?」
ようやく合点がいったというように、マリーが頷く。
「なんとなく、原理は分かってきた。」
シルファは頭の中で様々な魔法術式を思い浮かべながら、取り出したノートにペンを走らせていく。
「マリー、もう一度さっきの場所へ戻ってみよう。」
「さっきの?私たちが倒れてた場所?」
「うん、そう。そこから最初の坑道に逆転送で戻れないか調べてみる。」
「できるの?!そんなこと。」
「やってみないと分からないけど、多分出来るはず。あとは、もう少しこの部屋を調べたいかな。ラヴィンたちの飛ばされた先へのヒントが何か見つかるかもしれない。」
「まだ何かあるかしら。あの女神像と女の子の絵以外は特に見当たらないようだけど。」
「うん。でもここにいたのは、古代魔法の使い手だ。まだ隠されている情報があるかもしれないよ。」
「他の道への転送魔法とか?」
マリーが聞くと、シルファは頷きながら立ち上がった。
「だね。それにさ、気にならない?この、繋がりそうで繋がらない感じ。」
「?」
「だってさ。僕らの調べに来た石碑は、古代魔法文字が彫られた魔法装置で。そもそもその謎解きに、僕は同行させて貰ったんだよね。」
マリーが頷く。
「でも、村人は誰もあれについて詳しい事実を知らない。ノエルさんの話だと、村ができる前から、女神エルスの降臨と共にあの場にあったとされている、謎の石碑。
それと同じ文字が、なぜかそこの少女の絵にも刻まれていたんだよ?しかも、女神エルスにそっくりの女の子の絵にね。」
シルファの視線を追って、マリーもあの少女の絵に目を向けた。
ゆるく波打つ金髪と、紅い瞳で微笑む少女。『リーメイル』という名前なのか。
「それから、‘‘女神に滅ぼされた魔女の棲む山’’という言い伝えの場所にあったこの坑道。でもあの壁に飾られた絵を見る限り、ここには女神エルスを敬愛する人々が集まっていたらしい・・。
そして壁画の絵物語では、ここは誰かから追われて逃げてきたその人たちが逃げ込んだ隠れ場所。転送魔法なんて大掛かりなモノ仕掛けてまで、敵から仲間を守ろうとした場所。
ここに居たのはどういう人たちで・・・
・・・過去、ここで一体何があったんだろう————?」
ひとつひとつの事柄を再確認するように、シルファは言葉を並べた。
「確かに。共通点はたくさんあるのに、繋がりそうで、繋がらない。話の筋が見えないわよね。シルファはやっぱり、村のあの石碑とここは関係してるって考えてるの?」
見上げるマリーに、少し考えてから、シルファは深く頷いた。
「うん。そう思ってる。ここにいたはずの魔法の使い手と、あの石碑の魔法装置。あれにはきっと繋がりがあるだろうって。古代魔法と、女神エルスへの信仰。この大きな共通点があるしね。」
言いながら、シルファの脳裏にジェイドのあの言葉が浮かぶ。
——— 『語られる歴史は、必ずしも真実ではない』 ————
(ここには、村人だけじゃなく・・後世のほとんどの人に知られていない『何か』があるんだ。)
その言葉を聞きながら、マリーも立ち上がると服の裾を払った。
「分かったわ。私には魔法のことはよく分からないけど・・。とにかく、何か情報がないかこの部屋を探せばいいのね?」
「うん。少し調べてみて、それからもう一度あの最初の場所へ行ってみよう。」
「了解!」
可愛らしい声で返事をしたマリーが背を向け、部屋の反対側へと歩き出す。
その後ろ姿を見つめて、シルファは自分も壁際へと向かおうとしたのだが。
ふと、足を止めた。
「ねえ、マリー。」
再びマリーの方へと向き直ると、先ほどまでとは少し違う、柔らかい声で彼女に呼びかける。
「?なあに?」
ふわりと髪を揺らし、マリーが振り返った。
その声音の違いに気づいたのか、不思議そうな顔で、シルファを見上げる。
そんな彼女に、シルファは優しく笑って言った。
「いつか、気が向いたらさ。僕と一緒に、魔法の練習をしてみないかい?」
- 〜『幻獣の子』〜⑤ ( No.97 )
- 日時: 2015/11/28 20:25
- 名前: 詩織 (ID: .WGhLPV.)
その言葉に、マリーの瞳が大きく見開かれる。
「君の力はね、失くなったんじゃなくて、強い悲しみによって閉じ込められているだけなんだ。でも・・」
その開かれた双眸を見つめながら、シルファはゆっくりと続けた。
「その力自体は、決して悪いだけのものじゃない。今までその力のせいで、辛い思いもたくさんしてきただろうけど・・、でも、その力だって、大切なマリーの一部なんだよ。使い方次第で、きっと君の役に立つ。君を・・幸せにしてくれる。」
一言一言、マリーの気持ちに寄り添えるように。
そう想いを込めながら、シルファは続けて言った。
「ほら、僕が光の魔法を使ったとき、君たちみんな喜んでくれただろ?あれ、僕もすごく嬉しかったんだ。みんなの役に立てたかなって思った。」
照れくさそうに言いながら頬をかくシルファに、
マリーはコクコクと思い切り首を縦に振った。
「もちろん!」
本心からの言葉だから、思わず手に力が入る。
「すっごく綺麗だった!ステキだったよ。それに、明るくて、ほっとした。安心したもの!」
マリーの言葉にそれは嬉しそうに笑うと、シルファはマリーに近づき、目線を合わせるように屈んでその瞳を覗き込んだ。
「あんな風に、誰かを喜ばせて、自分も幸せな気持ちになること・・。誰かの為に、力を使うこと、君ならできるよ。うん、ジェンの力になることだって、きっとできるはず。」
その言葉に、マリーの頬がほんのり赤らんだ。
「だから、さ。」
そんなマリーの表情の変化を、愛おしく感じながら。
シルファは自分の想いを伝えた。
「ゆっくりでいいから。いつか、気持ちの整理ができて、やってみようかなと思ったらさ。僕と一緒に、魔法を学んでみようよ。」
「・・できるかな。」
小さな小さな声が、シルファに問いかけた。
「できるかな、私に。ジェンの、みんなの、役に立てる?喜んでもらえるかな?」
シルファはにっこりと笑って言った。
「大丈夫だよ。マリーだもん。僕も一緒だから。一緒に、やってみようよ。」
ふふふ、とマリーは笑った。
「じゃあ、シルファが先生?あ、師匠のほうがいいのかしら。ね、『お師匠さま』?」
「ええ?い、いいよいいよ、そんなの。うわ〜違和感しかない。」
呼ばれなれない言い方をされて、シルファはぶんぶんと首を横に振った。
「いいよ、修行仲間で。僕だって、まだまだ修業中の身なんだから。うちでは怒られてばっかだよ?こら!またお前か!って。父上めちゃくちゃ怖いんだよねー。・・はぁ、ちょっとヤなこと思い出した。」
「ちょっと!いきなりやる気下げること言わないでよ!自信なくなっちゃうじゃない。」
「あっごめん。いやいや、父上は昔っからスパルタだからさー。大丈夫、マリーは僕とゆっくりやればいいよ。」
「幻獣の力でも、シルファと同じように練習すればいいの?」
「魔力の基本的な使い方は一緒さ。そのあと・・、どんな風に広がっていくかはマリー、君次第だよ。」
「私次第・・。」
「そ。君次第。」
シルファは楽しそうな表情を浮かべて笑う。
「君は、なりたいものになれるんだよ。楽しみだね、これから。」
「なりたいもの・・。楽しみ、これから・・。」
シルファの言葉を小さく反芻する。
(そんなこと、考えたこともなかった。)
あの、悲しい世界から抜け出して、ジェンの側にいることを選んだ。
それからはずっと、いつか彼の役に立ちたい、強くなりたいと思っていたけれど。
なりたいものになる、とか。未来を語ることとか。
ましてや自分の力が誰かの役に立つなんて、思ってもみなかった。
次第に実感が沸いてきたのだろう。
マリーの瞳にワクワクするような色が浮かぶ。
「私、やってみようかな。シルファと、頑張ってみようかな!」
「そうそう!やってみようよ!ジェンとラヴィンにも報告しなくちゃね!きっとびっくりするよ。」
驚きと喜びで紅潮する2人の顔を思い浮かべ、マリーとシルファは顔を見合わせて破顔した。
「じゃあ、今はとにかく情報を探そう。早く2人を迎えにいかなくちゃ!」
「うんっ!」
2人がもう一度、部屋の中を捜索しようと動き出した、その時。
「!?」
急に厳しい顔つきになったシルファが、バッと入口のほうを振り返った。
瞬間的に構えをとる。
突然の緊迫した空気に、マリーは驚いてシルファにしがみつくと同じく入口へと視線を向けた。
「な、なに?」
「・・・」
シルファは黙ったまま、その場所を睨んでいる。
「え・・。」
マリーは思わず目を疑った。
ぐにゃり、と。
入口付近の空間が、突然歪んだ。
小石を投げ込まれた水面のように、空間は揺れる。
そしてそこに、1人の男が姿を現した。
マリーが息をのむ。
その男は実態ではなく、向こう側が透けて見える、幻のような姿だったから。
そして、その後ろから・・
「うわっ!」
「きゃあっ!」
悲鳴と共に現れたのは・・
「「ジェンっ!!ラヴィン!??」」
シルファとマリーは、同時に叫んでいた。
突然現れた謎の男。
その後ろの空間から勢いよく放り出されたのは、黒髪の青年・ジェンと、赤毛の少女・ラヴィンの姿だったのだ。