コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 〜暗闇の中の声〜③ ( No.101 )
- 日時: 2015/12/17 20:20
- 名前: 詩織 (ID: D//NP8nL)
「やっぱり!!ここに繋がってたんだ!」
「おー、よく分かったな。」
ラヴィンの言葉にジェンが感心したような声を上げる。
森を抜けてしばらく進んだところで、「この道、見覚えあるかも。」とラヴィンが言いだしたのだ。
進むうちにその直感に確信がでてきたのか次第に歩調は早くなり、最後は駆けるように2人はその場所へとたどり着いた。
——— その道はエイベリー村へと続く道。
どうやら2人は朝出発した村の入口とは反対方向の森の中へと飛ばされていたらしい。
あの坑道からはエイベリー村を挟んで逆側にある山であり、結構な距離である。
どうする?と振り返るラヴィンに、ジェンは少し考えたあと言った。
「とにかく、一度村へ寄ってみよう。もしかしたらシルファたちも帰ってきてるかもしれないしな。もし居なかったら・・、もう一度、あの場所まで戻って探そう。」
「了解。」
頷くと、ラヴィンは前を向く。
そのあとはただ、村の入口へと再び駆け出していた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「ん?なんじゃ、小娘じゃないのか。どうしたこんなところで。」
不思議そうな顔でこちらを見たのは、白い髪に白いヒゲのノエル老人であった。
畑仕事の途中の一服なのか、すみにある切り株の上にどっかりと腰をおろし、煙の立ち上る煙草を片手に目を丸くして2人を見ている。
「ノエルさんっ!よかった。ね、シルファ見てない?あとマリーもっ!」
「シルファ?ああ、あの銀髪の小僧じゃな?見とらんよ。それにマリーっちゅうのは・・、」
「水色のっ、可愛い子!」
「ああ、あのちびっこか。ふむ、見とらんな。わしゃ今日は朝から畑におるが、2人とも通っとらん。この方面から村へ出入りするにはこの道を必ず通らにゃいかんからな、外にいたなら村へは帰ってきておらんのじゃろ。」
「・・そっかぁ・・」
呟いて、ラヴィンは力が抜けるようにその場にしゃがみこんでしまう。
後ろにいたジェンも2人のやりとりを聞き深いため息をつくと、がしがしと頭をかいた。
「一体何ごとなんじゃ。」
「ねぇ、ノエルさん。あの『魔女の棲む山』、他に何か情報知ってたら教えて欲しいんだけど。なんでもいいからさ。」
しゃがんだまま言ったラヴィンのセリフに、ノエルは眉をしかめる。
「まさかお前ら。行ったのか、あそこに。」
脱力したまま、ラヴィンはコクりと頷いた。
それをみて、呆れたようにノエルが言う。
「バカか。言ったじゃろが、あそこには近づいてはイカンと。」
「ごめんなさい〜。でも今はそれどころじゃないの。私たち4人で行ったんだけど、こっち2人と向こう2人、別れ別れになっちゃって。私たちはなんとか無事だけど、あの2人が心配で・・。」
後ろのジェンと顔を見合わせる。
ジェンは一歩前にでると、少し屈んで小さな老人の目を見て聞いた。
「なんでもいいんです。少しでも手がかりがあれば。何か知りませんか?言い伝えでも噂でも、なんでもいいんです。あそこはどういう場所なんです?」
ノエルはジェンの黒い瞳をじっと見つめると、はぁ、とため息をついて持っていた煙草を置いた。
「どうやってはぐれたんじゃ。」
「坑道の途中で、たぶん・・何かの魔法じゃないかと。」
ジェンの言葉に、ノエルは暫く黙ったあと、ぽつりと言った。
「あそこはその名の通り、数百年前に力を持っていた『魔女』が棲む場所だと言われとる。呪われた場所であり、近づけばその者は魔女の呪いを受けて無事には戻れん。そんな言い伝えの残る場所じゃ。」
「その魔女というのはどういう人物なんですか?」
「わしの聞いとる話じゃと、見た目は若い娘だそうじゃよ。」
「若い娘?!悪い魔女っていうから、てっきりしわしわのお婆ちゃんかと思ってた!」
「よくあるイメージだよなぁ。」
驚きの声を上げるラヴィンに、ジェンは苦笑した。
「エルス様の御加護であるこの土地の力を我が物にしようとしてな、姿かたちまでエルス様そっくりにしておったそうじゃ。」
「そっくりに?」
「ああ。美しく輝く金色の髪、透き通った紅い瞳。その美しさはとても邪悪な魔女とは思えないものだったらしい。姿も力もエルス様に成り代わろうとしたんじゃろな。ふん、愚かもんじゃ。魔女と言ったって
、たかだか人間が女神様の力にかなうはずあるまいよ。」
「へぇ。ますますイメージと違うなあ。もっとおっどろおどろしい真っ黒な姿だと思ってたのに。あんまり怖くなさそうだねぇ。」
ラヴィンののほほんとした感想に、ノエルは口をへの字にひん曲げると大きなため息を吐き出した。
「はぁ・・。だからバカじゃと言うとるんじゃ小娘。」
「んもう。バカバカって、ノエルさんけっこー口悪いよねー。まぁいいけどさぁ。」
「あのな、これだけ長い間語り継がれてきた魔女なんじゃぞ。無害なはずないじゃろ。あのファリスロイヤが滅びた事件とて、この魔女の仕業だと言われとるんじゃからな!」
ノエルの最後の言葉に、ジェンも、そしてノエルの口の悪さに頬を膨らませていたラヴィンも、ビクリと肩を揺らしてノエルを見る。と同時に、2人揃って声を上げた。
「「ファリスロイヤの滅びた事件?!」」
- 〜暗闇の中の声〜④ ( No.102 )
- 日時: 2015/12/19 18:01
- 名前: 詩織 (ID: cFR5yYoD)
ざくざくと草むらを踏みしだきながら、ラヴィンは斜め後ろを歩くジェンに声をかけた。
「ねぇ、さっきの話。どう思う?」
「んー。どうって・・、そりゃ突然だったから驚いたけど・・」
下を向いて何やら考えながら歩いていたジェンは、言いながら顔を上げてラヴィンを見返す。
「まだイマイチぴんとこないな。でも確かに、変に繋がるんだよなー、話の鍵になる部分がさ。」
「そうなんだよね。まさかこんなトコでファリスロイヤが出てくるとは思わなかったけど。びっくりしたね!」
「確かに。」
ジェンが笑った。
ノエルから話を聞き終わると、2人はすぐさま最初の坑道までの道を歩き始めていた。
ラヴィンはもう3度目だから、迷いなく早足であの入口を目指す。
ジェンも後ろから、半分小走りのような足取りで後を追い、途中少し歩を緩めたところでラヴィンが彼に声をかけたのだ。
数刻前。
ノエルの言葉に相当驚いた2人の口からは、矢継ぎ早に質問が飛び出した。
「ファリスロイヤってあのファリスロイヤ城のこと?!」
「滅びた事件って、例の内部の裏切りによってってやつですか?あの伝説ってホントなんだ?」
「そうだ!財宝!ファリスロイヤの財宝は?ホントにあるのかな!」
「植物や薬学が盛んだったってのは?かなり高度な研究がされてたらしいんですよね。俺ちょっと興味あって・・。財宝っつうか資料があったらぜひ見てみたいんですよねー。」
「そうなの?なんだ、ジェンあんまりそういう話しないから、そんなに興味あるなんて知らなかったよ。もー、言ってよねー。」
「言ってどうすんだよ。ファリスロイヤの財宝なんて、もしあったとしても国の調査団が持ってっちまうんだろうしさ。一般人の手には入らないだろ。」
「そうだけどー。でもでも、皆で話してるだけでも楽しいじゃん。どんなかなって。」
「そういうもんか?お前、そういうとこは女子だよな。」
「なによそれ!『そういうとこ』だけじゃなくて、女の子なんだってば!」
急にテンションを上げて会話を続ける2人を眺めて。
ノエルは呆れたように目を細めると、再び煙草をくわえる。
(しばらくほっとくか。)
そう思いながら、ぽふっと口から煙を吐いた。
ゆっくりと、目で追っていく。
空が青い。
2人の会話はまだ続いている。
「ねぇ、国の調査団って言えばさ。あの後結局どうなったんだっけ?なんか事故が起きて中止になったんだよね?」
「ああ、社長とラパスの話だろ?街の噂じゃ、しばらくは中止したままだって聞いたな。ギズさんが酒場で聞いたって。酔っ払いの噂だからホントはどうか知らないけどなって笑ってたけど。」
「ふーん。ちょっと残念。・・って、あれ?何の話してたんだっけ?」
ラヴィンが首をひねる。
そして。
「「そうだ!ファリスロイヤの滅びた事件!」」
2人一緒にがばっとノエルの方に顔を向ける。
煙草の煙を空へと吐き出していたノエルは、小さくため息をついて2人を見た。
「ヤレヤレ。やっと終わったのか。まったく最近の若いもんはぺらぺらよく喋るのう。」
「えー、ノエルさんだっておしゃべり好きじゃん。」
「黙れ小娘。もう教えんぞ。」
その言葉にラヴィンが「ええーっ」と顔を引きつらせる。
「ラヴィン、お前ちょっと黙っててくれるか。ノエルさん、続きを教えて貰えますか。」
ジェンの言葉とラヴィンの顔に、満足気な顔で頷いて、ノエルは話の続きを始めた。
- 〜暗闇の中の声〜 ⑤ ( No.103 )
- 日時: 2015/12/20 12:48
- 名前: 詩織 (ID: 6PL6dW6J)
———— その昔、ルル湖北岸の一体を治めていたファリス一族。
その居城が、後に財宝伝説を噂される遺跡となる城、『ファリスロイヤ』である。
周囲は緑豊かな山々に囲まれ、領地を流れるいくつかの川や肥沃な大地、美しいルル湖など自然の恩恵をたっぷりと受けた土地だった。
恵まれた環境の中、植物学や薬学も栄え、研究者や商人も多く出入りする活気のある地域でもあったらしい。
人々は豊かで、城下の町はいつも賑わっていたという。
「つまり、とっても平和なところだったのね。」
ラヴィンが言うと、ノエルは頷いた。
「そうじゃな。平和であったし、力もあったんじゃと。じゃが、あの『魔女』のせいで全部台無しじゃ。」
「台無し?」
「魔女の呪いじゃよ。田畑は荒れ、疫病が流行り・・、最後には魔女の魔法で気が狂った親族の手によって内乱が起こり、結局無残に滅びてしまったという話じゃよ。ファリスロイヤもなぁ、ずいぶん長い間、不落の城としてファリス一族と共にこの地のシンボルだったようじゃが・・、最後の城主が居なくなった後は国の領地として没収されたんじゃと。」
ノエルの話を聞いて、ラヴィンは神妙な顔で呟いた。
「そうなんだ・・。叔父さんが言ってた“豊かでお酒の美味しいところ”っていう話は、その平和だったころのファリス地域のことなんだね。」
「ん?酒は今でもうまいぞ。」
ノエルが言う。
「確かに一時はそりゃあ無残だったらしいがの。自然は偉大じゃ。しかもエルス様の守る土地なんじゃから。長い長い年月をかけて、豊かさを取り戻したあの土地の酒は今でも絶品じゃあ。」
酒の味を想像したのか、ノエルの頬がゆるむ。
「へぇ、そんな旨いのかぁー。うちの店で取り寄せできるかな。」
ジェンもつられてそんなことを言う。
「ふぅん。お酒はよく分かんないけど、でもじゃあその土地は今はもう元通りなのね?」
「いや、全部という訳にはいかんな。確かに酒は旨い。が、ファリス一族が治めていた全盛期とは比べ物にならんと言われとる。昔採れた貴重な植物も、その時から見られなくなってしまったというしな。」
「何か土地の質が変わるほどの原因があったってことか?」
ジェンが呟く。
「知らん。今は静かで簡素な山あいの町、といったとこか。うちの村と大して変わらんよ。昔ばなしを聞かされても、あの場所がそんなに栄えてただなんて想像もできんわ。」
「何故、魔女は呪いなんかかけたんでしょう?」
ジェンの問いに、ノエルは首を横に振る。
「さあな。だいたいにして大昔の話なんじゃから、あの町の奴らでさえそんなこと誰も知らんじゃろ。ただ、いくつかある昔ばなしの中ではなぁ、女神エルス様の代わりに力を手に入れ人々を支配したかった魔女は、エルス様への信仰が特に深かったあの地域を手はじめに襲ったということになっとるな。で、エルス様に力を封じられた魔女があの山に・・」
「んん?ちょっと待って。」
エルス様の部分で力を込めるノエルを、ラヴィンが止めた。
「おかしくない?だって、結局ファリスロイヤは滅びちゃったんでしょ?エルス様をそんなに信仰してたのに。そんで、今でも当時ほどの力はない。土地も豊かさの全てが戻ったわけではない・・。採れる植物だって変わってしまった。でも・・」
じ、っとノエルを見つめて首を傾げる。
「魔女はエルス様によって山に封印された?じゃあなんで、ファリスの町は・・、土地は、元に戻らないの?っていうかそんな力があるんなら、滅びる前になんとかできなかったの?」
続けざまのラヴィンの質問に、ノエルはフン、と鼻を鳴らした。
「あーあーうるさいのう!だから知らんと言っとろうが。わしはただ、いくつもある昔話や伝承のうちのいくつかを口にしたに過ぎん。どこの地域にだってあるじゃろ、民話のひとつやふたつ。実際どうだったかなんて、わしが知るわけないじゃろ。わしを何だと思っとる。」
「ノエルさん。」
「そのまんまじゃないか!違う、そういうことじゃなくて・・、いや、もういい。とにかく!」
疲れたように、ノエルは話をまとめ始めた。
ジェンは、ラヴィンと話すときのつっこみ力入ってるもんな〜とか思いつつ口には出さない。
けれどそんな風に見せたって、ほんとはちょっと楽しんでたりするんだろう。この偏屈で素直じゃないじいさんは。
ふと、昔仲良くしていた老人の姿を思い出す。
海辺の小さな家に住んでいた、マリーの唯一の『家族』。
(口数は全然違うけどな。)
何となくそんなことを思いながら、ジェンは2人のやりとりを見ていた。
「とにかく!わしが知っとるのはこんだけじゃ!仲間を探しにいくならさっさといけ!」
ノエルの言葉に、ラヴィンとジェンの顔にさっと真剣さが戻る。
2人は顔を見合わせて頷くと、すぐに立ち上がって荷物を背負った。
「ノエルさんありがとう!」
「助かりました。少しでも情報を知っておけば、いつ役に立つか分からないから。落ち着いたらまたお礼に伺います。」
「いい、いい、そんなのは。さっさと行け。」
シッシッと手で追っ払うような仕草をし、素っ気なく振舞う老人に2人は小さく苦笑する。ぺこりと頭を下げると、そのまま目的地へと向かって歩き出した。
「あー、お前ら。」
数歩歩いたところで後ろから声がする。
「・・気をつけていくんじゃぞ。」
振り向きざまにそんなセリフが飛んできて、視線の先にはそっぽを向いたノエル。
その顔は何となく赤くて。
「あっはははは!ノエルさん素直じゃなさすぎーっ!」
「ありがとうございます。っぷぷ。」
思わず吹き出した2人は怒鳴るノエルに手を振ると、再び、あの場所を目指して駆け出した。
昔ばなしと現在。
真実の“歴史”と、作られた“歴史”。
交錯する物語がどんな風に繋がるのか。
渦中に巻き込まれてゆく彼女たちには、まだ何も見えていなかった。