コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

〜暗闇の中の声〜 ( No.105 )
日時: 2015/12/21 23:59
名前: 詩織 (ID: An3hhqaa)


「・・戻ってきたね。」
「ああ。」

軽く息を切らして、2人は草むらをかき分けると足を止めた。
今、視線の先にはあの真っ暗な坑道の入口が見える。

つい数時間前にきた時には、4人で立っていた場所。
あの時は暗闇に支配された坑道だって、シルファの魔法で優しい明かりに照らされていたのに。

今は明かりもなく、入口から少し先は何も見えない闇の空間だ。

(シルファ・・、・・マリー! 今いくからね。)

両手を握り締めるラヴィンの横で、ジェンはしゃがみこむとガサゴソと荷物を漁った。
「シルファがいないからな。明かりをつけないと。」

念の為持ってきていたランタンに火を灯そうと、道具を取り出そうとした。
「お、あったあった。よし、ラヴィンちょっとこっち持ってくれるか?・・・ラヴィン?」
返事がない少女を、ジェンは見上げた。
「どうした?」

見上げた先、ラヴィンはある一点をじっと見つめたまま微動だにしない。
彼女の視線の先は、あの坑道の入口の中だ。
「ん?何かあるのか?ラヴィ・・。」

ジェンが声をかけて立ち上がったその瞬間。


ものすごい叫び声を上げて、ラヴィンはジェンに飛びついていた。

「は?!おい!どうしたんだよ!ラヴィン?!」
「やだぁ———— っ!!!やだってば!」
「うぐ・・、おい、ちょっと待て苦しい!」
「なんで?!なんでこんな昼間からっ。」
「だから何がっ、・・・?!」

なんとかラヴィンを抑えつつ、その視線を辿ると。
そこに居たのは・・。

「っ?!」
ジェンも、思わず息を呑んだ。



——— 男が、立っていた。

(・・?!さっきまで、誰も居なかったのに!)


坑道の入口の中、表から差し込む光が完全な闇へと代わる境目の辺り。
ぼんやりと、1人の男の姿が浮かび上がる。
明るい栗色の髪、同じ色の瞳。
精悍な顔つきの、若い男。
芝居で見るような古い時代の、あれは、騎士の格好だろうか。

それより何より。
2人を驚かせたのは・・。
(体が、透けてる?!)
洞窟の暗闇から2人を見つめていたのは、薄ぼんやりと光る、実体のない青年の姿だった。
何をしてくるわけでもなく・・、ただ、そこからじっと、2人を見つめている。

「なんだ、あいつ。・・亡霊ってやつか?」
「ぎゃあああっ!やめて!言わないでぇっ!」
ジェンの言葉にラヴィンは再び叫ぶと、力任せに抱きついた。
「うげ、おい!ちょ、落ち着けって!」
ジェンはゴホゴホと咳き込みながら、なんとかラヴィンを落ち着かせようと試みる。
このままでは体力が持たない。

「なあ、大丈夫だから一旦落ち着け!ほら、深呼吸!んで、一回力抜いて、ほら、手ぇ離して。」
言われるがままに、ラヴィンは何度も深呼吸をくり返し、やっと落ち着いたころ、そっと手を緩めた。
入口の方向へは、決して決して目を向けないけれど。

2人がそうこうしている間も、不思議な姿の青年はじっと動かないまま、2人を見ていた。


「落ち着いたか?」
ジェンは言いながらラヴィンの背中をぽんぽんと叩いてやった。
「う、うん・・たぶん。ねぇ、ジェンにも見えるよね?その・・あの・・。」
「亡霊か?」
「ぎゃあ!言葉にしないで!」
「お前・・。確かさっき、もっと頼れって言ってなかったか?」
「これは!これは別!」
顔を引きつらせたままラヴィンは叫んだ。
( 『私も、誰かの力になりたい』けど!でもコレは無理〜〜っ!!)

誰にでも、出来ることと出来ないことはあるよね、うん。

とりあえず自分のなかで結論付けると、ラヴィンは1人で頷いた。

「なあ、ちょっと見てみろよ。あいつ、俺たちに何か言いたそうじゃないか?」
ジェンが坑道の闇へと目を向けながら言う。
「はぁ?!何言ってんの?目なんか合わせちゃダメ!どっか連れてかれちゃうよ!」
「どっかってどこだよ。ほら、ずっとこっち見てるし。」
「ダメだってば!なによ、ジェンは怖くないの?!」
「そりゃ少しはな。けど怖いというより・・、そうだな、滅多に見れないものだから興味はある。」
「これだから研究者ってのはー!!」

騒ぐラヴィンを見下ろして、今度はジェンが首を傾げる。
「聞くがお前、なんでそんなにあの手のやつが怖いんだ?」
「当たり前でしょ?お化けだよ?幽霊でしょ?ずーっと昔から怖かったよ。」
「だから、どうしてそんなに怖がるんだ?」
ジェンの質問に、ラヴィンはふと動きを止めると、うーんと首を捻る。
そして、あ、っと思い出した。

「子供の頃にね、叔父さんがよく外国の物語を聞かせてくれて。その中に、しょっちゅう出てきたの!幽霊とか、おばけとか!それがめっちゃくちゃ怖くてさぁ。すごいリアルなんだよ?叔父さんの話し方。ちっちゃい頃は聞いてる途中で怖くなっちゃって、よく大泣きしてたなー。叔父さんは笑ってたけど。」
「あー・・・。そういう・・。」

腑に落ちた、というようにジェンは目を細めると、今は離れたギリアに想いを馳せる。

(社長・・、ラヴィンで遊びましたね?)

幼いラヴィンに面白がって世界中の怪談話を披露する、若き日のジェイドの姿がいとも簡単に想像できてしまった。
(やれやれ。)
ため息をつくと、ジェンはまだ自分の服の裾を握って離さないラヴィンの頭をぐりぐりと撫でた。
「大丈夫だから。」
そういうと顔を上げ、青年を見ながら言った。

「やっぱりあいつ、何か俺たちに言いたいことがあるんだろうな。・・ほら。」
「?」
ジェンの服を掴んだまま、ラヴィンは怖々とそちらに視線を移す。

2人が自分を見ていることを認識したのか、透ける体を持つ青年は小さく頷くとそのまま振り返り、奥へと進んでいこうとする。

「ついてこいって言ってるんじゃないか?」
「えええ?なんで?」
「だってほら。」

ジェンの言う通り、少し進みかけて、青年はこちらを振り返ると手で『来い』という合図をした。
「ええええ〜?」
腰が引けるラヴィンだが、青年の次の行動を見て息を呑む。
「あれは・・・!」

青年が手をかざすと、あの暗かった抗道内に、ぱぁぁっと明かりが灯った。
「魔法の明かり!シルファとおんなじ・・。あの幽霊、魔法が使えるの・・?」
「ラヴィン。」
ジェンが言った。
「俺たちがあんなとこまで飛ばされたのは、魔法の力でしか有り得ない。あいつが俺たちに接触してきたのは・・、もしかしてマリーやシルファにも関わることなんじゃないか?」
ラヴィンははっとしたように顔を上げ、そして素早く青年に視線を向ける。

青年はまるで早くしろ、とでも言いたげな顔でこちらを見ると、再び坑道の奥へと歩き出す。

「行こう!ジェン!何か、マリーとシルファの手がかりが掴めるかも。」
「よし。行くぞ。」

荷物を背負うと、2人は慌てて不思議な青年の背中を追いかけて駆け出した。