コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 〜暗闇の中の声〜⑧ ( No.110 )
- 日時: 2016/01/05 00:35
- 名前: 詩織 (ID: aiwVW5fp)
「・・おっ!?」
ラヴィンの叫びと同じタイミングで、小さな影がジェンの腕の中へ飛び込んできた。
どんっ、という軽い衝撃を感じ、思わず視線を下げる。
そして。
「・・・マリーっ!」
腕の中の少女の名を呼んだ。
「お前っ・・、良かった、無事だったんだな!!」
ジェンの言葉にこくんと頷くと、マリーはぎゅううっとしがみつく腕に力を込めた。
そんなマリーをジェンは優しく抱きとめてやる。
そっと頭を撫でながら、もう一度「良かった」と繰り返した。
「シルファ!大丈夫だった?怪我はない?!」
駆け寄ってきた少年の、自分へと差し出された手を握り返しながら。
ラヴィンは心配そうに声をかける。
「大丈夫。僕はなんともないよ!マリーも無事。それよりそっちは?君は大丈夫?」
掴んだラヴィンの手を力強く引き上げながら、シルファも気遣うように彼女を覗き込んだ。
「私も大丈夫!良かったぁ。みんな無事なんだね。」
いつもと変わらぬ屈託のない笑顔を見て、シルファもほっと安堵のため息をもらした。
(良かった。うん、やっぱりほっとするな、ラヴィンが笑ってくれると。)
つられて自分も笑ってしまう。
「ジェンも。元気そうで良かった!」
ジェンとマリーを振り返り、声をかける。
「ああ、お前も。無事で何よりだ。——— ところで、ここはどこなんだ?さっきの俺たちを飛ばした魔法みたいなヤツと関係あるのか?」
「そうなんだ。実はさ、僕たち・・。」
シルファはマリーと目を見合わせると、これまでの経緯を話した。
倒れていた場所、謎の壁画、この不思議な部屋のこと。
自分たちの導き出した答え・・。
それに合わせて、ジェンとラヴィンも自分たちの経緯を説明する。
彼らの飛ばされた先が見知らぬ森の中だったと聞き、シルファとマリーは「やっぱり!!」と興奮気味に頷いた。
「あの壁画の通りだ。あれは、ここにかけられた魔法を表した絵だったんだ!」
「私も見てみたいなぁ、その壁画!」
全員無事だったという安堵感も手伝って、4人はお互いの話に興味津々。
「あ、そうだ。こっちもね、ノエルさんにもいろいろ聞いてきたんだよ!ここの魔女伝説のこととか、ファリスロイヤとの関係とか。」
「ファリスロイヤ?」
「それって、この前社長さんが言ってた“あの”お城のこと?」
シルファとマリーが不思議そうな顔をする。
ラヴィンはノエルから聞いた昔ばなしを2人に詳しく話して聞かせる。
シルファが感心したように言った。
「へぇ。そんな話が残ってるんだ。でも、実際にこんな場所が残っている以上・・、その時代に何か起きたのは間違いなさそうだよね。」
ふむふむと頷いていたシルファ。だが急に何か思い出したような顔で、はたと動きを止めた。
「・・って、そういえば!2人ともどうやってここまで来たの?なんでいきなり空中から・・。」
その質問に、ジェンとラヴィンも思い出したように「あ!」叫んで辺りを見回す。
「そうだ!あいつどこに・・。」
「あ!あそこ!」
ラヴィンの指さす方向に視線を向けると、そこに、あの男は居た。
壁に寄りかかり腕を組んだ姿勢のまま、4人を見ている。
まるで、4人がお互いの状況を把握するまで待っていたようだ。
「誰?」
マリーがジェンの服を掴んだまま顔を上げる。
シルファも同じ疑問を込めた目でジェンとラヴィンを見るが、2人とも困ったように首を傾げた。
「それが・・、俺たちにもよく分からないんだ。」
「でも、私たちに何か言いたいことがあるみたいなの。ここに連れてきてくれたのは、あの人なんだよ。・・人・・なのかもよく分かんないけど。」
再び4人が男に目を向けると、それまでじっと黙って壁に持たれていた彼が腕を解いた。
そうしてゆっくりと、こちらに近づいてくる。
緊張感が漂い、一瞬空気が張り詰めた。
あと少し、というところまで来て、男は足を止める。
静かに腰を落とし、片ひざを地面につけた姿勢で顔を上げた。
その視線の先には ————。
(・・私?)
マリーはどきっとして両手を握り締めた。
すると。
(そうだ。君に・・、君の力を貸して欲しい。)
「え?!」
思わず驚きの声がでた。
まるで頭に直接響いてくるような、低い声が聞こえたからだ。
「え?何?・・誰?」
「どうした?マリー。」
きょろきょろと辺りを見回すマリーに、ジェンが声をかける。
「今の声・・。」
「声?」
ジェンはラヴィンとシルファを見た。
2人ともふるふると首を振る。
「何も聞こえないよ?」
「どしたのマリー?なんか聞こえた?」
3人の様子に、マリーは男を振り返る。
(私にしか聴こえないの?この「声」は・・、あなた・・なの?)
わずかに距離を置き自分を見つめる男に、マリーは恐る恐る、心の中で語りかけてみた。
すると、再び「声」が聞こえた。
(そうだ。今の俺では力が足りない。君たち全員に聞こえるように話すのは難しい。だが、俺にはどうしても・・、君たちに伝えたいことがあるんだ。君の力を・・その幻獣の魔力を、少しでいい、俺に貸してくれないか。)
「っ?!なんでそれを?」
マリーと男の様子に、いち早く事態を察知したのはやはりシルファだった。
「マリー!離れて!」
鋭く叫ぶとマリーを下がらせ、自分が男の前に立つ。
マリーを腕に庇いながら、ジェンもゆっくりと立ち上がる。
その間も男はマリーから視線を離さず、マリーもまた、黙ったまま目を大きく見開いて男を見つめていた。
「マリー?」
不安げにかけられるラヴィンの声に、黙っていたマリーが静かに口を開いた。
「大丈夫。」
「え?」
驚いて振り向く彼らの間をすり抜けて、マリーはゆっくりと男の前まで進み出る。
「ありがと、シルファ。でも、大丈夫。このひと、悪い人じゃないわ。分かるの、私。」
大丈夫。
落ち着いた声でそう言うと、マリーは男と向き合った。
そんなマリーの頭に、あの「声」が言った。
(ありがとう。)
「どうすればいいの?」
心配そうに皆が見つめるなか、マリーが聞くと、男はそっと右手を差し出した。手のひらを上に向けて広げる。
(ここに、君の手を。)
「分かったわ。」
テレパシーのような、声のない『会話』。
けれど、マリーにはなぜか分かった。
(この人、私と同じ魔力を持っている———。)
何故だか分からない。きっと本能のような部分で、マリーはこの男の力を理解していた。
自分たちに、敵意がないことも。
男の大きな手に、自分の小さな手をそっと重ねる。
「きゃっ?!」
一瞬、手のひらがカッと熱くなる。
強力な閃光が部屋中に広がり、あたりはそのまま真っ白な光に包まれた。
「ええっ?!」
「わっ」
「マリーっ!」
思わず叫んで目を覆う。あまりの眩しさに、それ以上は誰も何も言えなかった。
しばらくして・・。
光が去ったあと、恐る恐る目を開ける。まだ視界がチカチカしていた。
「ん・・、何が起きたの?」
「マリー!大丈夫か?」
「うん。大丈夫よ。」
目を開けた先には、先ほどと変わらずあの男が居た。
だが、先ほどまでの無表情とは違う。
ホッとしたような、それでいて驚きが隠せないでいるような、入り混じった表情を浮かべていた。
そのままマリーを見つめると、ふ、と笑ってその手をとる。
「ありがとう。幻獣の力を持つ少女。」
言いながら、騎士の礼をとった。
「俺の名はトーヤ。正直・・、まだ信じられない。こんなところで、古代魔法の使い手に出会えるなんて。君の魔力のお陰で、俺はこうして君たちと話ができる。本当にありがとう。」
(さっきまでと全然違う。急に、人らしくなった・・。)
身体はまだ透けた姿のままだった。
だが、表情はずっと豊かになり、笑って礼をいう男をみて、ラヴィンはそんな風に思った。
「私の、魔力?」
「そう。古代幻獣の力。俺の持つ古代魔法の力と同じだから、すぐに分かった。」
そう言うと、後ろのラヴィンにも声をかける。
「あんたも、悪かったな怖がらせて。俺もずいぶん長いことここから離れられなくて、魔力が弱ってたから。この子の力をかりなければ話しかけれなかったんだ。」
急に話しかけられて、ラヴィンはプルプルと首を振る。
そんな彼女を見て笑ったあと。
栗色の髪の男は、彼らに言った。
「頼む。俺にはどうしても、伝えたいことがあるんだ。どうか・・、聞いてくれないか。」
ほのかに照らされた暗闇の中、男の声が静かに響いた。