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第14章  ファリスロイヤ昔語り  〜 あの日、君がいた場所 ( No.111 )
日時: 2016/01/01 16:52
名前: 詩織 (ID: jIh6lVAe)

第14章  ファリスロイヤ昔語り  〜 あの日、君がいた場所 〜


「まず、何から話せばいいのか・・。悪い。聞いてくれって頼んでおいて。ずっと、誰かに伝えたかったのはホントなんだ。けどまさか本当にこんなチャンスに恵まれるなんて思ってなかったから。これもきっと、女神の導きなんだろうな。」

『トーヤ』
そう名乗った彼は、少し戸惑ったように切り出した。

「女神って、エルス様のこと?」
ラヴィンの問いに、トーヤは頷いた。
「そうだ。女神エルス。俺はまだ身体を持って生きていた頃、女神エルスを祀る神殿で護衛騎士をしていた。」
「生きてた頃って・・、やっぱりあなた・・そのぅ・・。」
言いにくそうに尋ねるラヴィンに、トーヤは苦笑いを浮かべる。
「そうだよ。俺はもう、とっくの昔に死んでる。正確な年数なんて忘れたけどな。もう何百年も昔のことだし。あんたが怖がる『亡霊』ってやつさ。」
「うう〜〜、ご、ごめんなさい。」
「いや、いいって。俺だってまさか自分がこんなんなるとは思ってなかったし。ま、正確に言えば魔法の反作用によって存在する思念体なんだけど。」
「魔法の反作用?」
シルファが尋ねた。
「ああ。ものすごく特殊な魔法の、な。神殿の長と巫女長にだけ伝わる古代魔法だ。俺は訳あって、“あの時”使われた魔法の影響を受けている。・・今でも。」
「ちょっといいか?聞きたいんだが。」
ジェンが小さく手を挙げる。
今、彼らは皆で床に座り込み、トーヤの話を聞いていた。

「えっと、トーヤ、だったよな。さっきマリーに話しかけた時も、自分の力を『古代魔法』、マリーの力を『古代幻獣の力』と言ったそうだが。」
「ああ。」
「俺たちから見たら、君だって相当昔の時代を生きていたんだろう?なんでそう呼ぶんだ?」
「俺たちの時代でもそう呼んでいたからだ。」
トーヤが答えた。

「俺のいた時代は、ここからたかだか数百年前。それに比べて『古代』と呼ばれる時代は数千年以上昔に遡る。それこそ神々がいたとされる神話の時代だ。俺の言う『古代魔法』ってのは、俺たちが守る女神の神殿の中で、秘術として代々その長と長が選んだ巫女長だけに伝えられてきた魔法の力。俺たちの時代でさえ、すでに古代魔法と呼ばれていた代物だ。世の中に魔法使いはたくさんいたが、一般的に使われていたのは今とさほど変わらない系統の魔法だった。『古代魔法』はそれとは別。『特別』なんだ。」
「・・・」
シルファは自分のノートを取り出すと、ペラペラとめくってみた。
「この文字は、そんな昔のものだったんだ。」
シルファの呟きに、トーヤはノートに目を向けながら言った。

「そうそう。その文字を調べに来んだよな、あんたたちは。」

どうして知ってるんだろう?
そんな疑問を浮かべたシルファの顔を見て、トーヤは笑った。
「ずっと見てたんだよ、ここに入ってきた時から。俺はここからは出られないけど、この中のことならなんでも分かる。思念体だからな、移動も簡単だ。」
「そうなんだ!全然気付かなかった。」
「そっちから、俺の姿は見えないからな。強力な魔法だったが、長い年月の中でゆっくりと力は薄れてきている。本来はこんな風に接触できるはずはないんだ。けど、その子の魔力のお陰で、姿を見せ、今はこうして話もできてる。あんたたちがここに来てくれたから。」
そう言ってマリーを見て笑顔を浮かべた。

「で?私たちに聞いて欲しい話っていうのは?どうして、私たちだったの?」
ラヴィンの問いに、トーヤは4人を見回していった。
「まずはもちろん、俺と同じ魔力を持つ彼女がいた事。どうしても、その力を借りたかった。それから、あんたたちなら興味を持つんじゃないかと思ったんだ。」
「興味?」
トーヤが頷く。
「あんたたち、古代魔法の謎を解きにきたんだろ?それに俺とは違う力だが、魔法使いも混ざってる。」
そこでちらりとシルファを見た。
「あんたたちが調べようとしていることと、俺が聞いて欲しい話は、多分・・、いや、絶対に繋がってる。だから俺の話に興味を持ってもらえるんじゃないかと思ったんだ。あとは・・。」
「あとは?」
「俺の勘。」
「勘?!」
首を傾げるラヴィン。
「ずっと見てたけど、あんたらは悪いやつじゃない。盗賊の類とか、ましてやここの力を狙う”あいつら”とも違う。今、このタイミングでここに来てくれたことも・・きっと女神の導きだと、俺は信じてる。だから、聞いて欲しいと思ったんだ。あんたらには迷惑かもしれないが・・、俺にはもう、他に術がない。」
そこまで言うと、トーヤは4人に頭を下げた。
「頼む。俺に、力を貸して欲しい。」

その声は真剣そのもので。彼の必死さに4人はお互い顔を見合わせる。
小さく頷き合って、トーヤへと視線を戻した。

「まず、話してみてよ。僕らで出来ることなら、力になれるかもしれないよ。」
シルファの言葉に、トーヤは顔を上げる。
その顔には、ほっとしたような色が滲んでいた。


「ねぇ。」
そんな彼に問いかけたのは、マリーだ。
「さっきあなた、古代魔法は特別な人だけが使えるって言ったわよね。あなたはその魔法の影響を受けてしまって、ここにいるって。」
「ああ、そうだ。」
「けど、あなた自身の魔力は?あなたも、持っているわよね、私と『同じ魔力』。」
「え?」
マリーの言葉に、シルファは2人を交互に見つめた。

マリーには分かるのだ。
トーヤの魔力は、ただ影響を受けたものではなくもともと彼の中に宿っている彼自身の魔力だと。
そしてそれは、マリーと同じ、彼の言葉を借りれば限られた人間しか使いこなせないはずの『古代魔法』の力。

「あなたは騎士だと言った。あなたの時代では、騎士もみんな、魔法を使えるの?」
マリーの問いに、しばらく黙って考えていたトーヤだが。

「なかなか鋭いな、お嬢ちゃん。」
「マリー、よ。」
「そっか。じゃあマリー。単刀直入に言えば、確かに俺も魔法が使える。あの時代でも貴重な、古代魔法の使い手だ。けど、騎士が誰でも使えた訳じゃない。むしろ俺が特別だな。」
そう言うと、静かに立ち上がる。

4人の視線が集まる中、彼は部屋の隅・・、あの少女の絵のあるところまで歩いていくと、振り返って言った。

「あんたたち、さっき、ファリスロイヤの話をしてたよな。何故あの城が滅びたのか・・、知ってるか?」


唐突な質問に、きょとんとした顔のラヴィンが答える。
「ええっと、確か、ある当主の代に一族内部の裏切りによって・・じゃなかったっけ?」
「うん、確かそう言ってたわよね、社長さん。」
「あ!あとは『魔女』!魔女の呪いのせいで町も城も滅びてしまったってノエルさんが言ってたよね!」
勢いよくジェンを見ると、彼も大きく頷いた。
「ああ、疫病や災害をもたらした『魔女』って話だったな。ここに封印されたって伝説の、女神エルスにそっくりな若い娘・・。」
「え、それって・・。」

トーヤの立つ場所。足元には、そっと置かれた、あの絵画。
描かれている、エルスそっくりの少女。

「あれが、魔女?」
シルファは呟く。

トーヤの顔を見る。唇を引き結び、その瞳はなぜか暗く翳っているように見えた。
(・・・?)


「そうだ。これはお前たちの言う『魔女』の肖像。ファリスロイヤを滅ぼした、残虐非道の伝説の魔女だ。」
そこまで言うと、意を決したように、トーヤは4人を見つめた。


「俺の本当の名は、トーヤ・クラウン・ファリス。その裏切った一族の人間というのは、多分、俺のことだろう。そして話というのはこの『魔女』リーメイルのこと。」

トーヤの声に力がこもる。


「俺の願いは、彼女を解放することだ。この、魔法の呪縛から・・!」