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- 第14章 ファリスロイヤ昔語り 〜 あの日、君がいた場所 ( No.112 )
- 日時: 2016/01/01 18:17
- 名前: 詩織 (ID: jIh6lVAe)
———— 私ね、この花が大好きなの。
そう言って微笑む彼女の顔があまりにも幸せそうだったから。
思わず見蕩れてしまう。
けれど、それを悟られたくなくて。
ついついぶっきらぼうな言葉を返した。
———ふぅん。別に、俺から見たらただの花だけどな。
彼の返事に「もぅ、情緒がないんだから」と頬を膨らませ、しかしそれも長く続かずに、彼女はクスクスと笑いだした。
素直じゃない彼の、それは単なる照れ隠しだと、長い付き合いの中で十分わかっていたからだ。
「・・なんだよ。」
低い声で言いながら、横目で自分を睨んでいる彼。
その表情は、傍から見れば騎士様というよりガラの悪い傭兵である。
「ふふ、なんでもなーい。」
笑ったまま、彼女はしゃがみこむと、美しい花に顔を近づけその香りを吸い込んだ。
「いいにおい。」
そんな彼女の後ろ姿を眺める彼の瞳は、その態度とは裏腹にずいぶん優しいものだった。
風に、花が揺れる。
この地にもやっと届き始めた春の風が、花とともに、そっと2人の髪を揺らして通り過ぎていった ————
暖かい記憶。
だがしかし、それは一瞬で消えた。
『あの日』。
真っ黒な雲が彼の地を覆い、流れるのは、血の赤。
「駄目だ!!お前は逃げろ!」
叫ぶ声も、もはや彼女には届かない。
「ごめんね。ありがとう・・・、さよなら。」
彼女の顔は、いつものように、優しく微笑んでいた。
———— それが、最後の彼女の記憶 ————
一瞬のような短い間に浮かんで消えた記憶を、トーヤは振り払う。
そして、目の前の4人を見た。
トーヤの言葉に、皆一様に戸惑いの表情。
(当たり前か。)
そう、当たり前だ。自分は、魔女とともにあの地を滅びへと導いた罪人だ。
・・少なくとも、表側の歴史では。
そう自嘲気味になりそうな自分を奮い立たせ、彼らを見つめる。
(さっき自分で言っただろ、もう、俺にはこれしか道はないんだ!)
「頼む、話を聞いて欲しい。」
そんなトーヤに、答えたのはマリーだった。
真っ直ぐ、彼を見つめている。
「トーヤさん。私、聞くわよ?言ったよね、私には分かるって。あなた、悪い人じゃないもの。どんな事情があったのか分からないけど・・まずは話してみて。ちゃんと聞くから。」
シルファもラヴィンも、マリーの強い言葉に驚きの表情を浮かべた。
けれど一番驚いたのは、やはりジェンである。
(マリーが、初対面の相手にこんなにちゃんと向き合うなんて。)
シルファに、過去を話したことは先ほど聞いていた。
きっとそのことが、彼女の心に小さな変化をもたらしているんだろう。
そんなマリーの姿に、シルファもラヴィンも顔を見合わせて小さく頷く。
気持ちは決まったようだ。
「うん。私も聞くよ。マリーが言うんだもんね。」
「魔女の解放・・って、どういうこと?君と彼女に、何があったの?」
そんな彼らに、トーヤはありがとう、と笑みを浮かべたあと、奥の壁を指さした。
「俺が話すより、見てもらったほうが早いだろ。」
「え?見るって・・。」
言いながらトーヤが何か唱えて手を動かす。
「わあああっ!なにこれ!なにこれっ!」
「っ!すごい・・。」
声を上げるラヴィンとシルファの横で、ジェンとマリーも思わずその光景に見入っていた。
「これは・・、あなたの使う『古代魔法』?」
彼がかけた魔法。
薄暗い部屋の中、光とともに、壁一面に映し出される風景。
まるで実際にその場にいるような、リアルな景色が、そこに映されていた。
「ああ。神殿に伝えられる投影魔法だ。これから、ここに映るのは、俺たちが生きていた時代。あの日、何があったのか・・、どうしてもあんたたちの目で見て欲しい。」
そう言ってトーヤが手を動かすと、光は強さを増し、4人はまるでタイムスリップするかのように、その世界の中へと引き込まれていった。