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- 第14章 ファリスロイヤ昔語り 〜暗雲〜 ( No.128 )
- 日時: 2016/01/28 20:45
- 名前: 詩織 (ID: OCiCgrL3)
ファリスロイヤ昔語り 〜 暗雲 〜
「・・ここは?」
沈んでいく意識の中で、リーメイルは1人呟いた。
薄暗い靄の中を、所在無げに漂う感覚。
足元がおぼつかない不安感と、底知れぬ恐怖のようなものが
ジワジワと這い上がってくる。
ここはどこだろう?
無音の薄闇である世界は、少しずつ少しづつ、闇が濃くなっているような気がする。
辺りを見回すと、一箇所、その薄闇の中でも一際濃い影を落とす場所が浮かんでいた。
(何かしら?)
ゆっくりと一歩踏み出す。
意識を集中させる。
そして、見えたものは・・。
「あれは!?」
真っ暗な闇に包まれた、それは、この地の中心。
毎日のように眺めている、この地のシンボル。
「ファリスロイヤ城?・・どうして?」
闇の濃さは更に増してゆく。
自身も飲まれそうになりながら、リーメイルは必死にかの城を見つめた。
———— そこに視えたのは。
深い深い、海の色。
彼女を見返す、2つの瞳。
深い深い、闇のいろ —————
「っ!!」
「リーメイルっ?!」
遠くで声がして、パタパタと足音が駆け寄ってくる。
祭壇の前、荒い息をしてしゃがみこんでいたリーメイルは、固く閉じていた瞳をうっすらと開いた。
「まあ、ひどい汗。大丈夫なの?ずいぶんと長いこと篭っていたから心配で様子を見に来たのだけれど・・。」
リーメイルと同じ白い巫女装束を身に付けた年配の女性が、心配そうに声をかけ、そっと寄り添う。
「ごめんなさい、大丈夫です。ちょっと深く入りすぎてしまったみたいで。」
なんとか笑顔を浮かべようとするが、無理をしているのは明らかだった。
「何か・・、よくないものでも見ましたか?」
深く祈りを捧げる時、リーメイルはしばしば女神からの神託を受け取ることがあった。
それは、良いことも、悪いことも、区別なくやってくる。
細かいコントロールは出来なかったが、彼女が内側に深く入り込んだ時、時にはヴィジョン、時には声のようなイメージなど、断片的ではあったが様々な方法で何かの予見がやってくるのだった。
「いえ、大丈夫です。少し、集中しすぎて疲れてしまって。心配かけてごめんなさい。」
そういう彼女に、年上の巫女は穏やかに笑った。
「いいのですよ、あなたに何ごともないのなら。リーメイル、巫女長になったからと言って、無理をすることはありません。あなたは、今までも十分よくやっていました。ゆっくりとでいいのです。今まで通り、ゆっくり、やっていきましょうね。」
優しく語る女性の言葉に、リーメイルはほっとした表情を見せた。
小さな頃から世話をしてくれていた、彼女にとっては母でもあり、祖母でもあるような存在の女性。
彼女の穏やかな笑顔と声は、リーメイルに安堵の感覚を与えてくれる。
「ありがとう。もう大丈夫。少し、休みます。」
そういうリーメイルの背中を優しく撫で、「そうしなさいな。」と告げると、笑顔を残し、彼女は自身の持ち場に戻っていった。
1人残されたリーメイルは、目の前の祭壇で微笑む女神像を見上げる。
(あれは、なんだったのかしら。)
あの、闇の中の城。あの、恐ろしい瞳。
弾かれるように、あの空間から引き戻された。
「何ごとも、起こりませんように。どうか、穏やかで平和なこの地の暮らしが、ずっと続いてゆきますように・・。」
心の不安を必死に押さえ、リーメイルは祈った。
皆が愛するこの土地が、平和でありますように。皆が笑顔でいられますように。
紡ぐ言葉とは裏腹に、心はなぜか、晴れなかった。