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- 第14章 ファリスロイヤ昔語り〜冥き闇の手を持つ者よ〜 ( No.129 )
- 日時: 2016/02/01 23:49
- 名前: 詩織 (ID: VNDTX321)
ファリスロイヤ昔語り 〜 冥(くら)き闇の手を持つ者よ 〜
「リアン様っ?!」
自分の名を呼びながら駆け寄るゾーラに、ファリス一族本家の嫡男、リアン・クロウド・ファリスは足を止めずに声だけを返した。
「ゾーラか。久しいな、息災か?」
オリーブ色をしたストレートの髪は、肩のあたりで切り揃えられ、歩くたびにサラサラと揺れている。
ちらりと視線を投げ薄く笑うと、返事も待たずに再び前を向いた。
ゾーラは彼に歩調を合わせながら、困惑した面持ちで問う。
「私のことなど今は良いのです!このような突然のお帰り、何かあったのですか?!予定ではお帰りの時期はまだ三月以上も先のはずでは・・。」
「やることが出来た。」
きっぱりとした声で言い放つ。
その鋭さに、ゾーラは思わず言葉を途切れさせた。
そんな彼を気にかける様子もなく、リアンと呼ばれた青年は続けた。
「父上はどこにおられる?」
「は、ただ今の時間はお部屋の方でお休みになられております。少しお疲れの御様子で・・。」
「そうか。」
そう答えると、リアンは足を速めた。
「父上のところへゆく。お前はここにいろ。」
「いえ、私もお共致しま・・。」
「いや、いい。我々だけでゆく。ここにいろ。」
ゾーラの言葉を遮り、リアンは強い口調で言った。
その言い方に、ゾーラは戸惑いを隠せない。
(これが・・、あのリアン様か?)
姿かたちがそれほど変わった訳ではない。
背が、少し伸びたくらいだろうか。
けれどその声の強さが、言葉が、そしてその瞳の鋭さが。
父の命令で他国へと留学に出るまでの彼と、今目の前を歩く青年では、全くの別物であると感じられた。
もうひとつ、気になることがある。
『我々』と。
そう言ったリアンを見つめたあと、ゾーラは視線を彼の後ろへと向けた。
先ほどリアンを見つけた時から、気になっていた存在たち。
「リアン様。彼らは一体・・。」
灰色のフード付きローブを羽織る人物たちが数人、リアンの後ろに付き従っていた。
フードから覗く髪や瞳の色は様々で、明らかにこの土地の者ではない。
「ああ、彼らは僕の客人だ。」
「客人?」
事も無げに言うリアンの言葉に、ゾーラは訝しげな声を返した。
「一番前がルーファス。彼は一流の魔法使いであり、深い見識を持つ賢者でもある。後ろの彼らはルーファスの助手だ。」
さらりと答えるリアンに、ゾーラは黙ったまま後ろを振り返った。
ゾーラが視線を向けると、ルーファスと呼ばれた男が顔を上げる。
ちらりと目が合った。
——— 濃紺の瞳。深い海の様でもあり、底知れぬ妖しさの滲むその色に、ゾーラは一瞬引き込まれそうになる。不思議な力のある瞳だった。
髪は瞳と同じ色がベースだが、そこに紫や深緑や白や黒・・まばらに色が混ざり合った、初めて見る髪色だ。
もともとなのか、何か魔法の影響なのか。
それすらもゾーラには分からない。
見たことも聞いたこともない風貌だ。
(・・・異国の魔法使いか?)
小さく会釈をすると、彼はゾーラから目を逸らし、視線を前を行くリアンへと戻した。
「これから役に立ってもらう予定だからな。丁重にもてなせ。」
そう言うとリアンはゾーラを残し、得体の知れぬ魔法使いたちを引き連れて父の部屋へと去って行った。
それを見送って。
(一体何があったというのだ、リアン様・・?)
リアンへの驚きと怪しげな付き人たちへの警戒心を抱えたまま、ゾーラは険しい顔をして、彼らの去った方向をじっと見つめていた。