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- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑪ ( No.164 )
- 日時: 2016/08/27 20:19
- 名前: 詩織 (ID: NOuHoaA7)
空は黒く覆われ、休むことなく走る閃光と激しい地響き。
落雷によって遠くの森が燃えている。
上がる炎と煙。
眼前に迫った天高く全てを巻き上げる風の渦に、為す術もなくただ逃げ惑い、また茫然と見上げるしかない人々。
突如現れた見たこともない災害に、手を合わせひたすらに神に祈った、その時。
彼らは見た。
彼らの主の住む城から、一筋の光が射し込み、
今まさに飲み込まれる寸前だった真っ暗な街の空を、街を包むように光の壁が覆った。
再び落雷が街を襲う。
けれど、光の壁に弾かれて、うねる様に空に消えていく。
「・・・ルーファス様だ。」
誰かが呟いた。
「きっとルーファス様の魔法だ!そうに違いない!」
「リアン様とルーファス様が私たちを助けてくださってるんだわ!」
「ああ、助かった!ルーファス様が居てくださればもう大丈夫だ!」
絶望しかかっていた人々の間に歓喜の声が沸く。
「ああ恐ろしい。これもあの神殿の魔女のしわざか?」
「何やら使っちゃいけねぇ呪いの魔法に手をだしちまったらしいぜ。魔の魅力にとりつかれてたんだと。だが魔女は昨日捕まったそうだし、今朝ついに城の兵たちが神殿に乗り込んだっていうからな。あとはリアン様とルーファス様がなんとかして下さるだろう。」
「ったく、迷惑な話だぜ!聖女だとか抜かしやがって、すっかり騙されちまった。」
「でも俺達にはルーファス様たちがいて下さる!見ろ、あの光が、俺たちとこの街を守って下さってるんだからな。」
光の外側では相変わらず荒れ狂う空が見え轟音が鳴り響いていたが、
光の防壁は、揺らぐことなく、人々を守り続けていた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「『眠りの唄』ですか。」
ルーファスが、いつも通りの声で語り掛ける。
声も、表情も。
動揺などひとつも見せない彼の真意は読めない。
大地が悲鳴を上げ、大きく揺れている。
時々轟音を響かせて、城のあちこちが崩れているようだ。
地下室。
冷たい石造りの床の上。
リーメイルは答えることをせず、ただ、唄い続けている。
すでに魔法によって魔法陣と繋がっている彼女は、まるで人形のように一定の表情のまま、淡い光の中で唄を紡いでいた。
そんな彼女を見下ろして、穏やかに、けれど淡々とルーファスは語る。
「そんなものまでご存じだったとは、貴女は本当に私を驚かせるのがお上手だ。最初から協力して頂けたなら、この魔法陣もより高みに近づけたかもしれない。」
ルーファスが背を向けている『レフ・ラーレの魔法陣』。
その周りには、黒いローブを羽織った幾人かの人間が横たわっていた。
ルーファスに従っていた、魔法使いたちだった。
魔力を制御するために自ら魔法陣と繋がり、制御しきれずに魔力を奪われ命を落とした彼ら。
なぜそこまでと普通の人間なら思うだろう。
否、彼らも普通の人間だったからこそ、魔力に魅了された己の欲求、探求心に囚われたのかもしれなかった。ルーファスに心酔し、共に堕ちた優秀な若き魔法使いたち。
今は静かに眠る彼らを憐れむ者はここにはいない。
城の人間たちは皆、大きく揺れ続ける城から外へと避難してしまっている。
大きく揺れる地下室の天井から、ぱらぱらと砂塵が落ちたが、ルーファスが顔色を変えることはない。
「私ももうすぐ眠りにつきます。この魔法陣がどこまでいけるのかどうしても見たくてね、全ての魔力を連動させるよう魔法契約をかけてしまいました。」
そんな風に言いながらも、浮かぶのは穏やかな笑み。
「後悔は、ないですけどね。」
ある意味満足そうな声で、ルーファスは答えを返さぬ彼女へと語り続けた。
その顔は、少しだけ、楽し気に見えた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「・・・リアン?」
ふいに名前を呼ばれて、リアンはピクリと肩を揺らすと後ろを振り返った。
「トーヤ?なぜ君がここにいる?」
一瞬目を見開いた後。
険しい声で問いただす。
彼の視線の先、息を荒げて立つトーヤもまた、驚きを隠せないでいた。
「お前こそ、なんでまだここに?城の奴らは全員避難したんじゃなかったのか?!」
トーヤの言葉に、冷たく目を細めて、リアンは扉へと視線を移した。
ファリスロイヤ城地下室へと続く扉。
この先に、ルーファスとリーメイルがいる。
「僕にはここに残る理由があるからだ。君こそ、命を捨てに来たのか。」
そう言うと、トーヤを見て皮肉な笑みを浮かべた。
「大方の予想はつくよ。彼女を連れ戻しにきたんだろう?だが残念だな。彼女はもう魔法陣の魔力と一体になっていて意識はすでにここにない。連れ出すのは無理だそうだ。」
「知ってるさ。」
リアンの皮肉を切り捨てるように言って、トーヤはリアンに・・扉に向けて足を踏み出す。
「あいつの覚悟は知ってる。そして俺もそれを受け入れた。」
「ではなぜ、」
「あいつの傍にいたいからだ。」
トーヤの答えに、リアンの笑みが消える。
「今までずっと隣にいたんだ。あいつを1人にはしたくない。」
トーヤは足を止めない。
「俺の魔力を全部、あいつにやるよ。あいつは望まないだろうけどな、俺の勝手な我がままだ。」
扉の前に立つリアンに近づいていく。
「あいつの守りたかったもんを守る為に、俺の魔力を全部やる。そう決めてここに来た。」
リアンとの間があと2,3メートルとなったところで、トーヤが足を止めた。
「そこをどけ、リアン。」
「断る。」
固い声でリアンが言い捨てる。
「最後の我がままくらいのめよ。さんざん好き勝手してきたくせに。」
「君はいつも我がままじゃないか。リーメイルも苦労しただろう。」
「ハッ!お前には言われたかねーな。」
剣呑に笑って、トーヤは腰の剣を抜く。
「もう一度だけ言う。そこをどけ、リアン。」
「断る、と言ったら?」
リアンの言葉に、トーヤは剣を構えた。
「俺はいくぞ、あいつのところに。お前がどうなってもな。」
低くうなるようなトーヤの声が、揺れ続ける廊下に響く。
「では、」
暗い笑いを浮かべたリアンの声。
「お相手しようか?今の僕は昔の僕とは違う。君を、彼女のところへは行かせないよ。」
遠くで、何かが崩れる音がしている。
向かい合う2人の間に、天井からの砂塵がパラパラと降り注いだ。