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- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑫ ( No.169 )
- 日時: 2016/09/14 21:23
- 名前: 詩織 (ID: 784/wjkI)
「ハッ!!」
掛け声と共に、勢いよくトーヤの剣が振り下ろされる。
ギィンっ!と剣の交わる音。
すかさず防御に構えたリアンはその重さに顔を顰めるが、それでもきっちり受け止めて、大きく薙ぎ払った。
オリーブ色の髪が激しく揺れる。
くるりと体勢を整えて再び切り込んでくるトーヤの切っ先を、寸前で交わして飛びすさる。
そのまま素早く間合いに飛び込むと、剣を振り上げた。
「ヤッ!」
2人の剣が重なり合う金属音が廊下に響く。
「なんでそこまで邪魔をするんだ?こんなとこで俺に付き合ってたら、お前自身逃げられなくなんぜ。」
「逆だろう?君が僕の邪魔をしてるんだ。」
トーヤの問いに、リアンが笑う。
「こ・・のやろっ!」
トーヤがリアンを剣ごと跳ねのけ、2人は距離をとる。
「屁理屈ばっかり言いやがって。」
「君はいつでも直球だったからね。」
息を荒く吐き出して、それでもリアンは皮肉な笑みを隠さない。
「お前の本当の目的はなんだ。」
トーヤがリアンを睨む。
「リーメイルは、最後までお前のことを心配してた。お前の気持ちを分かってやれなかったって、ずっと苦しんでたんだ。」
「彼女らしいよ。人が良すぎて・・・結局こうなる。」
「黙れリアン!!」
トーヤが叫んだ。
「お前にあいつの気持ちが分かってたまるかよ!」
「じゃあ逆も然りだ!!僕の気持ちが彼女に、ましてや君なんかに分かるものか!」
トーヤの言葉に重ねるように、リアンが荒々しく怒鳴る。
ここに来て初めて感情を露わにしたリアンに、トーヤは一瞬口をつぐんだ。
「ファリス一族は初代からずっと女神エルスを信仰してきた?それがどうした?!そんなもの僕には関係ない!そんなものに縛られるから父上も・・母上だってっ・・。」
その叫びの声は、怒りというよりむしろ悲痛の色が濃いように、トーヤには聞こえた。
今まで見てきたどのリアンとも違う。
むき出しの感情。叫び。
「人ひとり救えもしない女神を盲目的に崇める君たち神殿も、どこもかしこもエルスエルスと煩わしいこの土地も、僕は大嫌いだっ!!」
吐き捨てるように言ったあと、リアンは黙ってトーヤを睨み付けていた視線を下げた。
2人の間に、荒い呼吸の音だけが残る。
「リアン。」
トーヤは彼の名を呼んだ。
「お前やっぱり・・・、女神エルスが憎かったのか・・?」
呟くように問いかけたトーヤに、顔を上げたリアンは答えようと口を開きかけ・・・
「うっ・・・?!」
リアンの右手を離れた剣が、硬い音を立て床にぶつかる。
両手で胸の辺りをわしづかむようにしながら、突然、リアンがもがいた。
苦し気に眉根を寄せ、喘ぐ様に呼吸をしながらリアンは膝から床へと崩れ落ちる。
「?!おい、リアン?!」
余りに突然のことに、トーヤは剣を掴んだまま彼に駆け寄る。
リアンの上半身を腕で抱え上げ、苦し気な呼吸を繰り返す彼の名を呼ぶ。
「どうしたってんだ!!」
何度目かの呼びかけに、微かに、リアンの唇が震えた。
「・・・煩いな、聞こえてる。」
うっすらと目を開けて、ハアハアと浅い呼吸を繰り返すその口元から、乾いた声が漏れた。
返事が返ってきたことにひとまずほっとするトーヤだったが、リアンの体に触れた時に感じた違和感の正体に気づいて顔を強張らせる。
「・・・リアン、まさかお前まで・・・。」
「そうさ。良く分かったな。」
トーヤの固い声に、リアンは小さく笑う。
「バカ野郎!!っ!!なんでそんな真似・・」
トーヤは怒りで頭が真っ白になる。
けれど目の前に横たわる瀕死の幼馴染にその怒りをぶつけることもできず、拳を強く、強く握りしめた。
「僕はルーファスに・・、この計画に全てを懸けていた。文字通りの意味でね。僕に魔法は使えないが、少しは魔力を持っていたらしい。それをつぎ込んでいただけさ。どうせ・・」
自嘲のような笑みを浮かべて言った。
「目的が達せられないこの土地に、未練はない。残っても、ここに僕の居場所はないんだよ。」