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- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑬ ( No.170 )
- 日時: 2016/10/13 10:03
- 名前: 詩織 (ID: 6kBwDVDs)
「リアンっ?!おい!・・・くっそ、このばっかやろぉ・・・。」
トーヤに支えられながら二言三言言葉を残し、それを最期にリアンはその薄いオリーブグリーンの双眸を閉ざした。
それは、いともあっけなく。
「こんなん・・・、お前、ホントにずりぃよな。」
動かなくなったリアンの肩を支える手に、ぎゅっと強く力を込め、トーヤはその顔を見つめる。
最後まで、分からなかった。分かってやれなかった、彼の想い。
(お前も、苦しんでたのか?)
許せるわけじゃない。
たくさんの罪のない者たちが苦しんで、居場所を失った。
自分も今まさに、誰よりも大切な者を失おうとしている。
それでも。
リアンを憎み切ることができなくて、トーヤは苦し気に唇を噛みしめる。
しばらく頭を垂れて目を閉じた後、ひとつ大きく呼吸をして、すっと立ち上がった。
「俺はいくぞ。・・・じゃあな、リアン。」
そっと横たえたリアンに呟いて、くるりと前を向き、トーヤは駆けだした。
もう、振り返ることはなかった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「・・・リーメイル?」
そっと、呼びかける。
闇に包まれた地下室。
巨大な魔法陣は今や完全に暴走の有様だったが、その荒れ狂う魔力のエネルギーは、魔法陣をドーム状に包む白い光の結界に阻まれ押さえ込まれていた。
制御不能となった魔法陣の魔力は、光に抵抗するかのように暴れまわり、結界の中はまるでひどい嵐のように闇と鋭い色彩の閃光が激しくぶつかり合っている。
それでも、白い光を放つ結界は一切の放出を許さず、むしろ次第にその大きさを少しずつ縮め暴走する黒い魔力を追い込んでいく。
魔法陣の周りには、幾人かの横たわる影も見えたが、トーヤはそれらに視線は向けず、ただ一点を見つめていた。
リーメイル。
結界と同じ、白く清らかな光に包まれて歌い続ける1人の巫女。
その瞳は半分まで閉じられ、意識はすでにここにない。
置かれた美しい人形のように、彼女は動かない。
その形のいい口元だけが微かに動いて、そこから歌が紡がれている。
『眠りの唄』。
暗闇の中で、その歌声だけはひどく神聖に響き、こんな状況であるのに、トーヤはある種敬虔な気持ちさえ感じながら彼女を見つめた。
「手伝いにきたぜ、リーメイル。」
彼女の前に座り込んで。
静かに語り掛けた。
「さすがだよなぁ、お前。こんなとこまで1人でやったんだろ。神殿の皆も、お前を誇りに思うよ。」
彼女は答えない。
トーヤを見ることもない。
けれど構わず、トーヤは続ける。
「安心しろ。俺たちの仲間は皆無事だ。追手はうまく撒いて、今は皆隠れ家いる。お前のおかげだよ。城の奴らも、なんとか避難してるらしい。街を守ってる結界も、お前だろう?」
小さく苦笑が漏れた。
「ったく。1人でそんなに頑張んなよな。お前のことだから、全部、守りたいんだろうけどさ。」
でも、もう俺が来たから。
「いいんだ、1人で頑張らなくても。」
低く、柔らかな声音。
きょとんと眼を大きく見開いて、ほんのりと赤くした顔で、くすぐったそうに笑う彼女の顔が浮かび、そして消えた。
目の前の彼女は、微動だにせず歌い続ける。
今の彼女の世界に、トーヤは映らない。
けれど合わない視線など気にしない様子で、トーヤはリーメイルに話し続けた。
「お前が巫女長になった後、俺も親父に頼んであの部屋に入れてもらったんだ。正式な引き継ぎはまだだったけどな、俺も、古代魔法をどうしても学びたかった。無理やり、あの部屋に入る許可をもぎとった。苦労したんだぜ、説得するの。親父、そういう決まり事にはうるさいからな。知らなかったろ?秘密の特訓だったからな、今バラしちまったけど。」
言いながら、茶色の革袋を取り出す。
中から出てきたのは、手のひらに乗る大きさの幾つかの石。
透明な水晶、淡い桃色の桃花石、白黄色の月光石。
晴れた日の空のような水色や、他にも澄んだ紫や深い緑。
「必死で勉強したさ。強くなりたかったからな、お前より。」
ひとつひとつ丁寧に、自分の周りに並べてゆく。
「早く、強くなりたかった。・・・護れるように、なりたかった。」
代々受け継がれてきた神殿の長の力。
ファリス一族分家の血脈 ーーーー古代魔法を使う力は、トーヤの中にも宿っていた。
「まだ全然、親父にはかなわないけど。それでも、いつか並んで立ちたかったんだ。お前の隣に。」
準備を終えて、苦笑いのようなため息をつき、トーヤは再びリーメイルに視線を合わせる。
「遅くなって、悪かった。護れなくてごめんな。・・・けど。」
胸の前、自分とリーメイルとの間の空間に、右薬指でそっと魔法印を描く。
「お前を1人にはしないよ。ずっと、お前の隣にいるから。」