コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑭ ( No.171 )
日時: 2016/09/24 19:44
名前: 詩織 (ID: PSM/zF.z)


---------  まるで、大きな白い龍のようだった。


後に人々はそう語る。

重く真っ暗な空に向かって駆け上がる、真白な輝きを放つ巨大な聖なる龍の姿。

荒れ狂う嵐に向かい、真っ直ぐに立ち上る清浄な光。

闇を払い除けるような力強い光は、まさに伝説に謳われる女神の使い、聖なる龍そのものだった、と -----。



「・・・城が ・・・」

ゾーラは共に避難していた役人たちと共に、茫然と空を見上げた。

ファリスロイヤ城から放たれる光は一直線に天を射し、その光に触れた空の闇はまるで浄化されるかのように次第に消え去ってゆく。

地鳴りと共に、堅固に積み上げられた石がガラガラと崩れていく音が響いた。
長年の栄華を誇った権威の象徴ファリスロイヤ城は、今やその半分ほどが崩壊し、離れた場所から見守る彼らの前でその姿を変えつつある。

崩れ落ちてゆく城を見ながら、ゾーラは糸の切れた操り人形のように、力なく地面に膝をついた。


ーーーーー それから数えて3日間。


街の空を覆う光の結界は、人々を守り続けた。

大地の揺れはゆっくりと収まってゆき、

暗く覆われた空がすべて美しい色彩を取り戻す頃。


空に架かった虹がうっすらと消えてゆくように、そっと、風に溶けて消えていった。






〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


魔法が解ける。

映し出された世界を覆う光が消えると同時に、目の前にあった世界そのものが消えた。

過去の世界。

トーヤたちの、物語。


「これがあの日俺たちと、あの城に起こった出来事だ。」
トーヤの声が、静かに物語の終わりを告げた。

「・・・・・・・・。」
ラヴィンは俯いたまま、顔が上げられない。
固く結んでる唇を緩めれば、思わず涙と声が零れてしまいそうだったから。

トーヤの魔法で見た世界は、まるで自分がそこにいるかと錯覚するほどリアルなもので。
リーメイルの屈託のない笑顔は、まるで自分の旧知の友人のもののような気にさえなった。

(トーヤが泣いてないのに、そんなの、なんか違う。)
そう思って、なんとか留まる。
胸が痛かったから、
ラヴィンは両手にきゅ、と力を込めた。

マリーもそう思っているのか、小さくしゃくりあげながらも必死で泣き声を我慢してる様子だ。
それでも、その大きな双眸からはぽろぽろと涙が溢れ、小さな両手で一生懸命に拭っていた。
その背中を、ジェンは優しい手つきで撫でてやる。

「この後、ファリスロイヤ城は・・あの街はどうなったんだい?」

シルファはトーヤに向き直り、落ち着いた声でそう尋ねた。

「しばらく混乱しただろうけど、そのうち事情が国に届いて役人たちが派遣されたらしい。なにしろ政治の中心である城があの有様な上、城主だったリアンもいなくなったからな。街の連中は無事だったと思うが急な事態だ、リーメイルの結界が発動するまでに街の建物や森のあちこちがだいぶやられてたはずだ。復興には人でも物資も足りなかったんだろう。」

「その、『だろう』っていうのは?そう・・、君はあの後・・」
「『だろう』ってのは、俺は実際その場を見たわけじゃないからだ。」
淡々と、トーヤは語った。

死を覚悟して臨んだ古代魔法。

術式は、リーメイルに自分の魔力を分け与える目的のものだった。
事態が急だった上、魔法陣に魔力を吸い取られ続け弱っていた彼女が、無事魔法を完成させられるように、そして彼女が去った後も、街の結界が暫く持続するように。
その為にトーヤは、自分の全てをリーメイルに捧げる魔法をかけた。

それは予想通り、彼の生きる時間全てを代償とし、彼の命はそこで終わった。

・・・はずだった。

「次に目が覚めたとき俺はこの姿で、この場所にいたんだ。最初はワケが分からなかったよ。死ぬはずだった。いや、実際死んでるんだ、あの事件の時に。」

トーヤは自らの両手を開いたり閉じたりしてみせた。
生身の人間とは確かに違う、その身体。

「それが、その、最初に言ってた『魔法の反作用』ってこと?」
シルファの質問にトーヤは頷いた。
魔法関係の話は、シルファに任せるのがいいだろう。
そう判断したジェンは、マリーとラヴィンの肩にそっと支えながら、彼らの話の聞き役に回る。

「俺の使った古代魔法は、本来ああいう使い方をするものじゃなかったんだ。単発で威力を発揮する術式。それを俺が自己流で半ばムリヤリああして、リーメイルの魔法に連携させた。」
シルファが目をまるくする。
「自己流?あの追い詰められた状況で、新しい術式を?!すごいね。」
「それしか方法がなかっただけだ。まさに、追い詰められてたからな。」
トーヤは肩をすくめた。

「その影響かどうか分からないが、ただ死ぬんじゃなくて、こうして思念体のような形で意識が残ってしまった。ここにいたのは・・なじんだ魔力が濃い場所だったからかな。想像だけどさ。

気が付いてすぐ、俺は街の様子を見に行った。今じゃこの通り、年月とともに力も弱まってここから出ることは出来ないが、初めの頃は結構自由だったんだぜ。もともと思念体だから、意識を集中させてイメージすれば、一瞬で移動もできた。」

街に行ったトーヤが目にしたもの。
それは、自分の知っているあの街とは全く別物のようになった、彼の故郷だった。

「俺はずいぶん長いこと眠っていたようだ。俺の計算だと・・、だいたい100年くらい。」
「ひゃくねん?!」

シルファがすっとんきょうな声を上げた。
驚きすぎて、けほけほとむせている。
ラヴィンもマリーもジェンも、揃ってぽかんとした表情でトーヤを見た。

全員から見開いた目で見られ、トーヤはがしがしと頭をかくそぶりをしながらため息をついた。

「だよな、その反応。俺だって信じられなかったさ。そもそも自分のこの状態だってなんだかわけわかんねぇのに。」
驚きの視線を4人分注がれ、居心地が悪そうに、トーヤは身じろぎした。
そして、続きを話し出す。