コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑮ ( No.172 )
日時: 2016/09/26 11:17
名前: 詩織 (ID: m3TMUfpp)


トーヤが古代魔法を使った日。
彼の記憶が途絶えてから目覚めるまで、この世界の時間にしておよそ100年。
その後も含めたら、ラヴィンにとっては気が遠くなるような年月だった。

でもよく考えてみれば。
(そりゃそうよね、私たちにとってのファリスロイヤ城は伝説の残る古代遺跡。トーヤと私たちの間には、何百年もの時の流れがある。)
思念体だからな、あまり時間の感覚がないんだ。
トーヤはそんな風に苦く笑った。


目覚めた後の彼の話をまとめると、だいたいこんな具合だった。

あの後街は大いに混乱し、最終的に国の指導のもと派遣された役人たちによって復興の舵がとられた。そしてファリス一族の納めていた領地は全て、直轄地として国の管理下に置かれることとなった。

事情を聴かれた人々の答え、それは事件の衝撃や恐怖体験、様々な噂や憶測なども入り混じり、役人たちにとってなんとも理解しがたい部分があったようだが、
結局のところ、
『この土地で悪事をたくらんだ魔女とそれに誑かされたファリス分家の跡取りが、邪悪な魔術による反乱を企てた。』
『神殿の信者たちは魔女の魔法で女神エルスを呪う邪教徒として魔女に付き従ったが、女神エルスの加護と城にいた魔法使いルーファスの力によって災厄は祓われ、人々の命は守られた。』
ということで報告書が出された。

人々は魔女が死に災いが去ったことを大いに喜んだ。

神殿は解体され、あとには枯れ野だけが残る。

豊かだった土地は生気を失い、栄えていた街は衰退、仕事を求めた人々は次第にこの土地から流れて行き・・・

トーヤが目にしたのは、見る影もなく小さくなった町と、それでも息を吹き返しつつあった緑の森の姿であった。


「神殿の皆は?」
ラヴィンが尋ねる。
「しばらくここで暮らしてたみたいだ。それから、ここをでて西の土地へ向かった。」
「西?」
「ああ。ルーファスのかけた記憶操作は完全には解けていなかったし、街は混乱状態だ。誤解を解きまた同じように暮らすには、溝が深くなりすぎてた。親父は交流があった遠方の神殿に連絡をとって、そこで受け入れて貰えるよう頼んだらしい。この地で暮らすことは諦めて、皆で西の神殿へ旅立つと・・・、俺宛の書置きが残されてた。もし生きてこれを読んだなら、そこで待っていると。」
「・・・・・・・・。」

言葉を失うラヴィンに、トーヤは敢えて気にしていない風にさらりと話題を切り替えた。

「それで、だ。ここからが核心になる。聞いてもらえるか?」

トーヤの話の核心。
トーヤの『願い』。

------  『頼む。俺に、力を貸して欲しい。』 ------


トーヤの声に滲む真摯な響き、栗色の瞳に宿るすがるような色に、シルファは深く頷いた。


「最近になって、ファリスロイヤ城に近づく奴らがいる。」

トーヤが言った。

「リーメイルが封印した『あの』魔法の力に、気づいた奴がいるんだ。」