コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑯ ( No.173 )
- 日時: 2016/09/27 18:48
- 名前: 詩織 (ID: m3TMUfpp)
長い、長い時間を経て、彼を縛る魔力も薄れつつあった。このまま静かに・・・この地に眠るんだと、トーヤは思っていた。
なのに。
「最近、頻繁にあの城に出入りしている奴らがいる。」
「ああ。それは」
ラヴィンが気づいたように説明する。
「今の時代ではあの城は古い遺跡になっててね、歴史の研究者たちがよく調査に」
「違う。」
けれどトーヤはきっぱりと言って首を横に振る。
「違うんだ。一般人じゃない、魔法使いだ。」
「・・・え?」
「俺はここから出られないが、俺の魔力はあの魔法で封印された魔法陣の魔力と一体化されてる。だから分かるんだ。誰か、封印された魔力に気づいて、干渉しようとしてる奴らがいる。1人じゃない、複数だ。それも、それなりに力のある魔法使い。」
「学者たちの警護についてる魔法使いたちでは」
「それも違う。」
ジェンの言葉にも、トーヤは首を横に振った。
「そいつらは、今は封印されている魔力に手をだそうとしている。現にあんたたちのくる暫く前、城で魔法を使った奴がいた。護る為じゃない、封印への攻撃魔法だ。その波動は俺にも伝わる、見ることは出来ないけどな。」
4人は顔を見合わせる。
「ねぇ、聞いてもいい?」
ラヴィンがぴょこんと手を挙げた。
「あなたは最初に言ったよね?この魔法の呪縛から、リーメイルさんを解放することが願いだって。」
「ああ。」
「じゃあ・・、リーメイルさんももしかしてあなたみたいに・・?」
「『眠りの唄』はもともと封印魔法だ。対象を消し去るわけじゃない。リーメイルの魔力・・魂は、魔法陣の膨大な魔力と共に、この大地に眠ってる。時間をかけ、いずれは自然の中の大いなる流れに還っていくはず・・それが俺たちの狙いだった。そしてそれが叶った時、」
憂いを帯びた声で、トーヤが呟くように言う。
「あいつは、この役目から解放されるんだ。」
このままいけば遠くない将来、時の流れと共に薄れ、消えていくはずの魔力の溜まり。
なのにどこから嗅ぎ付けたのか、今になってその力に目をつけた者がいる。
「目的は知らない。どこまで何を知っているのかも分からないが、『眠りの唄』は高度な古代魔法だ。もし奴らが無理やり封印を破壊する方法で力を得ようとしているなら、反動で想像以上の被害がでるだろう。それに・・・もし封印を上手く解除して魔力を手に入れたとしたら・・・。」
リーメイルの魔力も、その何者かの手に囚われてしまう。
トーヤの願い。
それは、動けない自分に代わって、ファリスロイヤへの侵入者の意図と正体を探って欲しいということ。
そしてもしその目的が予想通りであったなら、その者たちを止めてもらえないかということだった。
4人は相談をして、今後の方針を決めた。
ここまでの経緯の中で、4人とも気持ちはトーヤの側にあった。
できることは協力したい。
丁度良いことに、ここには魔法の専門家、しかも魔法使いの中でも血統は折り紙つきの彼がいる。
もともとシルファは父ユサファの指示によりこの地に魔法文字及び古代魔法の調査に来ていたのだし、家に帰って事情を話せば協力を得られるかもしれないと言った。
その過程で貴重な古代魔法について知識を得られるなら、それはライドネル家にとっても悪い話ではないはずだからと。
「よし、じゃあそういうことで俺たちは一旦ギリアに帰ろう。」
年長者のジェンが、荷物を背負い直しながら言った。
「まずはシルファにライドネル家への協力を頼んで、その結果次第で俺たちも動けばいい。」
「帰ったらすぐ父上に報告するよ。」
ジェンの言葉にうなずきながら、シルファも言って荷物を手に取った。
4人はトーヤに案内され、来た時と同じように魔法の力で入り口まで送られた。
「何か分かったら、またここにくるから。」
「ああ・・・、頼む。」
トーヤは4人の顔を順番に見て、頭を下げた。
「すまない。無関係なあんたたちを巻き込んで。でも、俺にはこれしか・・」
「大丈夫。」
可愛らしい、それでいて力強い声。
トーヤが視線を上げると、マリーがその大きな瞳でしっかりと彼を見ていた。
「シルファはね、すごい魔法使いなんだよ。それからシルファのおうちは、すごく有名な魔法使いの名門なの。優秀な魔法使いがたくさんいるわ。きっと、なんとかしてくれる。」
よどみなく言い切るマリーの信頼に、シルファは照れくさくもあったけれどそれ以上に嬉しくて、目を逸らさずに彼らのやりとりを見つめていた。
「それじゃ。またな。」
ジェンが片手を上げたのを合図に、それぞれ帰り道を歩き出す。
トーヤは期待と不安の入り混じったような表情で、彼らが見えなくなるまで、そこに立ち続けていた。