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第15章  因果は巡る風車  〜記憶〜 ( No.177 )
日時: 2016/10/12 23:01
名前: 詩織 (ID: qyjkJIJL)

第15章  因果は巡る風車  〜記憶〜


皺だらけの分厚くて大きな手が、幼い兄弟の頭を優しく撫でた。

修練の時間は人一倍厳しい祖父は、けれどそれ以外の時間は驚くほど気さくであたたかな人物であり、孫たちはそんな祖父をとても慕っていた。

「ねぇ、おじい様。今日も昔話を聞かせてよ。」
せがむ兄がゆったりと椅子に腰かける祖父の服の裾を引っ張ると、兄に比べて大人しい弟も、真似をして反対側の裾をくいくいと引く。
「はっはっはっ。いいとも。今日の修練は2人ともよく頑張っていたからな。」
快活に笑った老人は、ふと何かを思いついたように部屋の壁に目を向ける。
壁の上部に並べられているのは、代々の当主たちの肖像画。

「今日は特別な話を教えてやろう。」
「とくべつなはなし?」
兄が小さく首を傾げて祖父を見上げる。
「そうだ。ほら、あれを見なさい。」
祖父の視線を追って、兄弟は飾られている肖像画に視線を向けた。
「お前たちのご先祖様方。このライドネル家を支えてこられた方々だ。皆素晴らしい力と知識を持っておられた。」
「うん。知ってるよ。お父様からもいつも言われてる。『ライドネル家のなにはじぬいきかたをしなさい』って。」
大きな瞳で祖父を見つめて、そう言う兄の口ぶりは子供ながらに真剣そのものだ。
弟も黙って頷いている。

祖父は嬉しそうに微笑むと、兄弟の頭をぐりぐりと撫でた。
「その通りだ。お前たちには、この方々と同じ血が流れている。その意思を受け継ぎ、立派にこの家を守っていくのが使命だからな。」
「しめい・・。」
その言葉に、幼子たちは胸の高鳴りを覚える。
自分たちの、使命。

「今日の話は、我がライドネル家に受け継がれる、ひとつの使命の話だが・・。これは当主の血を引く選ばれた者だけに伝えられる、秘密の使命だ。」
「ひみつの?」
大きく頷いて、祖父は問う。
「お前たち、秘密は守れるか?」
兄弟は顔を見合わせ、それから祖父を見上げると、同時に声を上げた。
「「はいっ!」」
威勢のいい声に祖父は小さく笑うと、2人をその両膝の上に抱え上げた。

「いい子だ。じゃあ話してやるから、しっかり聞くんだ。いいかい、ユサファ、ロン。」
力強く2人の体を抱きしめると、祖父は語り始めた。


・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


控えめなノックの音に、ユサファは我に返った。
いつの間にか物思いにふけっていたらしい。

「父上。いらっしゃいますか、シルファです。」
扉の外から聞こえる声に、軽く咳払いをしてから短く返事を返す。
「入れ。」

失礼しますと言いながら、久しぶりに帰宅したシルファが顔をのぞかせる。

「ただいま帰りました。ご報告したいんですけど、今お時間大丈夫ですか?」
「私は構わないが、お前は帰ったばかりだろう。報告なら休んでからでいい。」
服だけは着替えてきたようだが、顔にはまだ旅の疲れが滲んでいるようにユサファには見えた。
「あ、いえ、僕は大丈夫です。」
けれど思ったよりも元気そうな声で言い、シルファは部屋に入ってくる。

「なるべく早くご報告したい事があって。」
シルファの言葉にユサファは片眉をあげて息子を見る。
仕事用の椅子から立ち上がると、部屋の奥のソファに息子を促し、向かい合わせで座った。
シルファは2人の間のテーブルに持ってきた資料を広げると、父親の顔を見て言った。
「今回の旅の報告と、・・・実は、父上に相談があるんです。この、魔法文字を使った魔法の件について。」
今回の調査で分かった事実と、自分の体験したことについて、シルファは全てをユサファに語った。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

「あ〜〜〜〜!!つっかれたぁ!」

ぼふっと音を立てて、ラヴィンはベットに飛び込んで大きく伸びをする。
「ふわぁ〜。やーっぱ我が家はいいよねっ。」
「我が家じゃないだろー。ほら、ちゃんと荷物どけて。先に風呂入らないとベットが埃っぽくなるぞ。」
「ラヴィン!私のベット壊さないでよね。」
「うーん、分かってるよぅー。」
枕に顔を埋めているラヴィンはくぐもった声で返事をした。

いろんなことがありすぎるほどあった旅だったけれど、なにはともあれ無事こうして帰ってこれた。
とりあえずはまずは休息したいと体が叫んでいるから素直に従う。

そこへ、入り口の方から声が聞こえた。
「お疲れさま。ケガもなく無事の帰宅で何よりですよ。」
「アレンっ!!ただいまぁ!」
顔を上げたラヴィンが嬉しそうに叫ぶと、声の主であるアレンがくすくすと笑う声がする。
「元気そうですね、ラヴィン。向こうにお茶の準備をしてますから、着替えと片付けがひと段落したら社長の家の方へ来てください。甘いお菓子もありますよ。」
「わぁーい!ありがとう!さっすがアレン〜。」
甘いものと聞いて、ラヴィンの瞳が輝いた。
「ほら、さっさと着替えろ。せっかくのお茶が冷めてもいいのか。」
研究室で荷物の整理をしながらジェンが笑う。

飛び起きたラヴィンはマリーと一緒に着替えをすませると、まだ片付け中だったジェンの腕を引っ張って、ジェイドの自宅へと向かった。