コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第15章  因果は巡る風車  〜風の集う場所〜 ( No.188 )
日時: 2016/12/23 19:53
名前: 詩織 (ID: 4pBYKdI8)

 〜風の集う場所〜



「それで、ねぇ、どうなったの?おじいさま。」
「おとうとは、しんでしまったの?お兄さまのところへは、帰られなかったの?」

交互に服を引っ張って続きをせがむ孫たちに、祖父は困ったように笑った。

「ああ、こらこら。落ち着きなさい。今話すから。ええと・・、そうだな、兄の制止を振り切って魔力と知識を求め旅立った弟の命は、残念ながら尽きてしまった。遠い、遠い土地でな」
ふたりの顔が落胆と悲しみの色で染まる。
「かわいそう」
「うん。かわいそうだ。もう、ふたりはにどとあえないんだね」
「そうだな。悲しいことだ。だがな、安心おし。ただ悲しいだけじゃなかったんだ。弟はこの世界を去る寸前、最後の力を絞って魔法を放った。」
「まほう?」
「そうだよ。それは強い絆で結ばれた者同士でしか使えない。己の最期の言葉を込めて、弟は「魔法の手紙」を兄に遺したのだ」
「おてがみ・・」
目を瞬かせる子供らに、祖父は優しく目を細めて言った。
「兄はそれを読んで泣きながら、必死に弟を探した。」
「なんたかいてあったの?」
「おとうとは、みつかったの?」
「そこにあったのは感謝と別れの言葉、そして自分の魔力は偉大なる師の叡智と共に眠りにつくということ。それだけだった。受け取った兄は嘆き悲しみながらも必死で弟の最期の地を探した。それこそ、西の荒れ野から東の海まで、北も南も、何年もかけて。けれど、結局は見つからずじまいだ。弟の魔力を手掛かりにしようとしたが、どうやら他の力と混じりあって封印されたらしく、どうやっても場所が特定できなかった」

悲し気に視線を落とす兄弟に、祖父は「だが」と続けた。
「兄は諦めなかった。一族の仲間と共に各地を調査しながら、本職である魔法の修行、研究にも心血を注いだ。もし自分がこの世を去る時がきても、この一族が続く限り、いつか必ず弟の魔力を、魂を探し出してみせると誓ってな。その想いは代々の長を中心に、時を超え、今なおこのライドネル家の使命として引き継がれている」

なあユサファ、ロン。
祖父は2人の目を交互にじっと見つめて言った。
「この使命を果たすことは、私の夢だ。一生をかけて取り組む、一族の悲願。何百年もの歴史の中で、多くの先達が祈り続けてきた願い-----。もし、私の生きてるうちに果たすことが叶わなかったときは・・・」

どうか。

全てを懸けた、自分と、この家に連なる人々皆の願いを。

「必ずや果たしてくれ、お前たちの手で」


「うん!ぼくさがすよ!かならずしめいをはたす!」
「ぼくも!ぼくもあにうえといっしょにがんばるから!みててね、おじいさま!」

弾かれたように叫んだ2人を見て、祖父が微笑んだ。
本当に嬉しそうな微笑み。
初めて見るその笑顔に、ユサファとロンはは何故だかわからない高揚感と、自分たちに向けられた期待と信頼をいっぺんに感じて身震いする。

その日。
幼い兄弟の心に住み着いた「願い」の種は、少しずつ少しずつ、深く大きく根を伸ばし、やがて本人たちも気づかぬうちに、心の中心を占めていった。

3人はその部屋に入るたび、並ぶ肖像画を見上げ思いを馳せた。
連綿と受け継がれる「想い」は今、ユサファとロンにも受け継がれ、それはいつしか彼ら自身の「悲願」となっていたのだった。



**



「シルファ、この術式はこのまま使えばいいのか?追加の呪文があったら先に言っといてくれよ」
「あ、はい。えっと・・、これはこのままで大丈夫・・です」
「その間はなんだよ」
ルージに小突かれ慌てて手元の資料を再確認したシルファは、うんと頷き
「はい。大丈夫です」
と言い直した。それを聞いたルージは、部屋の奥に設置されつつある魔法陣へと戻ってく。シルファは固く唇を結んだ。
(本当に、上手くいくんだろうか)
父上。
心の中で語り掛ける父の背中は、部屋の最奥にある。3人の兄たちとともにこの巨大な魔法陣作成における最期の仕上げにかかっているその姿を、シルファは一抹の不安を感じながら眺めていた。
こんな感情を父に向けるのは初めてで、シルファはひどく心が揺れていた。

ファリスロイヤ城内部。
あの、トーヤが見せてくれた物語の在った場所に今自分が立っているなんて、実感がなさすぎてなんだか足元が覚束ない。
この計画を父に命じられてからすべてが目まぐるしくて、流されるようにここまで来てしまったけれど。
(父上が大丈夫だと言ったんだ。大丈夫なはず。兄上たちも皆いるんだし)
言い聞かせる心の声もうわずっているような感じがして、いつもなら効くそのセリフにもあまり効果は見られなかった。

「シルファ」

呼ばれて顔を上げると、父を中心に兄たちが揃ってこちらを見ている。
リュイ、ルージ、レイ。強くて有能な、シルファの尊敬する兄たち。
(なのに、なんがこんなに不安なんだろう?)
3番目の兄・レイに手招きされ、シルファは彼らの元へと駆けて行った。