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第15章  因果は巡る風車  〜風の集う場所〜③ ( No.191 )
日時: 2017/01/05 22:05
名前: 詩織 (ID: 7JU8JzHD)

「マリーっ!!どうしてここに?!」
思わず駆け寄ろうとするシルファの腕を、リュイが掴んだ。
「持ち場を離れるな。バランスが崩れる」
「っ?!でも、兄上・・」
シルファが非難めいた声を上げるが、リュイは腕を掴む力を緩めない。その表情は冷たく、兄が何を考えているのかシルファには読み取れなかった。
「いい。放してやれリュイ。ロン、頼む」
ユサファの言葉に、ロンが黙ったままシルファの持ち場に立った。
リュイの手が離れると同時に、シルファはマリーの元へ走る。
何が起こっているのか分からないまま。

「シルファ!」
マリーのほうも男の手を払いのけてシルファに駆け寄った。広げられた彼の腕に飛び込んで、強く抱きつく。
「大丈夫?!マリー。君、どうして・・」
縋りつくマリーを抱きしめながら、戸惑いを隠せないままシルファが尋ねる。
だが、答えたのはマリーではなく。
「おやおや、シルファ殿は何もご存じないと?今回の魔法に必要な最後の『装置』なのではないのですかな。その・・お嬢さんは」
「装・・置・・?」
シルファはきつくクロドを睨み付けた。
見下すような笑いを張り付かせたままのクロドが何か言おうとした。
だが、それを遮るようにユサファが口を開いた。
「シルファ。あの魔法陣の術式を見て、お前は何を考えた」
「何をって・・、父上、これは一体」
「いいから答えるんだ」
有無を言わさぬユサファの言葉。
シルファはマリーをしっかりと抱きしめたまま、真意を探るように父の眼を見た。
父の瞳もじっとこちらを見ている。
「・・・あの魔法陣は、確かに素晴らしいものです。秘術とも言えるような知識と技術、そしてそれを使えるだけの実力ある魔法使い集団。うちだからこそ使える魔法だと思います・・が、」
慎重に言葉を紡ぐ。
「それでも、これは危険すぎる行為だと僕は思ってます。父上や兄上たちの力を疑うわけじゃありません。でも・・これは・・伝説と言われる古代魔法に対して、まだ足りないのではないかと、僕は心配で・・・。」
そこまで言った時、シルファの声がふいに途切れた。
ふと、ある考えが浮かんだからだ。

(そんなわけない。あるわけない・・絶対に。)
(でも。)
必要な最後の『装置』って------。

身体を強張らせたままユサファを見るが、こちらを見つめる父の双眸はゆるぎない。
その瞳を見た瞬間、それが答えだとシルファは悟った。
「父上・・まさか・・」
震えそうになるのを堪えて、シルファは腕の中の小さな少女を強く、強く抱きしめた。

『装置』。
魔法陣に注ぎ込む、最後の魔力は。

「マリーの古代幻獣の魔力を・・・!!父上!!そうなんですねっ?!」
頭が真っ白になった。
吠えるように叫ぶシルファに、しかしユサファは眉1つ動かさない。まるで、彼のその反応を予測していたように。
クロドが口を挟む。
「まあまあ。許してあげてくださいよシルファ殿。父上も好んでこのような手段をとったわけではありませんよ。ま、提案したのは私なんですけどねぇ」
何が可笑しいのかニヤニヤと笑っている。
「なに、そのお嬢さんには手荒なことはしてませんから。万一ケガでもさせて魔法が使えないなんて言われたら大変ですからね。真摯に対応させて頂きましたよ」
「嘘つき!突然薬をかがせて眠らせたくせに何が真摯な対応よ、この誘拐犯!どうするのよ、きっとみんな心配してるじゃない」
腕の中から叫ぶマリーに、シルファはハッとしたように彼女を見る。
「そうなの?!マリー、大丈夫?何かケガとか」
「大丈夫。閉じ込められてここまで連れてこられただけで、乱暴なことはされてないわ。ここで何が起こっているのかも・・さっき、この部屋に来る前に聞かされた・・」
後半、言いよどむように視線を逸らすマリーに、シルファは唇を噛む。

「・・・どうして」
低く、掠れた声が出た。
「マリーに助力を頼むなら!どうして僕に言ってくれなかったんですか?!こんな酷いことしなくたって、僕が直接同行を頼めば・・」
「言ったらお前は反対しただろう。魔法の基礎さえまだ学んでいないその娘に、こんな規模の魔法のしかも中核を担うなど危険すぎると」
「それが分かっててなぜ!」
「これしか方法がないからだ。我らが果たすは第一の使命。当主である私の判断だ」
「っ!でも!」
「お前に言わなかった理由はもうひとつある。例えばお前からその娘に協力を要請したとして、それは必ずまわりの人間にも伝わることとなるだろう。これはライドネル家の極秘任務だ。分かるな、シルファ」
「・・記憶操作、ですか」
シルファの声が、一段と低く響く。強く握りしめた彼の拳が微かに震えていることに、マリーは気づいた。
ユサファは表情を変えない。
「誘拐まがいに連れてきて、強制的に魔力を使わせ、そして最後は記憶を操作して街に戻す、と?」
「そうだ」
「っ!」
シルファが怒りを感じた瞬間、身にまとうローブがブワリと大きく揺らぎ、足元から風が吹き抜けた。
「やめろ、シルファ!」
兄、リュイが声を荒げる。
「この空間はもう普通じゃないんだ!感情に飲まれて魔力を暴走させるな」
「兄上!」
シルファの鋭い声に、リュイが一瞬たじろいだ。
「兄上は、兄上たちは・・、知ってたんですね」
突然連れてこられた少女を前に、動揺し取り乱したのは自分だけだった。
皆、知っていたのか。この魔法最後の切り札は、古代魔法の魔力に一番近しい力を持つ、古代幻獣の血を引く少女だということを。
「時間がない。すぐに支度しろ。------ これは命令だ、シルファ」
ユサファの声に、感情の色はなかった。