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第15章 因果は巡る風車〜風の集う場所〜④ ( No.195 )
日時: 2017/01/18 15:24
名前: 詩織 (ID: 9hpsnfBu)

「・・ごめん、マリー。本当に・・」
皆のいる場所から壁で隔てられている別室。マリーが纏う為の特殊な衣装と装具を手渡され、2人は暗く冷えたこの部屋に連れてこられた。
狭いうえに、少しかび臭い。
マリーの傍らに膝をつき、衣装の裾を整えながらシルファはまだ混乱する頭で絞り出すように言った。
小さく掠れたその声に、マリーはいたたまれないような顔で首を横に振った。
「シルファのせいじゃない」
着せられている衣装の裾には小さな金具のような装飾が縫い付けられていて、彼女が動く度にしゃらしゃらと軽い音を響かせる。
「でも、君に怖い思いをさせてしまった。ラヴィンたちだってどんなに心配してるか・・。まさか、父上がこんなことを・・」
尊敬する父が、兄たちが。いくら使命の為だと言ってもよもやこんな犯罪のような手段を選択するなんて。しかもマリーはシルファの、大切な友人だ。それを知らない彼らではないのに。
(どうして・・)
信じたくなかった。けれど、目の前にある事実は事実だ。
それにこれは、自分を信じて情報をくれたトーヤや、任せると言ってくれたラヴィンやジェンに対する裏切り行為ではないか。

「シルファ」
動揺するシルファを、マリーは見下ろす。
「私ね、あのクロドって人知ってるの。昔、社長さんと少し揉めたことがあって」
「ジェイドさんと・・?」
ゆるゆると顔を上げるシルファに、マリーは頷く。
「うん。揉めたっていっても、向こうが一方的に嫌がらせしてきたんだけどね。うちの店が自分の所よりも繁盛しているのが気に食わなかったみたい。社長さんは相手にしてないみたいだったけど。だから私を攫ったのがあの人のしわざだと知ったとき、今回も社長さんへの嫌がらせの為だと思ったの。シルファのお父さんと関わりがあったのは驚いたけど、でも、きっと何かわけがあると思う。だから・・」
小さなマリーの手が、そっと、シルファの頭に置かれた。
「あなたのせいじゃない」
ゆっくりとなでていくその温かさに、シルファは唇を噛みしめる。
「マリー」
「ん?」
「君は、僕が必ず無事にみんなの元に返す。こうなってしまった以上、力は貸してもらうことになっちゃうけど・・、記憶操作なんてせずに、すぐにギリアへ帰れるよう父上に交渉する。皆にも、ちゃんと謝りに行くから」
「・・うん。ありがとうシルファ」


「おい、そろそろいいか」
部屋の外からリュイの声がした。不安げな顔をするシルファに、マリーは気丈に言った。
「少し怖いけど、シルファがいてくれるんだもの、大丈夫。要は魔法のお手伝いをすればいいのよね?早く終わらせて、早く帰りたいな。みんなのところへ」
「うん。そうだね」
目を伏せて答えるシルファの目に映ったのは、小さく震えるマリーの足元。

(怖くないわけないんだ。)
こんな、理不尽な扱いを受けて。

自分の為に平気な振りをするマリーに、シルファは胸が痛んだ。
当主の決定は絶対だ。逆らうことはできない。
それは生まれたときからの『当たり前』であり、ライドネル家の誰もが信じる生き方だ。父に逆らうなんてありえなかったし、父が間違かもしれないなんてことは考えたこともなかった。
(でも・・)
シルファには、分からなくなっていた。
今、何を信じるべきなのかということが。

「シルファ?」
再度リュイの声がした。シルファは立ち上がると、マリーの手をとる。
「今行きます」