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第15章  因果は巡る風車  〜欲しかった強さ〜④ ( No.200 )
日時: 2017/03/06 12:29
名前: 詩織 (ID: a1.gBlqJ)


「・・シルファ。トーヤがもうすぐだから準備してくれって」
遠慮がちに声をかけたラヴィンは、返事のない背中にもう一度呼びかける。
「シルファ?」
「え、あ、ラヴィン。ごめん、何か言った?」
抑揚のない声はやっぱり彼らしくない。
「トーヤが、もうすぐだって」
「そっか。分かった、ありがとう」
微笑んでるつもりだろうけど、その笑顔がいつものシルファじゃないことにラヴィンの胸は痛んだ。

ここはトーヤのいる地下の隠れ家だった。
イルナリアの機転により、城に直接ではなくここにある移動魔法陣を使って向こうの隙をつく作戦をとったのだ。
そうして今、イルナリアがユサファたちと対峙している間に、マリーとシルファを連れて一旦こちら側へと戻ってきた。

『眠りの唄の封印は今、無理やり蓋がはがされた状態だ。どちらにしても、もう引き返せない。魔力は溢れ出てくる』
『そんな!どうしたらいいのトーヤ』
『長い年月を経て、魔力はだいぶ薄れている。俺もその一部だからな、分かるんだ。だから思い切って封印を解けばいいと思う』
『そんなことしたら魔力の暴発が』
『聞け。シルファの一族がやろうとしたことは、封印された魔力の中から特定の力だけを選別する魔法だった。マリーの力を上手く起動出来ずに失敗に終わったが、今度は俺の力を使えばいい。俺は封印された魔力の一部だ。今の状態なら力をコントロールできる。そうして呼び出すんだよ』
『呼び出すって・・』
『リーメイルだ』
眠っているリーメイルの魂を呼び出す。そして残された魔力が暴発する前に、正しい流れで自然に還るよう魔法をかけ直してもらう。
『今だからこそ出来る方法。そしてそれが出来るのは、世界でただ1人、リーメイルだけだ』


ラヴィンはシルファに近づくと、静かに隣に座った。
俯く彼の顔は髪に邪魔され、隣からでもその表情は見えない。
「シルファ」
返事はない。
ラヴィンは思い切って手を伸ばすと、優しくシルファの背を撫でた。
「大丈夫。シルファ、大丈夫だよ」
彼の肩にこつんと頭を乗せると、肩を抱くように身を寄せた。

「・・強く、なりたかったんだ」
こぼれた言葉は、微かに震えていた。
「でも、それは僕の欲しかった強さじゃなかった」

僕は、間違ってたのかな。
静かに漏れる嗚咽に、ラヴィンはただ黙ってその背を撫で続けた。