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Re: はじまりの物語 ( No.201 )
日時: 2017/03/27 21:48
名前: 詩織 (ID: Q8MrRCmf)


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「どういうことだ、イルナリア」
固い声で問いただす父親を前に、けれどイルナリアは臆することなく向かい合った。

「言った通りです。私は私のやるべき事をする為にここに来ました」
「やるべき事とは」
「もちろん、お父様をお止めすることです」
イルナリアの視線は揺るがない。
ユサファは疲れたようなため息をついた。
今回の要であるマリーとシルファはすでに姿を消している。
計画は失敗だ。

中途半端に放たれた魔力が暴走しないよう、魔法使いたちはバランスをとるので精一杯。このままおけるはずもなく、すぐに今後の処置を考えなければいけない。

「どうして突然・・その恰好はどうした、なぜ魔法使いでないお前が」
「魔法使いではないからこそです」
イルナリアは即答する。
「せっかく素質が認められても、身体が弱く魔法使いとしての道は選べなかった。家族なのに何の役にも立てないのが悔しかった。私だって、お父様やお兄様、シルファや・・皆と一緒に、この家の為に力を尽くしたかった」
ユサファも、その後ろで魔法の渦中にいる3人の兄たちもそろって瞠目していた。
イルナリアがそんな風に自分を語るのは、初めてのことだったから。
「だから決めたのです。直接魔法は使えなくとも、魔法についての知識は誰よりも身に着けようと。魔法道具のことも必死で学びましたわ。いざという時、いつでもお役に立てるように」
「・・それが・・なぜ、今・・」
「お父様。私がそう心に決めていたのは、家族が、一族の皆が大切だったからです。皆が笑っていられるように、私は私なりに大切なあの家を守りたかった。・・お母様のように」

まだ子供たちが年端も行かぬ頃、病で逝った妻。
その面影が浮かぶ。

「殿方というのは大変ですわね。当主、またはそれに準ずる立場になれば尚更。守らなければならないものが増えていく。・・けれど」
—— その中で見失われていくものも、確かにある。
そしてそれはもしかしたら、とても、大切なものかもしれない。
「今、お父様はご自身の本当の心を見失っているように感じます。それはお兄様たちも」
ユサファは立ち尽くしたまま、微動だにしない。
イルナリアは静かに告げた。
「それをお止めするのが、ライドネル家の女としての、私の役割かと。ですから私は私なりに、勤めを果たそうと思います。—— お母様に代わって」