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- 第15章 因果は巡る風車〜欲しかった強さ〜⑦ ( No.205 )
- 日時: 2017/04/13 11:56
- 名前: 詩織 (ID: JPqqqGLU)
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「何ぃ?儀式を中止だと?どういうことだそれは!」
怒鳴りつけるクロドの剣幕に、部下たちは身体をビクッと竦ませる。
「そ、それが俺たちにもよく分からないんです。何か言い合う声が聞こえて、バチバチっとこう、でっけー音が何回も聞こえてきて・・」
見張り番の男たちはしどろもどろに顔を見合わせる。
「魔法使い以外は部屋に近づくなと言われてたから別室で待機してたんでやすが、音が収まったから近づいてみたら、ユサファ・ライドネルの声で『儀式は中止する』って。なあ?」
「お、おう。確かにそう言ってやしたぜ」
不安げに自分を見る部下たちを無視して、クロドは拳を壁に叩きつける。
「クソ!まさか裏切る気かユサファ・ライドネルめ!!」
儀式の場所付近は危険だからと、最奥であるその部屋から1番離れた城跡入り口側に待機していた。それが仇となり、クロドは事態の急変に気づけなかった。
「どうしやすクロド様、このまま計画は中止で?」
「バカ野郎!!」
おどおどと尋ねる部下を一喝し、クロドは
「ここまでどれだけの時間と労力費やしてきたと思ってんだ!」
荒い呼吸を繰り返しながら気持ちを落ち着けると、クロドは胸ポケットに手を入れる。
「それにこちらにはグレン公爵がついている。ここで逃げることは公爵を裏切ること。そんなことをすればライドネル家とてただでは済まないことくらい、あの男なら分かってるはずだ。お家大事のあの男がそんな危険を冒すはずがないわ」
公爵の名のもとに、ユサファ・ライドネルと自分の名で交わした盟約の書。
これがある限り、彼は裏切ることは出来ない。
「町で待機してる奴らをすぐに呼んで来い、全員だ!集めた流れ者たちもな。武器の準備も怠るなよ」
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「聖女リーメイルを呼び出す?そんな事が本当に可能なのか?」
今だ困惑気な表情を見せるユサファに、トーヤは強く頷いた。
すでにトーヤの指示のもと、封印解除の儀式へと魔法使いたちは慌ただしく走り回っている。
ユサファを初めライドネル家の誰も見たことのない術式。トーヤの使う、特別な古代魔法だった。
「封印を綻ばせることに成功したら、次はその魔力の流れの中から眠っているリーメイルの意識を呼び出す。さっきあんたたちがやろうとしてた方法だろ」
「ああ、だが失敗した。もし彼女の意識が目覚めなければ、溢れた魔力が制御できない。年月が経っているとはいえ、何が起こるか分からないぞ」
「中心でのコントロールは俺がやる。俺とリーメイルの意識は必ず共鳴するはずだ。俺が絶対に、リーメイルを見つけてみせるさ」
トーヤは見る間に塗り替えられていく魔法陣を、鋭い瞳で見つめた。
魔法使いたちは円になる。
中心には浮かぶのはトーヤの姿。
「ではいくぞ、トーヤ・クラウン・ファリス」
ユサファの厳かに響く声に、ユサファは頷いて目を閉じる。
閉じる前の一瞬に、シルファと目が合った。
(頼んだぞ、シルファ)
目でそう語りかければ、真剣な銀の瞳が強く視線を返した。
魔法使いたちの詠唱と共に、トーヤは意識を深く沈める。
残り少なくなった最後の魔力を全て解放する。
そうして静かに、愛する者への言葉を紡いだ。
聞こえるか、リーメイル。
長い間、1人にして悪かった。
今、迎えに行くから。もう1度、必ずお前を見つけてみせるから。
だから俺と一緒に、お前の愛したこの地を守ろう。
なあ、リーメイル。