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Re: 私には、みんなには視えないものが視えている ( No.2 )
日時: 2015/03/31 21:30
名前: 未来 (ID: Qvwcv6K1)

 No 2 犬猿の仲



 「男女ペアを作って、この2時間は調べ学習にしたいと思います」

 お昼時間後の授業。先生のこの一言に、地味にだけど私は困った。
 


 なにしろ今日本日転入してきたばかりなのだ。まだクラスメイトのことすらほとんどわかっていない。
 せめて性別関係なく好きな人とペアを組めたのなら、真美に頼んで私のペアになって貰えたんだろう。
 私は真美以外の人とまだ、自然と話すことは出来ないと確信していた。だから緊張で固まってしまった。



 「かーんざきさん!」

 びくっと肩を震わせながら、悩ましげに伏せていた顔を上げる未優。
 声の主はにかっと笑いながら続けた。

 「オレ、阿部海斗。やーっと話すことができたな〜!それで、調べ学習のペアになってくれない?」

 「あ、えっと、私でよかったら……よろしくお願いします」

 気さくな笑顔で話しかけてくれたところをみると、きっと阿部君はクラスのムードメーカー的存在なのだろう。
 正直とてもありがたい。まだクラスに馴染めていない私なら尚更、阿部君のようなタイプの人は話しやすい。
 こっそりと阿部君の顔を窺いながら、図書館へと向かうクラスメイト達の波に続いた。




 ****




 「…まとめるのも調べるのも速いし上手いな神崎さん…オレ役に立ててない気が…」

 「いやいやそんなことないよ阿部君!」

 「またまたぁそんなけんそんしなくても〜」

 与えられたニ時間の内半分の一時間で十分課題をこなしてしまった未優と海斗は、先生の許可もあり読書しながらお喋りしていた。

 「神崎さんってもしかして優等生?頭いいでしょ!」

 「いやそんな…頭いいってほどじゃないよ。普通だよ普通」

 調べ学習で協力して作業したことによりいつの間にか海斗と打ち解けていた未優は、気付かぬ内に自然に彼と話すことが出来ていた。



 「ところで神崎さん、何読んでんのー?」

 「…っ」

 「……妖怪図鑑?」

 読んでいる本を覗き込まれたことに思わず息を詰めてしまった。

 (大丈夫、落ち着け。焦らなければ、なにもおかしなところなんてない。)

 「…うん、そう。面白そうだなーって思って」

 「…へぇ〜…」

 邪気の感じられないまっさらで明るい笑顔から一変して見せた冷たい笑みに、未優は驚愕して固まった。
 震えを悟られないよう図鑑の妖怪を凝視していたが、海斗はそんな未優の内情を見据えているかのように図鑑と未優の顔に視線を行き来する。



 一体どうしたんだろう、なんでこんなに様子が変わってしまったんだろう…?
 この場から立ち去りたい、それかこの空気が変わってほしい



 「…お前、大丈夫か?」

 「………え…」

 いつの間にかいていた冷や汗に気を留める余裕もないまま、ゆっくりとぎこちなく顔を上げた。

 「顔色悪いけど、具合でも悪いのか?」

 「いや…その…」

 向かい合って座っていた阿部君の嫌悪の表情に更に驚きながらも、心配して声を掛けてくれたのだろう、まだ名を知らないクラスメイトの男子を見上げた。

 「大丈夫…何でもないから」

 「…そうか」

 彼は睨みつけてくる海斗に臆せず同じように睨み返して、その場を離れた。



 「……神崎さん、大丈夫?具合悪い?」

 「っあ、え…と、大丈夫だよ本当に」

 あの冷たく恐ろしかったオーラがなくなり、元の気さくな阿部君に戻っていた。
 そのことに心底安堵しながら、数秒前の阿部君と声を掛けてくれた彼の様子を思い返した。



 あれは———お互いに、心底嫌悪している眼ではなかっただろうか。




 ****




 気になって気になって、訊こうか訊くまいか迷って悩んで、意を決した時には六時限目終了直前。

 「阿部君……さっき私を心配して話しかけてくれた人のこと…嫌いなの?」

 「…仁科のことか。あいつのことは話したくない。大っ嫌いだ」

 「っ、そう、なんだ……ごめん。変なこと訊いちゃって…」



 私は転入してきたばかりで、二人の間で何があったのか、一切知らない。きっと何か、お互いにお互いを嫌いになってしまう出来事があったんだろう。
 でも、人が人を嫌っているのを見ると、心が痛い。



 沈み込んだ気持ちで図書館から出た瞬間、私に聞かせるつもりで言ったのではないのだろう、小さくか細く呟かれた一言が、私の耳に届き、脳裏に沁み込んだ。

 「———あいつは、嘘つきだ」

 その声音には、憎しみだけでなく、悲しみも混じっていた気がした。