コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私には、みんなには視えないものが視えている ( No.3 )
- 日時: 2015/04/01 11:32
- 名前: 未来 (ID: Qvwcv6K1)
No 3 嘘つき
———嘘つき、とはどういうことだろうか
「…なんでこんなに気になるんだろう。昔よく言われたから?」
ずっと、よく言われた言葉。浴びせられた、嫌な言葉。
”嘘つき”
だからだろうか。
もし彼———仁科君も、私と同じように、嘘をついていないのに誤解されているのではないか———そんな考えが頭を巡って止まらない。
きっとこれは、私の望みであり、否定出来はしないはずの可能性の一つでもあり、都合のいい想像でもある。
でも、心配して声をかけてくれた彼の言葉。表情。周りの様子に目敏く気付き心配出来るあの優しい仁科君が、嘘つきとは思えなかった。
阿部君は、仁科君が嘘つきだから嫌っている。
では、仁科君は?
仁科君のあの瞳も、阿部君と同じ嫌悪…考えたくはないがそれ以上の感情、憎悪で満ちていた気がする。
考えても考えても、勿論答えは出てこない。
彼らの間で一体何があったのか。
「…明日、真美に訊いてみよう…」
今日一日を振り返り、一時間も物思いにふけっていたことに気付き驚きながら、消灯して未優はベッドに飛び込んだ。
****
———その夜、幼い頃の嫌な夢を見た。
『へんなのー。体が青いよー』
『…未優ちゃん。どうしたの?』
『この人、体が青いよー?なんでかなぁ?』
『……何言ってるの?この人って誰なの?』
『えっ?ここにいるよー!なに言ってるの先生?』
戸惑う小学校の時の担任の先生。
その頃の私はまだ自分と周囲の世界の違いに気付いてなくて。
『…未優ちゃん、変なことばかり言うのよ。何かの遊びなのかしら?』
『何それ…どういうことなの?』
『この前は、体が青い人がいる、みたいなこと言ってて…誰もいないのに…』
『気味が悪い子ね…』
『そこまで言うことないじゃない。未優ちゃんはまだ低学年でしょう?』
聞いてしまった先生達の言葉。すごく戸惑った。
確かに体が青い人なんて中々見ないけど、と見当違いなことを考えながら、何で先生はあの時私の目の前にいたその人に気付かなかったんだろうと不思議に思った。
時は流れていき、小学校高学年辺りになると、周囲から私は非難され始めた。
『お前変なことばっか言うよなー!
誰もいないのに小さな子供がいるとか、ろくろ首がいるとかうそついたりするし』
『うそなんかついてないよっ!みんなこそなんで変なこと言うの!?
あのとき小さな子供がうずくまってたし、ろくろ首だってほんとにいたのに!!』
『なに言ってんだよ神崎!ろくろ首とかお化けなんているわけねーだろ!』
『いるよ!私見たもんっ!!
ろくろ首もから傘お化けものっぺらぼうもぜーんぶほんとにいるよ!』
ああ止めて私。
みんなには見えてないんだよ。
誰も分かってくれる人はいないんだよ。
信じてくれる人なんていないんだよ。
見えているのは、見えていたのはいつだって、私だけ。私だけだったんだから。
****
「……っ、はあっ、はあっ…ぅあ…」
最悪の目覚めだ。
怒りと悲しみと寂しさとやるせなさで渦巻いている感情。
でも、窓から差し込む日光が、早鐘のように鼓動を打つ私の体に安心を届けてくれた。
「…昔の、夢か…」
まだ脈は落ち着かず、バクバクと鳴り響いているのが胸に手を当てなくても感じられる。
しかし、そろそろ起きなくてはいけないだろうし、何かしていないとまた不安に囚われてしまいそうだったから、ゆっくりと立ち上がり伸びをする。
「未優ちゃーん、起きてるー?」
「はい、起きてまーす!」
「朝ご飯できあがるから、降りてきてー!」
「はい、今行きますー!」
階段を下りながら、すでに頭は阿部君と仁科君のことでいっぱいになっていた。
****
「真美ー、ちょっと訊いていいかな?」
「なになに未優?」
「えっと…阿部君と仁科君って、何かあったの…?」
瞬間訝しげな表情になった真美に、未優は訊いてはいけなかっただろうかと思い気まずく感じた。
「どうしたの未優。いきなりそんなこと訊くなんて」
「あぅ…えっと…昨日の調べ学習の時間、私、阿部君と一緒にやったんだけど、仁科君と仲悪いような様子見て、気になっちゃって…」
居心地悪い空気に耐えられなくなったのか俯いてしまった未優とは対称に、真美は合点がいったような表情でぽんと手を打った。
「あーなるほどねぇ〜。話しておくかー」
「えっほんと!?」
聞こえた言葉にぱっと顔を上げた。
すると真美はあまり周囲の人に聞かれたくないのか、私に体を近付け、小声で話し始めた。
「えっとねぇ、これはあくまで噂なんだけど、阿部君と仁科君って、最初はそんなに仲悪くなかったんだって。
あ、二人とも中学も一緒だったらしくて、特別仲がいいわけじゃないけど、仲が悪くもなく、至ってふつーだったんだって」
でも、中学二年のときの仁科君のクラスメイトが、たまたま二人が言い争っているところへ居合わせたらしくて、そのとき二人は『嘘ついてたのかよ!?』とか『お前の方こそ…!なのに何で見えないんだよ!!』とか、よく分からないことで言い争ってたらしいよ。
どうしようか困ってたら、阿部君が仁科君に掴みかかってそのまま殴り合いに発展しそうだったから、慌てて止めに入って大事にならずに済んだらしいけど、それ以来二人は傍から見てもすっごく険悪な雰囲気で、正に犬猿の仲って言葉が相応しいくらいだってさ。
「はっきりとした原因は分からないんだけどねー…これでいいかな?」
「うん、ありがとう」
話を聞いた限りでははっきりしないけれど、私が考えていた、願っていた可能性がありえなくなくなってきたと思う。
あとは二人に話を聞いてみるしかないかな。
…これはお節介なのだろうか。
もしかしたら二人からしたら、すごく迷惑なだけかもしれない。
でも、それでも。そうだとしても。
「私がどう思われようと、もう慣れっこだし構わないけど。
でも…人が人を嫌いでいるのは、悲しいことだもんなぁ…」
授業開始のチャイムの音を耳にしながら、私は晴天の青空を見上げた。