コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私には、みんなには視えないものが視えている ( No.4 )
- 日時: 2015/04/02 10:20
- 名前: 未来 (ID: Qvwcv6K1)
No 4 アンクレット
「仁科君!ちょっと時間いいかな?」
「…いいけど」
放課後図書館に寄ってみると、幸運なことに仁科君がいた。
人がほとんどいないうえ、ただっ広い図書館は、誰かに聞かれることもなくゆっくりと話す場所にうってつけだった。
この機を逃す手はないとばかりに、私は仁科君に声をかけた。
「え…っと、調べ学習の時、心配してくれて、ありがとう」
「いや、別に。具合が悪そうだったから、気になっただけだ」
「でも、びっくりしたよ。
転入したばっかりの私を気にかけて心配してくれて、嬉しかった。
本当にありがとう」
「…大したことはしてない。そんなに礼を言うことはないと思うが」
あまり表情を変えることはしないけれど、彼の戸惑っている様子が伝わってきて、未優はちょっとおかしかった。
でも、本題はこれからだ。お礼を言いたかったのは勿論のことだけれど。
「それで…変なこと訊くけど、不愉快にさせてしまったら、ごめんなさい。
何で……阿部君と仲が悪いの…?」
「っ!…悪いが、あいつのことは話したくない」
一瞬にして嫌悪を露わにした仁科君を見て、やっぱり不愉快な気持ちにさせてしまったことを悟った。
「そう、だよね……嫌なこと訊いちゃって、ごめん…ごめんなさい」
「何でこんなこと訊くんだ」
低く冷たい声音に、未優の中で恐怖と罪悪感が募っていく。
それでもなんとか、答えるために声を振り絞った。
「阿部君と仁科君、見るからに仲悪いし、友達から話を聞いて…
何でこんなにお互いを嫌っているのか気になって……
———阿部君は仁科君のこと、嘘つきって言ってた」
「あいつ…っ!」
苛立ちを露わにした仁科君に焦りながらも、どうにか私の気持ちを伝えようと、言葉を探して続けた。
「仁科君。仁科君が阿部君に嘘つきって言われてるのを聞いて、仁科君に私を重ねてた。
私、嘘ついてなかったのにずっと、嘘つきっていっぱい言われたから」
「…!?神崎…?」
「…だからもしかしたら仁科君も私と同じように———
本当のことを言っているのに誤解されて、
信じてもらえなくて、
嘘つきって言われてるんじゃないかって…思わず考えてた」
息苦しい空気が、和らいだ気がした。
仁科君の表情も穏やかになっていた。
「…お前、お節介焼きだな」
「えっ…うぅーん…そうなのかな…」
「…優しい奴だな」
「?何か言った?」
「いや、別に」
何か言っていたような気がするけれど、気のせいだろうか。
でもそんなことを考える余裕はなかった。
ふと時計を見るといつの間にか閉館時間が迫っていて、思いの外時間をとってしまっていたことに気付いたからだ。
「あああ仁科君…!
変なこと訊いちゃっただけじゃなく、こんなに時間とってしまって本当にごめんなさい!」
「いや、大丈夫だ。気にするな。
俺も冷たい態度をとってしまって悪かった」
———結論からすると、ほとんど成果はなかった。
唯一わかったのは、予想通り仁科君も阿部君を同じように嫌っていることだけだ。
でも話してみるとやっぱり、仁科君は嘘つきじゃないと何故か確信している自分がいた。
****
図書館を後にしようと二人して歩き始め、数歩歩いたところで仁科君は立ち止まって振り向いた。
「俺も可笑しなことを訊くが……左足首に、何かつけているか?」
一瞬、頭が真っ白になった。
頭を鈍器で殴られたような衝撃とは、このことだろうか。
「………なんで…わかるの…」
震えた声でなんとか紡いだ言葉は、随分と弱々しかった。
心底驚愕していた。本当に衝撃的すぎる発言に、つい仁科君を凝視していた。
「驚かせて悪い。何て言えばいいのか…
神崎の左足首に違和感があるというか…不思議なオーラを感じるというか…」
その言葉に私は見開いていた両目を更に見開いた。
靴下で隠れているはずのアンクレットの存在に気付いたうえ、さらに何かを感じ取ったと言うのだから。
驚くなという方が無理な話だった。
幼馴染からもらった、大切なアンクレット
引っ越し直前の時のこと、優しい言葉を思い出す。
『お守りだ。ちゃんと左足につけておけ。
俺の代わりにお前を守ってくれる。
…馬鹿野郎、泣くな。
大丈夫だ。きっとまた、すぐに会えるから。
だから、泣くな。笑っていろお前は』
…これのおかげで、私はどれだけ助けられたか———
「…ざき、神崎」
「あ…な、に?仁科君」
過去へと思いを馳せてしまったけれど、仁科君の声で現実へと意識が戻った。
「悪い……普通驚くよな。こんなこと言ったら。驚かせてしまってごめん」
「う、ううん!私こそ、変に驚いちゃって!大丈夫だから!」
お互いに気まずい気持ちは残ったけれど、仁科君にさよならと挨拶をして今度こそ私は帰路へ着いた。
驚きすぎてドキドキとまだ高鳴る胸を、押えながら。