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Re: 私には、みんなには視えないものが視えている ( No.5 )
日時: 2015/11/28 20:28
名前: 未来 (ID: HHprIQBP)

 No 5 変化の始まり 



 あの後。帰宅してから休日を挟んで月曜までずっと、阿部と仁科…特に、アンクレットの発言から仁科のことに思考を費やした未優。

 新しい週の始まり。登校してから放課後になるまで、ちらちらと二人を無意識に見てしまっていた。
 時々二人と視線が合い、慌てて逸らすこと数回。そんなことを繰り返していく内に、一度仁科君に声を掛けられてしまった。

 「どうしたんだ神崎?
  …金曜に言ったこと、やっぱり気味が悪かったか…?」

 「う、ううん!?違うよ!
  ごめん、見られてたら気になるよね…ほんとにごめん!」

 「いや、それはいいんだ。
  …そうか、良かった……まだ気にしているのかって、不安で…」

 一瞬きょとんとした後くすくすと笑い始めた未優に、仁科もつられて笑顔を見せた。

 (仁科君の不安そうな顔、意外だなぁ。いつも余裕があるって思ってた。)



 仁科君と笑い合いながら普通に話せるようになっていたことに、阿部君の時のように嬉しくなる。
 そんな仲睦まじい光景を不快に思い睨みつけている阿部に、未優はまた気付いていなかった。



 ****



 放課後、忘れ物を取りに教室に戻ると、無人かと思われた室内に一つの人影があった。
 クラスメイトかと思ったけれど、想像していたよりも小さな身体がはっきりと目に映った時、とても驚いた。

 「ねえ、君…小学生、だよね?何でこんな所に…?」

 声を掛けるとその男の子は、驚愕した様子でこちらを凝視してきた。
 かと思ったら、今度は子供らしからぬ大人びた笑みを浮かべた。
 訝しむ未優にクスリと笑みを零し、その少年は口を開く。

 「へぇ…お前には俺が視えているのか」

 ドクン、と鼓動が重く鳴り響いた気がした。
 若干息苦しい。は、と息を吐き出す。

 「まさか…君は人間じゃない…?」

 「そうだよ。俺は妖だよ」

 ———そうだ、小学生がどんな理由があって高校の校舎に入れるのだ。
 それにもっと疑問を抱けば、彼が人ならざるものの可能性に気付けたはずなのに。

 この学校に転入してきてから、人ならざるものを見かけることは毎日数回はあったけれど、こうして干渉してしまうことはなかった。
 彼がただの困っている小学生に見えたから…声を掛けてしまった。



 「俺が妖だと分かったら、助けないだろう?」

 「…え」

 「人間は特にそうだが、俺達妖も、同種は助けることがあっても他種を助けようとすることはほとんどない。
  自分達と違うものには、嫌悪の感情を持つ。そういうものだろう?」

 ———あぁ、そういうことか。

 「君が人間だと思って声を掛けた私は、
  君が妖怪と知ったから君を助けようとはしない。
  そういうこと?」

 「そうだ」

 確かにそうだ。
 私も、人からも人ならざるものからも警戒されたり敬遠されたり…酷ければ忌み嫌われ蔑まれた。
 同族からも異族からも中途半端な私という存在は、良いものではないと思われた。

 「さぁ帰った帰った。
  俺と話しているのを見られたら、頭のおかしいやつだと思われるだろう。
  俺のことは無視して、早く出ろ」

 随分とこちら側の都合にも詳しそうな様子に、未優は少なからず驚いた。
 それだけじゃない。他種であるはずの未優を気遣っていることにも。

 「…ありがとう。人間の私の都合を考えて、物を言ってくれて」

 「別にお前に気を遣ったわけではない。
  ただの気まぐれだ」

 ぶっきらぼうな言葉から滲み出ている温かさから、きっとこの妖怪は優しいんだと、分かってしまった。
 それは私の勝手な思い込みだと言われるかもしれないけど。

 「…だったら、私も気まぐれで君を助けようとしてもいいよね」

 「なっ、何を言っている」

 「生憎、誰かが困ってるのを見たらほっとけない性分だから、私」

 「俺は人じゃない!妖だろ!?」

 「そんなもの、私には関係ないよ」

 少年の姿をした妖は唖然としながら、眼前で優しい笑顔を浮かべる人間を見つめた。

 「…調子が狂う。お前、変わってるな」

 「えっ!そんなことないよ!」

 「…ははっ」

 「あはははっ」

 一瞬の沈黙の後、二人は困ったように笑った。
 それが未優には、ひどく心地よく感じられた。



 ****



 「人間の学校に興味を持ってしまって、
  たまたま通りかかったこの学校に入ったら、迷ってしまったんだ」

 そう言った少年の妖に、未優は案内しながら一緒に出ようと申し出た。
 が、「お前の手を煩わせたくない」と返されてしまったので、出来るだけ分かりやすいルートを教えた。

 煩わせるなんてそんな、と戸惑う私に、「普通の人には見えない妖怪と一緒にいると、どこかでぼろが出て、奇異の目で見られるかもしれない」と。
 ———また気遣ってくれた彼の優しさに、胸が温かくなった。



 「助かった。ありがとう人間の小娘」

 「私の名前は未優。未来の未と、優しいって字で、未優。
  人間とか小娘とか呼ばれるのは、なんか変だよ」

 「…分かった、改めて言い直そう。ありがとう未優。
  俺の名は…黒璃こくりだ」

 「———黒に、瑠璃の璃…」

 ぽつりと呟いた言葉に、黒璃は動揺した。

 「!?何で…分かったんだ…?」

 自分でも分からなかった。頭に自然と、イメージが浮かんでいただけだったのに。
 それをただ無意識の内に漏らすと本当にその字で当たっていたことに、私自身もびっくりしていた。

 (まぁ…たまたま、だよね…)

 そう思うことにした。



 ****



 動揺していた黒璃もすぐに落ち着いて、少し寂しいと思いながらさよならと挨拶して、今まさに別れようとした瞬間。

 「…神崎…?」

 黒璃と同時に固まった未優。
 ギクリと身を強張らせ、声のした教室の扉の方へ顔を向けると…

 「あ…阿部、君…」



 眉にきつくしわを寄せ立ち尽くす、阿部海斗がいた。