コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私には、みんなには視えないものが視えている ( No.15 )
- 日時: 2015/07/04 08:20
- 名前: 未来 (ID: 7pZrKn1X)
No 8 祓い人
「未優…大丈夫か」
一飛びしただけで、黒璃は阿部を無視して未優の隣へと並んだ。
色素の薄い空色の瞳が、ただただ涙を零す目だけを捉える。
「黒璃…」
ぽつりと呟くような小さな声。
それをきっかけに、ようやく流し続けている涙を気にかける余裕が生まれたのか、未優は滴り落ちる雫を拭った。
「っおい妖怪!!神崎さんに近付くな!!」
凄まじい怒声が聞こえた。
瞬間、何かがこちらへと飛んできて…いや、黒璃目掛けてそれは宙を舞い、戸惑う彼の周りをくるくると回った。
途端に目も開けていられない程の閃光。
眩しさに瞼を上げられずに立ち尽くすと、隣から呻き声が聞こえてきた。
「ぐ、ぅうあ、ああぁあぁあああ」
「こ…こく、り…!?」
苦しんでいる。黒璃が。優しい妖が。
眩しさなど無視して、瞼を上げていくと、目も眩む程の閃光も薄れていた。
が、その代わり視界に映ったのは、ビリビリと電気の様なものが全身を駆け巡り苦悶の表情を浮かべる、黒璃だった。
戸惑いと驚愕から呆然と立ち尽くしていると———
「神崎さん!」
腕を引かれて彼との距離が離れてしまう。
ぱちぱちと瞬きを繰り返している数秒の間に、私より大分背の高い人が、私と黒璃の間に私を隠す様に立っていた。
「阿部君…?」
彼の手には、紙切れが数枚。
いや、よく見ると、普通の紙ではなさそうだ。不思議な模様らしきものが描かれ、只ならぬオーラを放っている。
その内の一枚を右手に持ち、何か呟いたかと思うとそれを呻いている黒璃へと飛ばした。
「黒璃っ!!」
あれは良くない物だ。多分今彼を苦しめている物と同じ類いの物だと、直感した。
「っ、ぅぐあぁあっ!!」
張り付いている紙を力尽くで剥がし、なんとか飛んできた紙も避けた様子を見て、安堵した。
代わりに舌打ちが響く。
「…なんで」
何で黒璃を苦しめる?
あの紙は何?
阿部君は、一体何を考えている?
…何を、するつもりなの?
その問いは全て胸中に撒き散らしただけで、外へは出なかった。
黒璃が憎々しげに阿部君を見たからだ。
「…っく……貴様…祓い人か…!」
否定も肯定もしない阿部を、黒璃は苛立たしげに睨み続ける。
「…はらい、にん」
蚊の鳴くような声で呟く未優。その言葉は睨み合っている二人には聞こえていない。
はらいにん、とは、何なんだろう。
阿部君が、そうだというのだろうか。
不思議な紙を操り、術を繰り出す存在なのだろうか。
想像することしか出来なかった。
何だか、安倍晴明を思い出される。
今まで読んできた本に、結構な頻度でその名があった。
はらいにん…陰陽師と似た様な存在。そんな気がした。