コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私には、みんなには視えないものが視えている ( No.18 )
- 日時: 2015/11/13 00:03
- 名前: 未来 (ID: 1aSbdoxj)
No 11 大切な人
薄暗い部屋の中。ベッドに潜りながら一人、物思いにふける。
「……阿部君も、私と同じで、視えるんだ…」
ぼんやりとした思考のせいか、放課後の出来事が現実だと、未だに少し信じられないでいる。
何度も数時間前の記憶を蘇らせ、夢でも妄想でもないことを自分に言い聞かせ、やっと実感し始めていた。
帰宅してから就寝するため横になった今に至るまで、ずっと、どことなく覚束無い足取りだった。入浴中も食事中もずっとうわの空で、ぼおっとしてばかりでいて。
「私だけじゃ…なかったんだ……よかった…」
ほとんど感情を込めず呟く。昂ってきた心を、収めるため。
一度大きく息を吸い込み、ゆっくり吐いた。
押し寄せてきた様々な想いが緩やかに凪いで、静まっていくのを感じた。
「………」
ようやっと眠りに落ちそうになった未優だったけれど、黒璃の言葉を思い出してしまった。
『お前はその優しさ故に、その身を滅ぼすことになるかもしれない』
『…妖怪には、関わらない方がいい』
瞳は真っ直ぐこちらに向けていたけれど、影に覆われた顔が、こちらの不安を煽ってきた。
暗くて、深い…そう、まさに闇だ。彼の纏うその陰に、戦慄した。
しかし何より強く記憶に刻まれたのは———彼から滲み出る悲だった。
「どうして…あんなことを…」
言ったところで、言葉にしたところで、答えは返ってこない。そんなことは分かっていた。当たり前だ。
だから、会いたかった。胸の内に広がり始めている苦しみを、頭を離れない疑問を、黒璃に吐き出したかった。問いたいと強く願った。
彼に、また、会いたい。
果たしてこれは、音となり口から出されただろうか。紡げたのだろうか。
曖昧になっていく意識の中、そんなことを考えた。
****
また、夢を見た。
けれどそれは、うなされるようなものではなかった。
「ほら、言っただろ。必ず上手くやっていけるって」
聞き慣れた声。この声だけは、いつだって私から離れることはなく、傍にいてくれた。
とても愛しいそれは———大好きな幼馴染みのものだった。
「お前は今までの分を取り戻すくらい、幸せになれる。
大丈夫だ。恐れるな」
目を閉じて、笑う。
たまに見せる静かで美しいその笑みが。見慣れた彼の姿が。数ヶ月しか経っていないのにひどく懐かしい。
「ねぇ、ゆ———」
手を伸ばし触れるあと数ミリというところで、視界が切り替わった。
****
「う…」
温もりを求め伸ばした手は空を切り、その先にあるのは見慣れた天井だけだった。
そのことに少し落胆しながら、上体を起こす。
「あぁもう…」
夢にまで出てくるとは、そんなに寂しく思ってるのか、自分は。
黒璃の言葉、阿部と仁科の事情に思いを馳せながら、未優は遠い地にいる幼馴染みの温もりを、思い出していた。
「…優」
その日は朝日がいつも以上に眩しかった。