コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私には、みんなには視えないものが視えている ( No.21 )
- 日時: 2015/11/28 19:47
- 名前: 未来 (ID: HHprIQBP)
No 12 二人への願い
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
見送りまでしてもらって、それにこそばゆい思いを抱きながらも、つい頬が緩んでしまうのを抑えられない。
こんな幸せいっぱいの生活を、私が、味わえるなんて。
運命を変えたと言っても過言ではない程の昨日の出来事も相極まって、いつも以上に世界が輝かしく見える。
嬉しさから笑顔を浮かべ、そして家を後にした。
通学路をゆっくり歩きながら物思いにふける中。
今の今まで何で忘れていたのか不思議なくらい気に掛かっていたことを、ふと思い出した。
”はらいにん”
黒璃は阿部君のことを、そう言っていた。
ありふれた普通の物ではないないだろうとても不思議な紙を手に、黒璃と戦っていた彼。
無駄のない動きでそれを放ち、隙を見せず次の動きへ移すあの姿は、恐ろしくもあったけれど。
とても、綺麗だと思った。
彼に、魅せられていた。
けれども。
あれは慣れ故に出来る動きで、咄嗟のものではなかった。
それが、ひどく気になった。
妖怪と戦うことに、慣れているのだろうか
あんなことを、しょっちゅう行うのか
何より、あの瞳は———
「神崎さん」
「っ!?」
大袈裟なくらいに跳ね上がる肩。
そんな私の姿を訝しむように見つめた後、おはようと挨拶の言葉を彼———今しがた思考のほとんどを占めていた阿部君———が紡いだ。
「お、おはよう」
そっと胸を撫で下ろしながらそう返して、校門を二人で潜った。
隣に並んで教室に向かうその最中、ついさっきまで考えていたことが、脳内を隅々まで駆け巡る感覚がする。
好奇心半分、恐怖心半分。
阿部君に色々と問いたいことがあるけれど、それを簡単に言葉にしてはいけない気がするのだ。
結局、今日一日の日程を阿部君に確認するだけで、教室へ入ることになった。
****
きっかけは、何だったのか。
仁科君が率先して手伝いを申し出たことなのか。
それとも、授業中寝ていたペナルティとして、先生が阿部君に仁科君と荷物運びをするよう言い放ったことなのか。
「………」
「………」
「………」
放課後を迎えて今、私と阿部君と仁科君で、担任の先生に頼まれた仕事…資料室までのノート運びを行っている。
右に阿部君、左に仁科君。
どちらも長身のため威圧感があるのか、私は若干緊張していた。
いや、こんなに近い距離に慣れていないだけなのかもしれない。
…沈黙が痛い。
それだけではなく、右からも左からも流れ出る不機嫌なオーラが怖い。
これが二人きりだったとしたら。
そう考えるだけで苦しくなった。
無理矢理手伝いに入ってよかった。心からそう思う。
———二人とも、優しいのに。
何でこんなに、仲が悪いのか。
…もったいない。
二人と同じ冊数分のノートを手に取り歩き出したはずなのに、今や彼らの半分もない。
女子より多く持たないと、カッコ悪いじゃん。そう言って私の手からノートを取った阿部君。
お礼を言って彼に続こうとしたら、何も言わずさり気なく私の分のノートを数冊取って、自分の分に加えた仁科君。
二人の気遣いが、とても嬉しかった。
だから尚更、二人の不仲が不思議でしょうがない。
———変わってほしい。
なんとしてでも、二人とも仲良くなってほしい。
二人の楽しげな笑顔を、見たい。
そんな思いばかりが、渦を巻いていた。