コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私には、みんなには視えないものが視えている ( No.32 )
- 日時: 2015/12/22 21:44
- 名前: 未来 (ID: vRkRh/tL)
No 14 噛み合わない言葉
二人の表情が間の抜けたものになったけれど、それもほんの一瞬だった。
再び険しくなったと思うと、発せられた言葉も刺々しい。
「またか、神崎」
あの日と同じように、関わられたくないことに触れられた怒りが、また湧き上がったのかもしれない。
無表情に、静かに怒りをたたえる仁科君が、私を射抜く。
「…また?」
今度は阿部君が、同じく苛立たしげに言葉を紡いだ。
その眼光は鋭く、警戒心のあらわな獣を思わせ、思わず一歩後ずさった。
———けれど。
「二人とも、優しいのに何で……お互いを嫌っているの…」
阿部君の質問には答えず、胸のうちに抱えていた気持ちを、さほど大きくはない声で私は零した。
「………」
「………」
訪れた沈黙が気になって、気まずさから俯けていた顔を上げると、二人は何の感情も読み取れない顔で私を見ていた。
「…神崎さん…なんで…」
「……はぁ…お人好しが」
数秒後…阿部君は心底不思議そうに私を見、仁科君は呆れたように息を吐いて瞳を閉じた。
この状況にどう反応したらいいのかわからなくて、私は言葉にならない声を発することしか出来なかった。
背後にある窓から差し込む夕日が、私達三人の影を色濃く映していた。
****
どれ程の時間が経ったのだろうか。
「…俺が嫌っているのは、こいつが嘘つきだからだ」
はっとさせられる、凜とした声。
何処かへと飛んでいた意識が定まり、その言葉を発した人物———仁科君に目を向ける。
一瞬阿部君に向けられた視線の奥に、冷酷さが滲んでいた。
無意識に、唾を飲み込む。
「仁科てめぇ…!!」
淡々としている仁科君とは対照的に、言われた阿部君は怒りをあらわにし、眉間に深くしわを寄せていた。
———嘘つき
仁科君も、阿部君のことを…嘘つきと、言った。
酷く、冷めた表情で。
それはまるで、阿部君への侮蔑を表しているようで、それを恐ろしく思うと同時に、とても悲しかった。
仁科君を嘘つきと言っていた阿部君。
彼から垣間見る憎しみと悲しみに、嘘偽りはないように思えた。
お互いに嘘つきだと言う二人から、嘘をついている様子は感じられない。
なのに。
これは一体、どういうことなんだろう。
やっぱり二人は、お互いに誤解しているのではないだろうか。
疑念から確信へと変わったその思いが、より強固なものとなる。
「お前は!俺と同じものが視えるって言ってたくせに、
視えてなかったじゃねぇか!!」
「ふざけるな阿部…俺が嘘を吐いているような言い方をするな!
視えていないのはお前の方だろう」
火花を散らしている二人の口から飛び出たそれらの言葉に、一瞬頭が真っ白になった。