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- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.2 )
- 日時: 2015/04/05 11:46
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第301次元 科学部班班長からの指令
「! れ、れれレト君!? ——それにみ、皆もっ!!?」
非現実だらけの神の世界から帰還して英雄達は、景色の移り変わりに唖然とした。
妖精の社は碧々とした景観でなく、燃えるような真っ赤な色彩に色づき。
夏だった世間は既に、秋の終わりを迎えていたのだった。
体を引き摺るようにレトヴェール達はセンターまで戻ってきた。
更に真っ先に廊下を慌ただしい様子で駆けていた、フィラ副班長を酷く驚かせているのが現状。
それは当然とも言える反応で。ここ数ヶ月無断で蛇梅隊本部を留守にしていた、それも、英雄として名を得たばかりで有名人となってしまった四人はまるで、自宅へひょっこり姿を現した旅人が如く。
バサバサバサー! と、フィラ副班の抱えていた分厚い書類が傾れ落ちる。
「大丈夫ですか? 書類全部落ちましたけど」
「ええ、大丈……じゃないわよ! 4人共、もう何処へ行っていたの!? ずっと探してたんだから! 通信機にも連絡来ないし、こっちから連絡飛ばしても繋がらないし……! 大体何でそんなボロボロなのよ!?」
「ええとそれは……」
「フィラ副班。詳しい話は後で報告書として班長に提出するから」
「ほ、報告書? 一体……」
「ま、細けえ事は気にすんなってこった!」
「気にするわよ! 何ヶ月留守にしてたと思って……!」
「後だと言っている。とりあえず医療部班に処置を受けたいところだ」
「そ、そうね……何だか怪我、してるみたいだし……開戦間近なんだから、身体は大事にね?」
フィラ副班からそれ以上の言及はなかった。
第二覚醒を手に入れてからも、神族達と真っ向勝負という名の修行を繰り返していた。
毎日毎日。フェアリーとキールアの治療の追いつかない程に身体は疲れ傷つきを増して。
良く言えば勲章だが、彼女の言う通り、神人世界大戦の開戦は間近である。
恐らくもう一ヶ月は切っているだろう。本部内も、出て行く前より殺伐とした雰囲気に満ちていた。
彼女が抱えていた書類も、恐らく戦争に関連したものだったろう。
千年前の資料を集めている科学部班も、世界中に散り散りになった次元師の所在を確認している援助部班も。
更なる医術の発展を目指し即効性の高い調合薬の研究に励む医療部班も。
当然、日に日に増えていく元魔の討伐へ向かう次元師達の戦闘力を管理する、戦闘部班も。
何処の部署も忙しない様子で廊下を駆け回っている。目まぐるしい日々を、英雄大四天の留守の間にも送っていたと思うと少し申し訳ない気持ちになった。
医務室に顔を出し、一通りの治療を終えたところで部屋を後にし、レトは窓から外の景色を見ていた。
単純に何を眺めている訳でもなく、じっと。
見えたのは、一年程前、自分の義妹がまだ暗い明朝の空へ消えた場所。
涸れた葉は地から舞い、撫で、撫ぜられを繰り返しては、からりと転がった。
寒空の下で、雨の中で、眼を開いた少女はまるで、人間ではなかった。
今までの自分を否定するようにその眼は朱く。
もし今この瞬間に、義妹に会う事になったとして。またその右手を振り払われたとしたら。
今度こそ、掴むだろうか。
もう一度、拒むだろうか。
あの時手を、離さなければ。違う未来は、在っただろうか。
「——レトヴェール」
「!」
数ヶ月振りに耳に差した低い声色がレトを振り返らせる。
実の父、フィードラス・エポールは窓際に立つレトへ近づいた。
幾ら父を嫌いとは言え特に逃げる様子もなく、二人は向かい合う。
「俺に何か用か?」
「ん……ああ、そうだな。……レト」
「……だから何だよ」
「準備が出来次第、地下へ行く階段まで来い。他の英雄達も一緒にな」
「? 準備って何の事だよ」
「来れば分かる」
数か月前に会ったきりだったが、その時の様子からして息子であるレトと会話を楽しむようなタイプにも思えていた。
然し今の会話からは、レトに必要最低限の事項を機械的に伝え、まるで上司が端的に部下へ指示を渡す光景とも取れる。
いや実際は班長階級を持っている彼からすれば、戦闘部班の隊員であるレトは階級の低い者で間違いは無いのだが。
いつもと違う雰囲気に戸惑いながら、レトは去っていく父の後姿を目で追っていた。
非常に悔しいが実の父親であり、科学者としての才能、実力、それに纏わる地位も確かにある。
認めざるを得ないか、と。レトもぽつぽつ歩き出した。
「おいレトー、一体何だってんだよー」
「知るか。親父の奴、詳しい事は言わなかったんだよ」
「『来れば分かる』、とだけ言われたのだったな」
「ああ。ったくいい加減な奴だな……」
「でも用って何だろう? 私達だけ、なんて……」
「……あ、そういや、さっきから双斬が見当たらないんだよな」
「! 俺も俺も! 炎皇の奴何処行っちまったんだ!?」
「何だ、貴様らもか……実は光節も不在のようだ」
「ええ!? 百槍も、なんだけど……」
最後のキールアの言葉を折りに、一同は口を噤んでざわめいた。
普段心の中に居座っている、魂だけの千年前の英雄達。
気が付いたら何処かへ行ってしまっていた。それも四人共。
何か良からぬ事が起きそうであると、黙って歩を進めていく。
「——お。良かった、態々すまないな。休養中のところ」
「親父、いい加減教えろよ。一体何……」
「話は後だ。とりあえずついてきて欲しい」
地下への階段にまで辿り着いた四人は、そこで壁に寄りかかって待っていた、フィードラスと顔を合わせる。
再び会うなり文句を言ってやろうと意気込んでいたレトを慣れた調子で制圧すると、そのまま階段を降りていく。
全く腑に落ちない。目的も分からないままに、四人はただその後についていった。
地下は真っ直ぐに長い。上の階と比較してみても、廊下の広さや長さや、部屋数は同等のものであった。
ただ上とは違って全体的に光がぼんやりとし、薄気味悪い印象を受ける。
暫く歩いて、遂に廊下の突当りへ。汚れ傷ついた、古臭い壁に不自然に取り付けられた真っ白い扉を軽く前に押した時、僅かな灯りがレト達の瞼を刺激する。
目の前に広がっていたのは。
「——!」
「な、にここ……」
気持ち悪いくらいの白さ。それはただただ広い。
真っ直ぐ中央の先、そして左右端に、三つの扉。
言葉を失った四人の代わりに、まずフィードラスが口を開いた。
「此処は俺が個人的に用意した場所だ。お前達の役に立つと思って、な」
「……役に立つ? 此処で修行でもしろって言うのか?」
「修行なら、別に鍛錬場でも……」
「此処でしか出来ない事がある——まあ、行けば分かるさ」
「“行く”……?」
「扉が見えるだろう。先に一つ、右と左に一つずつ。君達には各々“決められた部屋”に入ってもらう。まずはキールアちゃん」
「あ、はいっ」
「君は真っ直ぐ進みなさい。君の部屋はあそこだ」
「はあ……」
キールアは一人だけで歩き出した。何の事だろうと未だ疑問も解けないまま、ただ真っ直ぐに。
部屋の形状は円。不自然な白さの中を歩み進め、扉の前へ。
この先に一体何が、と。然し戸惑っている時間もない。
一度振り返って、レト達の顔色を伺ってから、覚悟を決めて扉を開いた。
彼女は、その場から居なくなる。
「扉の先に一体何が……?」
「次はエン君。君は右の扉だ。続いてサボコロ君は、左の部屋」
「……承知した」
「何か良く分っかんねーけど、行ってやらあ!」
キールアと同じように二人は右と左の扉の前まで静かに歩いて行く。
レトはまたしても、二人が扉の中へ消えていく様子を見ていた。
扉は三つだけ。最後に取り残されたレトは、今度こそ自分から声を掛ける。
「……それで? 俺の部屋は?」
「無い」
「……はあ?」
「お前の部屋は無い——お前には、“此処”でやってもらう」
「此処って……だから一体何を————」
英雄達は、さぞ驚いただろう。
フィードラスは端に避ける。部屋の中心で立ち尽くすレトの。
扉に入った、キールア、エン——そしてサボコロの。
目の前に、“彼ら”は現れた。
「「「「————ッ!!?」」」」
——目の高さは、初めて“同じ”だった。