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- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.3 )
- 日時: 2015/04/26 01:02
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
- 参照: 先週は更新をし損ないまして
第302次元 三つの次元技
「う……ッ——!?」
「——はァ!!」
力強い掛け声と鋭い刃に押し負けた。気迫で周りのもの全てを薙ぎ払うかのように、その声は耳に刺し心臓を穿つ。
距離を取る。金髪は暫く大人しく、少年が間もなく駆け出すと同時に、僅かに揺れた。
一歩が、何て距離を縮めてくる。金属音は増して響く。
「ぐ……!」
「どうしたの? この程度じゃ——話にならない!」
「!?」
「“第七次元発動”————!!」
一体何が起こっている。何て光景を目の前にして、今自分は。
「————“十字斬り”ィ!!」
——“双斬”と、戦っているのか。
(どうなってんだよ……!?)
レトヴェールは数分前の出来事を思い出した。
英雄大四天の四人が入ってきた筈の、入り口から一人。
颯爽と、顔色一つ変えずに、彼はレトと同じ目線で、現れた。
それは、まるで千年前の————“生前”の姿。
『……!?』
『……レト。この姿じゃ、“初めまして”、かな』
『お、前……一体……』
『レト、僕は君と——“戦い”に来たんだ』
『!?』
『君が勝ったら、大戦には君が参加する。でも、僕が勝ったら——』
見覚え無い姿だった。いつもは高い声も、ほんの微か低い。
幼児程の体長だった。常にふよふよと浮いていた精霊は。
人間、みたいだった。
肉体を持ち、声を取り戻し——そして。
『僕が勝ったら————僕が、神族と戦う』
——全身に、溢れ余る力を滾らせて。
その意味は分かるだろう? 威圧を含んだ瞳はそうとだけ言う。
大戦に参加する。それは即ち、人族代表として。神と戦う事。
驚くレトに少年は淡々と紡いだ。それはレトにとって、衝撃でしかなかった。
(……予想通りの、反応だったな)
広い空間の、真新しく白い壁に背をついてフィードラスは様子を伺っていた。
既に剣を交え、額に汗を滲ませたレトに対して少年は実に心地よく剣を振るう。
経験の差か。潜り抜けてきた試練の数か。踏んできた場数の違いもあるだろう。
この奇怪な光景を目の前に出来た。それだけで自分が戻ってきた甲斐もあったものだ。
(“同位重次元空間システム”————どうやら、調子は良いようだ)
英雄大四天が有次元に行っている間の数ヶ月。フィードラスは徹して、この設備の研究をしていた。
蛇梅隊本部に戻ってきたのもその為であり、自分も深く興味があった。
これは本来人間が持つ次元の力を“具現化”するというシステムに基づき、バーチャルとは言え本格的な肉体に最も近い体を次元の力そのものに与える事によってまるで次元の力が生きているかのようにその場に存在する事の出来る。
言わば、次元の力と、同じ次元の力で戦える空間。
勿論此処を出てしまえばその制度は適応されず、本来の姿に戻る。
次元の力はそもそも神【MOTHER】が千年前に生み出した、人間の心を利用する事によって発動の出来る魔法の力。
次元の力を深く理解し、研究を重ねてきた彼だからこそ成し得た業とも言えるだろう。
自身の研究成果に誇りを感ずると同時、自身と同じDNAを持つ息子の成長を眺めていた。
今、ここには一人の人間と“三つの双斬”がある。
一つは人間が、もう一つは具現化し、最後の一つは具現化した肉体に宿り。
現実では有り得ない光景も此処では有り得る。
“天才科学者”、フィードラス・エポール————彼こそが、蛇梅隊科学部班班長。
「ぐ、ゥ……!」
「さっきから防いでばっかりだけど……少しは、反撃——しなよ!!」
「!!」
「第六次元発動————真斬!!」
「——がはァッ!?」
弾き飛ばしたレトの懐が大きく開いた瞬間を、双斬は見逃さなかった。
力強い一太刀が、容赦無くレトの腹部を斬りつけた。
鋭く飛び散った血を見る双斬の目に、情などない。
レトは情けなく膝をつく。口から垂れる血と唾液が、激しく地面を叩いた。
「あッ……が、は……ァ……!!」
「隙が多いね。それに競り合った時“押し”に弱い。良くも“この程度”で英雄になれたもんだよ」
「ぐ、ァ……ッ、ん、だと……?」
「良く聞いてレトヴェール。君は確かに人族代表だよ。僕も同じ。だけど僕らは——全然違う」
「!」
「それが何だか、分かるかい?」
腹部を押さえつけた腕はその溢れ出る血液の勢いを抑えるとも、出血自体は止められない。
腕を越えて赤みはだんだん深くなる。苦しい表情で見上げた、自分より小さい、なのに逞しい立ち姿に、目が眩んだ。
「僕はこの称号を……“戦争”で得たんだ。代表になろうと思った訳じゃない。英雄と賞されるも、望んだ結果じゃないよ。人間を沢山斬り殺して、敵の大将の首を跳ね飛ばして、この名を手に入れた。……なのにどうだい? 君は誰かと戦争をした? 殺し合った? 本気で命を狙い狙われ……死にもの狂いで——“生”を勝ち取った事が、一度でもある?」
英雄大六師達が生きたのは、簡単に人が死んでいく時代だった。
その刃が、矢が、心臓を突き破る。その身で人の身体を動けなくなるまで殴り、蹴り、叩きつけ捻じ曲げる。それだけで人は死ぬ。
何て貧弱な生き物だろう。双斬も、他の英雄達も当然知っていた。
人間は弱いと云う神族に怒りを覚えないのも、そのせいであろうと。
冷たい瞳の、千年前の英雄はレトの喉元に切っ先を向ける。
「双、ざ……っ」
「答えてよ。君は次の戦争で……“死なない”とでも思ってるの? 僕ら英雄大六師は、沢山の騎士が、兵士が、死んで束になったその上を駆けて生きてきた。生きる事に、勝つ事にただただ必死だった! もし君が英雄という名に驕り、安住し、戦争に臨むというのなら——今、ここで君を殺すよ」
「……」
「だって一緒でしょ? 今死ぬのも、一か月後に死ぬのも」
ああ、そうか。少しの間寿命が延びるだけの話。双斬は皮肉げに言い放った。
脅しではない事くらいレトにも分かっていた。警告でもない事を。
本気だった。双斬は本気で、レトのその喉元を今正に突き破れる。
それをしないのは、僅かに同情心が彼の理性を塞き止めているから。たったそれだけだった。
「死んででも人類に尽くすと誓え。その命はもう君だけのものじゃない。全人類のものだ。君が死ねば、全人類は間違いなく死ぬ。……さあ、それでもまだ君は——そんな戦い方をするの?」
「……っ、俺は——」
「余計なもんは全部棄てろ!! ————勝ちたいなら目ェ覚ませよ!!」
怒り昂った双斬の手元は一度も震える事なく真っ直ぐレトの首を捉えている。
どれ程感情に揺さぶられようとも目的は一瞬でも見失わない。気を取られもしない。
まるで人間のようで、人間ではない。
それが“英雄”————人々に命を授けられた者の、最大限の覚悟だった。
「次は無いよレトヴェール。隙があれば、今度は本気で————」
目を覚ませ。その一言は、英雄の心臓を駆り立てるには十分すぎる言葉だった。
刃先を引いて、背を向けたのが——“間違い”だったと。
気付いたのは。
「——ッ!!?」
血が飛び散ったような、心地悪い音を聞いてから随分後だった。
「そうだな。悪い——“眼”、“冷めた”みたいだ」
涼しい顔に同じくして赤い閃が浮かぶ。然しそれは彼のものではなかった。
体を傾かせて仄かに笑うのは、千年前の英雄。
「……やれば出来るじゃん」
「にしてはあんま苦しそうじゃねえな。もっと派手に斬りゃあ良かった」
「はは! 出来るなら、やってみなよ——“半人前の英雄”!!」
「上等だ!! ——後で啼いても知らねえぞ“千年前の英雄”!!」
開始数十分。古代と現代の英雄達はその腹に、背に、大きな切り傷を背負って。
普通の人間なら耐えられもしない痛みから、始まる。
超える為に。超えさせない為に。
人族代表は、それぞれ違う英雄の名に懸けて——加速する。