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- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.4 )
- 日時: 2015/05/03 00:44
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第303次元 天才科学者
紅い少年も、金髪を二つに揺らす少女も、跳ねた蒼い髪を弾かせる少年も。
同じ力を持つ、“英雄達”と対峙していた。
腕を振るい大地を割って矢は放たれる。自分と同じ力を、自分の力が使うというこの光景は正しく違和感であり。
そもそも、フィードラスがこの施設を開発した事には別の理由があった。
当然彼自身自分が何処まで出来るかといった知識の限界に挑戦したさもあっただろう。
然し、彼にきっかけを与えたのは彼自身ではなかった。
時間は少しだけ遡る事になる。
『……』
蛇梅隊第一支部内は白衣を着た研究員で満ち溢れていた。何を隠そう全て科学部班の隊員であり、本部と比べてより密度の濃い、主に研究・実験といった科学の真髄を此処で語らい実行に移す。
本部はあくまで調査報告、実験概要を提出する場に過ぎない科学部班達の殆どは此処に位置していた。
科学部班班長のフィードラスは広大な個人研究室の他にもう一つ、隊員の一部にしか知られていない狭い個室を持っていた。その部屋でも当然研究をしてはいるが、支部内で彼が失踪したと噂になる原因の一つになっている事も。
彼は仄暗く狭い個室に身を置いては、ランプの光に当てられた資料だらけの机の上で今日も頭を抱える。
主に次元の更なる秘密を解き明かす為に日々次元の力の真意について考察を繰り返している彼は、資料冊子や紙に足場を奪われその上狭い道を分厚い本棚が更に道を狭めるという環境下、窓をコンコンと叩く音にハッとした。
落としていた視線を持ち上げると、そこにいたのは、浮かんだ小さな体だった。
『……? 君は……』
『こんばんは。そして初めまして、フィードラスさん』
元霊。英雄大六師。紅蓮の魔剣使い。
呼び名は数多あれど、今その名は————“双斬”。
『やあ、こんばんは。こんな時間に何の用だい——英雄?』
『……僕の事情を知っているという事は、僕が貴方の息子……レトヴェールの次元の力である事も、当然ご存じで?』
『ああ。と言っても、数年前耳にした。噂になっているみたいだからね、うちの息子共は』
『ええ、僕じゃあきっともう……』
『……』
『だからこそ力を借りたい。フィードラス・エポール————人呼んで、』
千年の時を超え、体長30センチメートル程になった小さな英雄の吐く。
言葉は科学者の眉をぴくりと動かす程度には十分な衝撃を与えた。
『————“史上最高の天才科学者”である、貴方に』
千年前の妖精が史上最美の女性と謳われているのと同様に。
彼もまた、史上最高を飾る人材の一人であった。
フィードラスは掛けた眼鏡をくいっと一度、軽く上げた。
そして物静かに口元を歪めて言う。
『史上最高、か……————残念ながら、私は“一番”ではないよ』
『……? 噂には確かにそう……他にも優れた科学者が?』
『さあ、どうだっただろう』
人類を遥かに超越した頭脳と考察力で、数多の難解書物を解読しまた応用を利かせて最先端の科学技術の発展に尽力してきた。彼を取り上げた記事や、彼が実際に筆を執って記した研究記録の書物の宣伝の殆どにそのような文句が述べられていた。
また全科学者の筆頭とも呼ばれる彼に今更ご謙遜を? と尋ねる双斬に対して、フィードラスは何も応えなかった。
『話が大分逸れてしまったようだ。まさか私を褒め称える為に来ただけではないだろう?』
『……貴方の実力を見込んで頼みたい事が』
『何だい? まあ息子が随分お世話になっているみたいだから、ある程度の依頼は引き受けよう。これでも蛇梅隊の隊員だしね』
『僕と……僕と、レトヴェール君を——戦わせて欲しいんです』
彼の眉は一度も動かなかった。静かにその注文を頭に叩き込み、既に。
この瞬間から彼は考えていた。次元の力の具現化。多次元空間の設計図。必要書類が何処の本棚にあっただとか、把握したら今度は手順を練る。
一通りのシュミレーションをまるで拍子抜けして一瞬言葉を失っていたかのような僅かな時間で終えて、息をついた。
『なるほど、ね。良いだろう。引き受けるよその依頼』
『! 良いんですか? そんなあっさり……』
『……君は、私を“史上最高の科学者”だと見込んで来たんだろう? 可笑しな子だ。無理だと思うなら依頼を断っても良い』
『い、いえ……』
『——信じる事。また信じられる事。この相互関係は、“我々”にとって一番大事な事だろう?』
双斬はフィードラスの言葉を肯定する術を持っていなかった。いや、彼が一体何について触れているのかという事がこの段階では分からなかったというのが正しいだろう。
彼は、返答に困っている双斬に一つ笑みを零した。
『君が信じてくれるなら引き受けるよ。期日は?』
『えっ、ああ……僕達、多分暫く帰って来ないので、その間に』
『曖昧だなあ。分かった。出来るだけ早く、だね』
『はい。お願いします』
『それまで、息子を頼んだよ』
それはフラッシュバックだった。双斬はビクンと何かに反応して、フィードラスと目を合わせようとした時には既に、彼の姿はなかった。
一度何処かで、全く同じ台詞を、全く同じ声で。言われていたような気がする。
暫く宙に浮いていると、嗚呼。
確かに彼は思い出して。少し笑って。ふっと闇夜に消えた。
「はァ——!!」
幼い少年の細い腕が、激しい風の刃を連れて空間を裂く。レトヴェールはその威力に圧倒されたせいもあって、一瞬隙を見せた。彼の双剣は強く弾かれた。
双斬はあまり次元技を使わない。己の腕と気迫が、レトを圧すのに十分すぎた。然しレトも、負けているばかりではいられない。
繰り出される荒々しくも力強い。双斬の剣技を、上手く躱し始めた。
「く……!」
「今度はこっちだ!! ——十字斬りィ!!」
重なった二つの、空気の太刀が切り裂いた。真正面から飛び込んでくる刃に双斬は、片手で。
左腕に力を入れたと思うと切り捨てるように真空波を薙ぎ払い、駆けた。
「なっ!」
「——十字斬りィ!!」
双斬もまた——“次元唱”を唱えなかった。
至近距離で放たれる。難なく自分の次元技を躱されてしまった驚きでレトは、痛感した。
——違い過ぎる。レトの知っている十字斬りではまるでなかった。
「うああ——!!」
細い真空波ではない。レトが普段目の前にしているそれではない。
間違いなく“刃物”のようであった。研ぎ澄まされた刃先、波が空間を裂く速さ。一撃に込められた重さ。
全てを取っても、レトが生み出す技では及ばない程。
凄まじく悍ましくて——ただ、怖い。
本当に同じものを扱っているのか。同じ武器をその手にしているのか。
使い手が違うという事実がここで顕れる。千年のブランクを何食わぬ顔で、徐々に埋めていく英雄は。
器用に、くるくると、双剣を手元で躍らせ——距離を詰めた。
「「——ッ!」」
全く同じ金属音が軋む音に、苦しいレトの表情と、覗く双斬が力むそれが重なった時。
均衡を保っていた力は反発するように。両者共々、後方へ跳んだ。
「はあ……はっ……!」
「息、上がるの早いみたいだね。まあ少し前までと比べたら相当良くなったと思うけど」
「うるせえな……ちょっと疲れただけだっつうの」
「そうそうその意気だよ。弱音は吐いちゃいけない。君の弱気な一言が、全次元師の重荷となって嵩張っていく事を忘れないでね」
「分かってるよ、んな事は」
「……変わったね」
「は?」
「何でもないよ! さあ続けようか——君か僕か、“英雄”に相応しいのが一体どちらか!!」
レトヴェールの息は既に整っていた。少し体を休めただけで、こうも変わる。
双斬は具現化された千年前の肉体でまた駆け出した。まだ慣れない。もう少し自由に、動きたい。
縦横無尽に飛び回る、柔らかい肢体にはまだ足りない。
(レト、僕は……僕が出せる最大のコンディションで、君と——戦いたいんだ!)
千年のブランクを抱えた英雄は、たった十五、六年生きてきた少年に、願う。