コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.8 )
日時: 2015/07/12 21:32
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)

 第305次元 傷だらけの英雄達の想い

 「「————第二覚醒!!」」

 ほぼ同時刻。全く違う次元の力を胸に二人の少年は心のまま叫ぶ。
 目の前には千年前、戦乱の地で数多の兵を連れその前線を駆けていた若き英雄。
 サボコロは燃えるような紅い髪、激しく揺らして拳を振り落とした。

 「炎神撃ィ——!!」
 「——!」

 対するは古代の英雄炎皇。第二覚醒を得た現代の英雄へ、同じようにして向ける掌。

 「第八次元発動————炎撃ィ!!」

 ぶつかり合う、炎と炎。熱気が辺りを覆うのと、全く離れた部屋で——“弓の矢”が飛び交うのとはまたしても同時だった。金色の瞳を細めて、エンは強く矢を引き絞る。
 荒れ狂う炎を押す、押し返す。第一覚醒と第二覚醒の壁が遂にここで——立ちはだかる。

 「なっ——!?」
 「いっけェ——!!」

 強さを増したサボコロの炎が完全に炎皇の炎を呑み込んだ。同時に炎皇へ振り掛かる炎の塊。強い衝撃に弾き飛ばされた炎皇が、派手に床を転がる。汗と火傷の痕に塗れた、炎皇の顔から、すっと熱が冷めた。

 「うっしゃオラァ!! 見たか炎皇!!」
 「……はっ……はぁ……っ」
 「でもお前を完全に倒すまで俺は——!」
 「——いや、降参だ、サボコロ」

 立ち上がって、サボコロより少し低い彼は、自身の額にしていたハチマキをするりと落としてしまう。幼い顔つき。何度も仲間の亡骸を抱きかかえてきた腕はぶらんと力を失った。

 「……! はあ!?」
 「正直、俺とあいつは……サボコロ、エン。お前ら二人とやりあう意味がなかったんだよ」
 「ちょ、い、意味分かんねーよ!! だってお前まだ全然戦えそうじゃんよ!」
 「このまま長期戦に持ち込んで、体力バカのお前に敵うと思うか? 悔しいけど勝てる気がしねえ。第二覚醒を会得した時点でお前達は、俺達二人を超えてたんだよ——とっくにな」
 「違え!!」
 「!」
 「全力でかかってこいよ、炎皇! お前まだまだやれるんだろ!? お前と戦う事で、俺は強くなれるんだろ!? だったら——!」
 「——全力だ……サボコロ」

 有次元の世界で世界の神、【WOLD】と対峙する事になったサボコロとエンは、努力と葛藤の末に新しい力、第二覚醒を手に入れた。
 その時点で既に、二人の力は嘗ての炎皇と光節を超えていたのだと、炎皇は言う。
 恥ずかしいよ、と小さく笑って。炎皇は顔を上げた。

 「千年前、英雄っていう名を担いでた。でも今悔しくて、でも、嬉しくもある自分が何だか可笑しいんだ。サボコロに超えて欲しいのかそうじゃないのか、悩みながらお前と戦ってた。でも今、気付いた」
 「炎皇……」
 「サボコロ、俺を超えてくれて——ありがとな」

 一体何年お前と一緒にいたと思ってんだ。炎皇はにっと笑って、今まで武器として戦っていた、主人に白い歯を見せた。
 千年前なら、誰かに打ち負かされた事で明らかな悔しさがあった。でも今は誰かと肩を並べて戦場を駆けるのではなくて、誰かの力となって支える事に馴染んでしまって、そこがあまりに居心地が良くて、それが使命なのだと理解した。
 サボコロの為にサボコロと戦った。サボコロが、千年前の炎皇より強いと分からせる為に。次元師にとって大事な——“自信”をつけさせる為、だけに。

 「炎皇……っ、お、俺……! 神族に勝ちたい、お前らを殺した神族を……今度は俺らが必ず倒すんだって……だから、だっから……!」
 「おいおい、今から泣いてどうすんだよ……その涙は、神族ぶっ倒した時に、取っとけ……って……——」
 「最後まで、俺と……っ“俺達”と、一緒に————戦ってくれ……!!」

 初め、現代で目覚めた時。まさか人間の心の中に住む事になるとは思っていなかった。極悪非道な人間もいる。無慈悲な人間も、狂った人間も。それなのに。
 どうしてここまで真っ直ぐ、正直で無鉄砲で——暖かい、人間に巡り会えたのだろう。
 力を貸したい。支えてやりたい。自分達がいつか味わった屈辱を、晴らしてくれると言ったこの人と。
 一緒に戦いたいから——炎皇は強く頷いた。

 エンと光節も、そうして戦いを終えた。全てを託して欲しい。必ず勝ってみせると強い意思を見せたエンに、光節も炎皇と同様に言葉を交わした。共に最後まで戦う、と。



 右も左も下も、ずっと上に見える天井もただただ真っ白い。仰向けになって倒れている二人は、息を吸って零すタイミングもまちまちながら、額から流れる冷たい汗の感触だけを覚えている。
 一言の会話のないままにレトヴェールは、切り刻まれ痣も増えた四肢がべったりと地面に張り付いてもう動かない事を知っていた。
 何時間、何十時間という時間がこの時既に過ぎていた。もう片方の僅かに小さな英雄も、同じ事を思っていただろう。

 「はぁ……はっ……あー、もう動けねえや」
 「そう? まあ僕も大体……そんな感じだよ」
 「……どのくらい、やってたんだろうな……俺達」
 「さあ……ね。恐らく……一日は、経ってるんじゃないかな」
 「起きたら再開するか? 決着つけようぜ、双斬」
 「まさか。もう体力の限界だよ。大分この身体には慣れてきたけどもうくったくただ」
 「情けねえな。英雄だったのに」
 「……そうだよ。“英雄だった”んだ」

 無限に広がる空みたいな白を仰ぎ見た。そうだ。千年前の神人世界大戦は、もっとどんよりした、果てしない曇天だった。
 来月に迫った第二次の大戦では一体どうなるだろうか。レト率いる英雄達は皆優秀で申し分ない事は分かっている。それでも心配で仕方がないから、こうして過去の自分と今のレトを比べるなんて事をしているんじゃないか。
 双斬は腕を上げて、ぽすっと目を覆った。広がる闇の中で、静かに喉を鳴らした。

 「レト……バカな事を聞いても良い?」
 「……良いよ。何だよ」
 「神族に、勝てるかな」

 神の力を侮っていた訳でもないのに。負けてしまったのには。
 他の何でもない心の弱さがあったからだろうと気付かされた。千年も経った今になって。
 次元技とは心の鏡だ。全く忠実に現れてしまう。そしてその次元技の中に、少年の心の中に今——居座って約十年。
 心の鏡とは良く言ったものだ。

 「勿論、僕は勝って欲しいと思うし。最大限に力を貸すよ。今ここで君が僕に神と戦う権利を譲るというのなら、手は抜かない。全力で戦う。でもね」
 「……また負けたら、どうしようってか」
 「そうだよ。結局僕は千年前負けたんだ。臆した。怖かったんだ……どうしても、勝てる気がしなくなって————」

 ザクッ!! ————と、影に覆われた双斬はその視界にいっぱいのレトを見た。

 「だから“今”俺が————此処にいるんだろ?」

 顔の真横に短剣の銀。ギラリと光って、暫し驚いて——双斬はにやっとした。
 腰に力を入れた彼はそのまま、レトの腹を蹴り上げた。レトが弧を描いて後方へと跳んだその下を滑って軽やかに、彼は立ち上がった。
 ボロボロの衣服をはたいた。いてて、と頭を摩って体を起こすレト。

 「『くったくた』じゃあなかったのか? 嘘つき」
 「……全く君って人は。体が壊れるまで戦うつもり?」
 「ああ、そうだよ——神と戦う覚悟ってのは、そういう事だろ?」

 幾つも、生々しく切り傷を負った右腕を持ち上げる。力を入れるだけで細い傷痕から血が噴き出し、脚もガタガタと震えているのに彼という人間は。双斬は呆れながらに、同じように同じ武器を構えた。

 「レト、どっちが強いか——そろそろ決着つけよう」
 「何だよ、やっぱり決着つけるんじゃねえか。——良いよ、やってやる」

 睨み合う両者の目が本気を物語る。元力は残り僅か。ここ数ヶ月、いつだってギリギリ生と死の境界線上で戦ってきたレトは、それが心地良いとさえ思えるようになっていた。
 ロクと背中を合わせていた頃には味わえなかった、たった一人で戦うという感覚。
 ロクに頼ってばかりでは決して体感し得なかった、その背に負う責任の重たさが。

 この瞬間。その両腕に込めて——願う。


 「「第九次元の扉————発動!!!!」」


 右の手には、自分の正直な心を乗せて。
 左の手には、大切なものへの誓いを、乗せて。