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- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.9 )
- 日時: 2015/07/19 00:50
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第306次元 手と手を
「「——!?」」
激しい轟音に、端と端の部屋にいたエンもサボコロも酷く驚いた。一体何事かと扉をこじ開ける。
開くと同時、立ち込める煙が二人の顔をすぐに覆った。咳込んで何とか薄く目を開くと。そこには僅かにレトヴェールの金髪と、短く明るい茶髪が見えた。
「な……っ!」
「まさか……レトと双斬か?」
白くて綺麗だった広い空間が跡形もない。床を打ち壊して瓦礫と岩と土がその白さを汚して、遠くの壁すらもひびが入りボロボロ崩れ始めて。
煙が淡くなっていく。灰色がだんだん晴れていく。
剣を両手に立っていた英雄二人は————“片方”、崩れ落ちた。
「——完敗だよ、レトヴェール……」
途端、体中から細い閃のように血が真っ直ぐ噴き出した。傷を重ねた双斬が体を床に叩きつけたのは、真っ直ぐサボコロの正面での事だった。
何もここまでしなくとも。サボコロは喉まで差し掛かった言葉を——次の瞬間、呑み込んだ。
「……やっぱり、敵わない……な。——有難う、レト」
双斬の小さな小さな、呟きを耳にした。丁度瓦礫の影に隠れられるスペースを見つけ身を隠す。同じように傷を負ったレトがゆっくり歩み寄る。
「どうだ、諦めて俺に譲ってくれるか? 双斬」
「……ああ、完敗だよ。大完敗だよ。ったく悔しいなあ」
「——……あー、疲れた!」
少し前と同じように、今度はごろんと床に転がった。さっきよりも近い。隣には互いの顔がある。然し清々しい表情で、しっかり目を開いて、また真っ白な空を仰いだ。
「双斬、バカな事を聞いても良いか?」
「今度は君が? 良いよ、言ってご覧」
「————最後まで俺と一緒に、戦ってくれるか?」
サボコロとエンが、炎皇と光節に聞いたのと同じような事を。
レトは双斬に問う。その答えが何となく分かっていたとしても。
確かめたい。もう一度。初めて「双斬」だと口にした幼いあの日から。
どれ程時間が経って、どれ程あの日より、変われたのか。
「……うん。戦うよ。君と最後まで」
「随分弱弱しい返事だな」
「僕は疲れてるんだよっ、君のせいでもう立つ力もないんだって!」
「ははっ。そら悪い事したな」
「——……戦うよ。君と、最後の最後まで」
「ん……——それなら良かった」
ひょいっと立ち上がったレトが、寝転がる双斬に、手を伸ばした。
その手は少し赤く滲んでいて、擦れていて痛々しくて。でも、誇らしくて。
「寝てる時間はねえ。さっさと休んで、また再開するぞ」
「はははっ、何それ! レト鬼畜!」
「うるせえな。ほら起きろ——————“レイレス”」
はっとして、レトの清々しい顔を見た。大事な人を自分の手で守れなった、その名前は。
千年後の未来にもう一度響きを取り戻した。新しく生まれ変わったような気さえして、彼は。
レイレスは、今までで一番無邪気に、笑って——手を取って立ち上がった。
「レイレス、かあ……悪くないね!」
「だろ? 何か“双斬”だと本当に武器扱いしてるみたいじゃん」
「うん。有難う……——ねえ、レト」
「ん?」
「君は、失くしちゃだめだよ」
レイレスの真剣な瞳が突き刺さる。嘗て失くした、愛も伝える事の出来なかった大事な人を思い出して。
幼いながらも純粋で賢明だった。恥ずかしくて、なかなか伝えられなくて、後悔する事になるなんて思ってもいなかった。
「目の前で、大事な人を失くす痛みを、君が知る必要はない。あまりに無力で、僕は自分の非力さを思い知った。立ち直れなくなって、仲間に迷惑を掛けてこの様さ。……何となく、僕と君が似ているような気がして」
「“風を使う次元師”ってだけか? それとも、一番大事に思ってる相手……だからか?」
「どっちもだよ。君の先祖のポプラ・エポールも……目の前で恋人を、妖精フェアリー・ロックを失ったから。全部重なって見えちゃうんだよ」
「……安心しろ。失ったりしねえよ————“千年”、経ったんだろ?」
レトはレイレスの頭に手を乗せた。泣きそうな彼は、目を伏せる。
「……それもそうだね。あれから千年も、経ったんだ」
「だから気合入れていこうぜ。兎に角あと一ヶ月。死ぬ気で強くならなきゃな」
「最後の悪足掻きってとこだね。しょうがないから付き合うよ、どこまでも」
「ああ、頼むぜレイレス————最後まで、“運命”ってやつに抗う為にもな」
レトがもう一度手を伸ばす。気が付いたレイレスがそこに自分の掌を持っていく。
——パンッ、と、お互いに手を弾いた。
「おーおー、やっと終わったかー? レト、レイレス」
「! サボコロ、見てたのか?」
「ああ、序にほれ、エンもいるみたいだぜ?」
「ふん。全くクサい奴らだ。その様子だと傷も絆も深まったようだな」
「エンお前上手いな……」
「キールアんとこはまだなんかなー」
「ん。さあ……音は全く聞こえてこねえけど」
六人が和気藹々と話す光景を、壁に寄りかかってレトの父、フィードラスが眺めていた。
成長した息子が戦う姿を初めてその目にして後悔をする。きっと人族代表決定戦では、その緊張下でより強く輝かしい戦いぶりを見せてくれていただろうに。
それだけではない。それ以前も乗り越えてきた困難、絶望、数多の感情渦巻く彼の成長の変化を見る機会がなかった事、仕事を言い訳に子供から身を離していた事が全く惜しい。
レトの戦う様子を見る事が出来ただけでも、レイレスの話に乗った甲斐があった。と、同時に、良くもまあここまで派手に壊してくれたなと、元の姿かたちもない会場に涙した。
彼はわざと派手に手を鳴らして、壁から背を離しレト達の許へ近寄った。
「いやあ、良かった良かった。強いじゃないかレトヴェール」
「……親父」
「お前が実際に戦うのを見たのは初めてでね。感動したよ。流石は人類の代表だな」
「親父がいなくなってから随分経ったからな。そりゃ良くも悪くも変わる」
「素直じゃないな。きっとロクアンズも強いんだろうな、お前と同じで」
「……強いよ。自慢の義妹だからな」
「そうか。それじゃ一旦地上に戻ろう。今後この施設を使うかどうかは君達に任せる。自由に使ってくれて構わないよ。私は少し残って、壊れた箇所の修繕と強度の改善をしようと思うから、先に上がっておいてくれ。整備が完了し次第レトヴェールの通信機に連絡を入れよう」
「ああ」
「よっしゃ! 飯食って休んだらすぐ再開だぜ!!」
「俺も少し休む。時間が無いとは言え、体を壊したら元も子もないからな」
擦り切れた隊服を翻し、出入り口へ向かう。扉を開けたところでひょっこりと、見慣れた顔と金髪が目の前に現れた。
「! キールア、やっぱりもう外にいたのか」
「うん、先に戻ってもあれだから待ってたの。三人ともどうだった?」
「自分と同じ次元技を使うヤツと戦えるってスゲーよ! 戦い方っつうか何つうか学べるしよ!」
「千年前英雄だった者と一戦交える事が出来たのだ。かなりの報酬ではあったな」
「ははっ、そうだね。私もかなり“ミリア”にしごかれちゃった」
「ミリア? ってまさか……」
「うん! 勝った時教えてもらったの! 百槍ね、ミリアっていうのが本名なんだって!」
「ほ〜、んじゃ俺も後で炎皇の名前、教えてもらおっと!」
「光節の名前も気になるところだな」
「……? レト、どうかした?」
「え? ああ、いや。それよりお前大丈夫か? かなり傷があるみたいだけど」
「うん。平気だよ。確かに戦闘中はちょっときつかったけど、さっき慰楽を使ったから」
「ん……そうか」
扉の奥から聞こえてくるレト達の楽しそうな話し声を背に、フィードラスは歩き出した。
レトが崩した会場を、首を回しながら真っ直ぐ前へ進んでいく。止まる事なく進んで進んで、突当り。
キールア・シーホリーが、百槍のミリアと戦った部屋の前。
彼は扉を押し開け、表情を歪めた。
「————やはり、か……」
どの部屋にも辛うじて残っている白さが、ない。
高い位置に設置していた筈の電灯が跡形もないせいだろう。闇に包まれた空間。完全に破壊された景色。大きな建物が派手に崩れ落ちたのを、想像してみると良く似ている。岩と大きく砕けた瓦礫と、飛び散った血痕が真新しい。爛れた土が地面を支配していた。
これは時間の問題かもしれない。フィードラスは眼鏡をくいと上げてから、踵を返した。