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- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.11 )
- 日時: 2015/08/02 12:49
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第308次元 響け英雄の心
第二次神人世界大戦に向けての会議では、大戦の開始は24日の午後6時からだと伝えられた。それは神族側の意思であり、数週間前にそうするようにとの要求が、セブン宛に手紙で届いたのだという。
封筒には神章が刻まれていた。神章は人間の手で描くと、その呪いで描いた本人を殺してしまう程威力がある為悪ふざけで人間の描けるものではない事から、ゴッド張本人からの手紙だという事が分かった。
灰色の冬空に、もくもくと雲だけが浮かんでいる。これから戦争が始まるなんて知る由もないのだろう。敷き詰められたそれはゆっくりと流れていく。
戦場は未開拓地、というより千年前戦争で滅んだエルフヴィアという国だった土地。昔のまま、瓦礫や岩や砂で覆われ、荒んだ大地がただ地平線のように広がっていると聞いた。メルギースから酷く遠くにあるその国にはもう蟻一匹立ち寄らない程生気もなく、無駄に広い土地で周りに人間もいない事から戦場に選んだとされている。
レトヴェールは、誰もいない本部の廊下で、窓を広げて空を見ていた。彼はこうしていつも空を仰いでは、何となく時間を過ごしている事が多かった。
時間は11時前後。12時前には本部を出て、戦場に赴くらしい。一通りの準備はしてある上時間にもまだ余裕があるが、それでも彼はそこから動けずにいた。
今日、一年前に。
目の前から姿を消した義妹に、会う日が漸くやってきた。
「ロクの事、考えてるの?」
「! ——キールアか……あれ、そんなリボン持ってたか?」
「ああ、これ? ——うん。お父さんとお母さんから、誕生日プレゼントだ、って。おじさんに渡されたの。千年前にアディダスが使ってた物なんだって」
「ふーん……」
普段は髪ゴムで二つに縛っているキールアの金色の髪には、良く映える菫色のリボンが施されていた。
千年前、メルドルギース戦争の最中、アディダスが同じように髪にしていた物だが、どうやら敵の攻撃で綺麗に二本に斬り分けられてしまったらしい。
先祖代々密かに受け継がれていたそれを、家族の死後何年も後になって、16歳の誕生日プレゼントとしてキールアの手に渡った。キールアの両親は自分達が剣闘族に命を狙われている事を当然知っていて、運良く金の瞳を持って生まれたキールアに生きる可能性を見出しこうした形で彼女の生を祝ったのだった。
「いよいよだね。何だか嘘みたい。今から神族と、戦いに行くなんて」
「怖いか? キールア」
「……どうだろう。でも、当然だけど、次元師になる前まで、考えてもみなかった事だもんね」
「代表にならなきゃお前は、神族と戦う事もなかったのにな」
「ふふ。そうだね。でも私、こうしてレトと肩を並べて、同じ事を、同じ恐怖を、語り合えるんだって。変かもしれないけど、嬉しく思うんだ」
「……」
「ロクに、会えるね」
この一年。夢みたいな出会いを繰り返してきた。心の中で、空の上で、目の前で。彼女は神になる前の、神だと自覚する前の無垢な笑顔でレトに微笑みかけてきた。
一年経ってしまったけれど、今彼女は何を思って、何をしているだろうか。こんな風に、レトやキールアを思い出した事が一度でも、あっただろうか。
窓から伸ばしていた両腕。右手をくっと持ち上げて、握っては、ぱっと開いた。その中には何もないのに。もう一度、を繰り返す。
「ああ。そうだな」
「……あ、そろそろ降りよう? もう時間みたい」
「——キールア」
「……?」
「今回のその、大戦の形式上、お前にもし何かあっても助けに入る事が難しい。酷な事を言うようであれだけど、一人にしても心配ないって、思い始めてるんだ」
「レト……」
「だけど忘れるなよ。お前は俺が守ってやる。絶対、守ってやるから————安心して、暴れてこい」
キールアを守り続けてきたレトにとって、残酷な戦場に一人彼女を置いてしまう事の辛さは想像以上のものだった。
然し。次元師になって、同じ戦場に赴いて、暫くして次元の力を失い直後、新しい次元の力を手にした彼女は瞬く間にその力で第二覚醒を成功させてしまった。駆け足で強くなる彼女を目の前で見てきた。
優しかっただけの少女は変わった。その選択が正しかったのかどうかは定かでなくとも、今正に同じ意思を掲げて共に神に抗おうとしている。その現状を夢にも思わなかった幼い頃に比べたら、随分と変わったのだと実感させられる。
「……ふ、ふふっ……あはは! 何それー! それが女の子を戦場に送る時の台詞!?」
「うるせえな。信用して言ってんだよ」
「有難う、レト。忘れないよ。貴方が守ってくれる事も、その信頼も。だからレトも忘れないで?」
「?」
「私はいつでもレトの……ううん————“エポール義兄妹”の味方だからっ!」
ロクを神と知って尚、臆さずに、彼女の傍にいた。遠い昔、自分に冷たかったレトはその面影を殺して、自分の前に立ってくれている。向き合って守ってくれている。
守り守られ、支えて支えられて。泣いて笑ってを繰り返して今日に至る、義兄妹とその幼馴染は。
もう一度、出会う。ただ無邪気で幼かったあの頃へ戻りたい一心で。
会える。会いたい。笑いたい。笑い合って今度こそ————その手を、取りたい。
「そうだな……俺も——————信じてる」
強い語尾で言い放った。レトもキールアも僅かに微笑んで、もう行かなくちゃと、忙しなく階段を下りた。
もしかしたら二度と下る事が出来なくなるかもしれない。当然のように毎日広がっていた景色を見るのがこれで最後になるのかもしれない。
それでも。足早に駆け下りる。何百何千何万何億——踏みしめてきた居場所から。
外へ出た。一年前に義妹が姿を消したその場所へ集まる戦士達が、清々しく立っている。
「おっせーよレト!! 待ちくたびれたぜ!」
「悪い悪い」
「貴様は人を待たせる事に長けているな。駆け落ちの話でもしていたか」
「あのなあ……」
「ごめんね待たせちゃって。もう皆集まってるよね?」
「みたいだな……って、あれ?」
「どうした、レト」
戦闘部班の班員副班、つまり見慣れた面子と総班代理に副隊長。
昨日の話ではその人員でメンバー構成をし、且つ当然の事ながら今大戦は次元師しか参加出来ない筈であるのに。
蛇梅隊総隊長ラットール・ボキシス。
戦闘部班班長セブン・コール。
科学部班班長————フィードラス・エポールが、次元師達の輪の中にいた。
「——はあ!? な、何でいんの!!?」
「あー……やっぱレトもそういう反応すると思ったぜ……」
「俺達もつい先程聞かされたばかりだ。……どうやら彼らも————“次元師”らしい」
「——!!?」
今日の今日まで黙っていた、と。中庭に集合と聞かされ着いてみれば、待っていたのは今まで次元師である事を隠していた上層部の顔ぶれだった。当然驚いたが、メンバーの大半は「なんかちょっと安心した」と口々に零していた。
「親父……っ、てめえ今まで隠してたのかよ!!」
「ははは! 次元師でないとは言っていないからな。いやあ、お前の驚いた顔は新鮮だよ。ハイ、チーズ」
「調子乗んな」
「セブン班長まで……どうして隠してたんですか?」
「んー? それはね、キールア——単純に君達を驚かせたかったのさ〜!」
「くそ! その顔腹立つからやめろ!!」
「元気があって宜しい。だがなレトヴェール君、嘘ではないのだよ」
「た、隊長……ってまさか」
「気付いたかね? そう。君達は今まで我々の事を、“上司”として信頼してきた。全く知らない他人の次元師より、普段から共に同じ飯を食らい、信頼してきた人間が傍で戦ってくれるという事に“安心感”を覚えただろう? 今日まで君達に黙ってきたのは、君達を更に安心させ、戦争に対してのモチベーションもより向上させる為だったのだ」
「次元の力は心の力。安心という言葉は心安らぐと書くだろう? 運良く我々三人は皆後方支援型の次元の力でね。君達の背中は必ず我々が守るから————振り返らずに突っ走って欲しい訳だよ」
蛇梅隊の総隊長に戦闘部班の班長。加えて科学者として名高い実の父親が。
同じ目標を掲げて背中を守ってくれると言った。広い背中に逞しい顔つき。戦闘部班の若者達の顔が、更に晴れ上がっていくのが分かった。
憎たらしいけど、格好良い。
同じ戦場に立てる嬉しさに身震いして、レトは真っ直ぐ前を向いた。
「皆————聞いてくれるか?」
若い英雄は声を出した。彼が英雄となった瞬間を、この場にいる者皆目にし、耳にした。
人類の代表は彼しかいないと決めていた他の三人の英雄達も、少年に向く。
「俺達は有次元の世界へ行って、神族を生み出した張本人【MOTHER】に会った。彼女は別れ際、俺達に——“ある言葉”を残してくれたんだ」
≪貴方達が、胸に抱くのは……“無限の可能性”……信じて、貫いて……——生きて≫
『神を救って』————その言葉が焼き付いて離れない。消えない。
マザーの言葉はまたしても、此処にいる次元師全員の心に強く響いた。
「……俺は、“人族代表”なんていうド偉い名前を受け継いだ。正直本当に俺で良かったんだろうかと思ってた。結局は“エポール義兄妹の片割れ”でしかないんじゃないかって、思ってたんだ」
義妹と共に戦っていた頃とは変わってしまった。背中の冷たさを知って、失って、ここまで立ち直れたのは。
決して自分だけの力ではない。当たり前かもしれないけど聞いてほしい。英雄は言葉を繋いでいく。
「義理の妹に、神族のロクアンズに堂々と会う為になろうとして——でも今はそれだけじゃない! 全ての次元師と、世界中に溢れる全人類の為に誓う!! ————俺は!!」
ロクアンズに救われた人間達の目が、優しげな瞳がじっと彼の言葉を聞いている。
もし、彼女が人間だったなら。間違いなく人族代表だった。
でも、彼女が神様だったから。仕方がなく自分が選ばれた。
そんな気がしていた。
「俺は、人類の代表として必ず——————必ず神の首を獲ってみせる!!!!」
————今になるまで、ずっと。
英雄の言葉が強く心臓を叩いた。重なり合っているような気がした。この場にいる全員の心と心が。
震えもしないで真っ直ぐ前だけ見据えるレトに、皆が頷き交わす。
今から始まる。千年に亘る永い因縁の終着点。
神と人が織り成す最終決戦の————————火蓋は切って落とされた。
「全力でいくぞ——————————絶対勝つ!!!!」