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- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.12 )
- 日時: 2015/08/10 10:35
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
- 参照: 最終章
第309次元 開戦
「ほらご覧、フェリー。紅い夕日が落ち闇夜と混沌していく様は美しいだろう? 千年前も同じような景色だった。この国は変わらずに美しい」
「……その美しい景色は、貴方が壊した事で生まれたんだろうけどね」
「はは、鋭いな————嗚呼、ほら、ご覧フェリー」
「……」
「千年前と同じ景色だ——————然し人間は、全く美しくないな」
神の司令塔は目を細める。金髪を一つに揺らした、人族代表を筆頭に続々と戦場へ足を踏み入れていく影。崩れて傾いた建物の上で、神族達は正しく人間達を見下ろしていた。
少年レトヴェールは、ある程度神族に近づいたところで歩みを止めた。
「……」
高くて良くは見えないが、確かにロクアンズのものと思しき淡い緑の髪が靡いていた。ベージュ色のコートで身を包み、フードを深く被っているせいか隠れてしまって顔色までは伺えない。一方、神の司令塔【GOD】は黒く長い髪を揺らして、レトと目を合わせた。
「ようこそ古の国エルフヴィアへ。辺境の土地までご足労頂き感謝するよ。気分はどうだい?」
「悪くねえな。今日に備えてコンディションも万全だ。——いつでもかかってこいよ、神様」
「君は清々しい程生意気だな————焦るな。直に鳴る」
同時だった。この国で唯一生きた、大きな時計塔が————午後6時の、鐘を鳴らす。
「さあ始めようか! 生きるか死ぬか、壊すか壊されるか——————“最期の狂宴”を楽しもう!!」
————12月24日、午後6時00分。第二次神人世界大戦、開戦。
砂が巻き上げられる。渦巻く豪風に包まれた神達は——刹那、姿を消した。
同時に戦闘部班の班長セブンの掛け声が響く。前線に上がっていく次元師達は次々に立ち尽くすレトヴェールを追い越して、遠くに見える、怪物じみた陽炎に向かって走り去っていく。
夕空は完全に閉じて、暗がりの曇天がどんより空を飾る。その下を激しい剣幕で駆けて行く次元師達の中、たった一人だけ速度を落としてレトの前に立った。
「レトヴェール」
蛇梅隊の隊員で、後方支援を申し出た三人の内一人。科学部班の班長フィードラスは唯一立ち止まって、誰も見えなくなった中で二人佇む。ただじっと、暫く目を合わせて。彼は口元に笑みを浮かべた。
「お前の見事な采配を期待している。頼んだぞ」
頭に優しく掌を乗せてから、フィードラスの姿はだんだん小さくなっていった。遠ざかる怒号。大きなリュックを肩からどすっと下ろして、顔を上げた。再び静けさに包まれた彼は深く息を吸い込む。
「……レト、始まったね」
「ああ」
「君は僕を超えてくれた。もう僕から君に教えられる事は何一つない。だからこそ、この戦いに勝って————また皆で、笑え合える日々に帰ろう」
「……ああ。分かってる」
「……君に、全てを託すよ。これが最後だ。——どうか、悔いのないように」
精霊レイレスは泡のように姿を消してしまった。耳に装着した白い通信機も、身を覆うジャケット型の隊服も、新調したばかりで真新しく、し慣れない。一応機動上の問題がないか確認する為何度も試着したものだが、極稀に突然動かなくなって連絡不可になる事もあった時計型の通信機と、長年使い込んで縒れ切ったフード付きのコートが妙に恋しくて敵わない。
ただ、その首元に光る、鍵のペンダントだけが変わらず輝きを放っていた。
『——こちら前線A部班!! 地区1-3に到着!!』
『こちら後援A部班! 地区1-2に到着しました!』
『こちら前線B部班——』
目的地点にまで辿り着いた各部班の連絡が次々にレトの耳へ入ってくる。蛇梅隊の隊員である前線部班を先頭に、蛇梅隊以外の次元師が自然とその後ろに、そして後援部班が後に続いている。
そして。
『こちら“特攻部班”——————前方に元魔の姿を確認』
“特別攻撃部班”————エンとサボコロの二人組は、近づいてくる大きな輪郭を目にした。
「お、おいエンあれ……!」
「ああ……どうやら————“普通”ではないようだ」
相変わらずの巨体がぐらっと景色を揺らした。ただいつもと違うのは、その形状が——“獣”に似つかわしくないという点。
頭上に伸びていた角はなく、牙も見当たらない。丸い瞳に差していた光は失われ、機械的に赤く蠢いている。焦げ茶のような荒んだ色をしていた肌も何を思ってか真っ白い。無駄に長い手足は平べったく、口を開けば牙は見えずとも青い液体が口角から零れている。だらしなく涎を垂らす姿だけは変わっていないらしかった。
「す、っげ……これ、ホントに元魔か?」
「臆するな。俺達はキールア一人に神族を任せて此処にいる。——弱音は許されないぞ」
「ああ、わーってるよ! 何の為に俺らが————先頭にいると思ってんだ!!」
光る、心と全身が。次元師の持つもう一つの世界をこじ開ける。
少年達は紡ぐ。
「「次元の扉————発動!!!!」」
『さあ、始めようか』————そう言った神様の創り出す、魔物。
この一年の間に変化を見せた形状、魔物というよりエイリアンに近くその巨体は相も変わらず。
神の使者とも呼ばれる元魔を目の前に、この場所で、まるで神族からの挑戦状みたいに。現世に放たれた魔物は高々と吠え散らす。
「最初から飛ばすぜ“ギガル”————炎撃ィ!!」
炎の次元技“炎皇”は————千年も前の名前を響かせて、炎は轟き渡った。空高くに位置する元魔の顔面に吹きかかる炎は元魔の態勢を崩す。然し暫し足を躍らせた後、すぐにむくりと顔を起こした。赤く明るい瞳が再び夜空に映える。
「くそ……! いつもより硬ーぞこいつ!!」
「どいていろサボコロ!! ————俺に、撃ち抜かれたくなければな!!」
跳んだサボコロの、遥か下地面の上に立つエンは腰に力を入れた。真っ直ぐ軸もブラさず————見捉える。
「真閃————ッ!!」
光を帯びた一閃の刃が——軌跡を描いて跳んだ。物凄い速さで夜空に放たれる。元魔は少し屈んで————真正面から矢を受け止めた。
「「——っ!!?」」
元魔の身体と矢先が接触する、瞬間。
————英雄の放つ矢を、その大口から繰り出される怒号が掻き消した。
「——は……ッ!?」
「どうやら、一筋縄ではいかせてくれないらしい……——」
今までの荒々しい叫びとは打って変わって、高くはち切れそうな金属音に耳を塞ぐ。サボコロは着地して、間もなく駆け出した。
「これならどうだ!! ————炎弾!!」
炎の弾が次々と、サボコロの体の周りに出現する。両腕を大きく振って、弾は真っ直ぐ元魔の腹部を——捉えた。
「よっしゃ——!!」
——然し。
「! ————前を見ろサボコロッ!!」
「——!?」
炎の塊は確かに元魔の腹部に跳んで、衝突し————“相殺”された。
「な……っ——!」
元魔が特別に何をした訳でもなかった。ただ“普通に”殺された炎が、しゅぼっと消えていく。
サボコロも手を抜いていない。寧ろ力は入れた方だ。それなのに。
気味悪く見慣れない元魔の、白い身体はそれを受け流し、飄々と両腕を揺らして一歩、サボコロに近づいた。
(まずい!! この態勢じゃ受け身が取れ————!!)
平たく白い、掌がサボコロを覆う。
「サボコロ————!!」
強い衝撃に包まれた。ビタァァン!! と鞭打つ音が聞こえると、サボコロはまるで隕石のように、圧倒的な速さで大地に叩きつけられた。体と地面のぶつかり合う音。凄まじい勢いで土埃が立ち込める。
(な、何だ今の強さは……!? ————今までの比ではないぞ!!)
全く見慣れない外観。聞き覚えないのない叫び声。そしてその力強さを。
目の当たりにして焦る英雄達をその目に、神の筆頭は厭らしく口元を歪めた。
「たかが元魔だと思っていると——————その命を軽々と落とす事になるのにね」
くすくすと。神様はまるで子供みたいに目を細めて、笑う。